ほぼ日刊イトイ新聞

2020-07-31

糸井重里が毎日書くエッセイのようなもの今日のダーリン

・数日前、日曜日のことだった。
 娘の娘がうちに来てくれたので、
 公園で遊ぼうと思ったのだけれど、
 雨が降ったりやんだりでなかなか外に出られない。
 夕方になりかけたころ雨があがって、大きな虹が出た。
 大人たちは、その虹の大きさや完成度に感心しながら、
 それぞれのカメラに、虹の証拠写真を収めていた。

 そして、それぞれの大人が、この見事な虹を、
 生まれて1年と9ヶ月の人に見せたくて、
 抱っこして外が見えるようにして、
 「ほら、虹だよ、虹」と、大きな虹を指さした。
 赤、オレンジ、黄色、緑…と、色の名前を言うものや、
 「おっきいねー、まるいねー」とかたちを伝えるもの、
 ひたすらに「虹、虹」とつぶやくものなどがいた。
 しかし、見せたい相手の1歳9ヶ月さんには、
 どうやら虹のことがわからないらしいのだった。
 しばらく前には、窓の外を飛ぶハトを目で追って、
 「トリ」だとか「ハト」だとか言っていたのに、
 ハトよりずっと大きな虹は目に入らないらしいのだ。

 まだ虹というものを知らないので、
 目に入ってこないのかもしれない。
 それは、オリオン座という星座を知らない人には、
 「オリオン座」は見えない、というようなことだろう。
 また、2歳のこどもの視力が0.5だというから、
 物理的に見えてなかったということなのかもしれない。
 ほんとうの答えは知らないのだけれど、
 虹が出ていても見えないくらい、
 まだ1年9ヶ月しか生きてないこどもにとっては、
 この世界は知らないことだらけなんだと思うと、
 逆に、ちょっとうらやましいような気にもなった。
 これから、いつか、虹というもののことを知って、
 空に、ほんとの虹を見つけたときには、
 どんなに驚くだろう、うれしがることだろう。
 遠くに描かれたあんなに大きな「空の落書き」は、
 まちがいなく想像を超えていると思うんだよ。
 この先、虹ばかりでなく、象さんやら、カブト虫やら、
 海やら、いろんなものをはじめて見ては、驚くんだな。
 ぼくらのだれもが経験してきたのと、同じようにね。

今日も、「ほぼ日」に来てくれてありがとうございます。
71歳とかになっても「はじめて」はいっぱいあるけどねー。


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