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「右派が持っていて左派に決定的に足りないもの」とは一体何か?

隣に座って話を聞くことが本当に大事
ルポ 百田尚樹現象〜愛国ポピュリズムの現在地』著者でノンフィクションライターの石戸諭さんと、ベストセラー『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』の著者で、新刊『ワイルドサイドをほっつき歩け』も大きな話題となっているブレイディみかこさんの特別対談、後編!

前編はこちら:安倍首相も小池都知事も「空虚だけど支持される」現実をどう理解するか

文学に人生を賭けようとした百田青年

石戸 僕は『ルポ 百田尚樹現象〜愛国ポピュリズムの現在地』の取材で、百田さんがあまり明かしてこなかったこと、しかし非常に大事なファクトを見つけました。彼は同志社大学の学生だった1980年に、『群像』の新人賞に小説を応募していることです。「古本屋」という小説を書いていて、一次選考を突破し、紙面に名前も掲載されています。

当時の『群像』の新人賞は、百田さんが応募した前年は村上春樹さん、後年は笙野頼子さん、数年前には村上龍さんが『限りなく透明に近いブルー』で受賞しています。別部門ですが、高橋源一郎も同時代に『群像』からデビューしている。

今の日本文学界のスターダムが揃う文芸誌だったんです。百田さんがわざわざ『群像』の新人賞を選んで応募していた。僕はここに文学に人生を賭けようとした青年の姿を見てしまうんです。

僕は小説にはいかなかったけど、学生時代に僕も文章を書いていくことに賭けたところがあった。藤岡信勝さんの近くにいた教員や小林よしのりさんみたいに、僕も左派やリベラルにげんなりしたことがたくさんあって、ついていけないなと思った過去があります。

この本を書きながら、もしかしたら自分はこっちに行っていたかもしれないなと思ってしまうこともありました。決してまったくの異物だっていうふうには、それは百田さんも含めてなんだけど、僕は全然思えないんです。

 

ブレイディ 百田さんは2013年に『海賊とよばれた男』で本屋大賞を受賞していますよね。ちゃんと狙って、きっちり受賞したんだろうという印象です。読者や書店員からちゃんと支持を集めて受賞している。それはある意味、自分のオーディエンスは文壇関係者ではなく、一般読者なんだというスタンスが功を奏したとも考えられます。文学界での反エリート意識のようなものもあるんでしょうかね。