石戸 これは小林さんと百田さんに共通していますが、彼らの中に間違いなくあるのは、読者と市場に対する信頼です。買ってくれる人たちへの敬意、そして市場的な価値――部数とか視聴率――を支えてくれる人々や数値への絶対的な信頼があります。部数が取れるもの、視聴率が取れるものが偉いんだという発想です。
右派に批判的な人たちも、ここは見逃してはいけない。今の出版マーケットでは右派本が隆盛だと言われています。それの転機になったのは、僕の本でも書きましたが小林よしのりさんの力でしょう。
小林さんの読者と市場への信頼が、左派よりも強かった。つまり、彼は経済と向き合ってきたわけです。左派のほうが経済に対して弱かったのは事実です。これも軽くみていはいけないと思うのです。
ブレイディ 本当に軽くみてはいけない。でも広い意味での文壇も含めて、インテリな左派たちはマスに広がることを小バカにしていましたよね。売れるものはいいものじゃない、大衆に支持されすぎるのは良くないという価値観が今でもあるように思います。
それと、お金を稼ぐことを悪だと思うことが、左派なのに財政支出を拡大したらダメだというのに、見事につながっていますよね。
石戸 清貧の思想ですね。僕はなじめないですね。特に日本では、広く左派にいる人たちの経済政策がやっぱり弱い。それはシステムの中にいるのに、システムを打破せよと言っていればよかった時代の産物だと思います。どうやってシステムの外に自分が出られるのかと聞いても誰も答えを持っていない。現実的には出られないんです。
ブレイディ 本当に出たいなら出て、どこかで自分たちのサークルをつくって、自給自足で本とか印刷して、いいものをつくって読むしかない。でも、自分たちもちゃんとビジネスをしていて、アマゾンの順位とか気にしているわけなので、そこは謙虚に自らの中にある矛盾とともに生きる必要がある。
百田さんも読者と毎週サインして、握手しているわけでしょ。