2020年7月31日 06:00
デジタルリテラシー向上機構というNPO法人で活動している筆者ですが、それでもネット詐欺メールに素で引っ掛かってしまうことがあります。しかも、“最凶”のマルウェアだったので、恥を忍んでそのリスクをご紹介したいと思います。
あなたの両親も“ネット詐欺”の餌食になっているかもしれません――その最新の手口を広く知ってもらうことで高齢者のデジタルリテラシー向上を図り、ネット詐欺被害の撲滅を目指しましょう。この連載では、「DLIS(デジタルリテラシー向上機構)」に寄せられた情報をもとに、ネット詐欺の被害事例を紹介。対処方法なども解説していきます。
筆者は6月に入り、イギリスからウイスキーを樽ごと購入すべく、英語で頻繁にメールをやり取りしています。そんな中、「Invoice INV※※※※※※」というメールが届きました。
「お世話になっております。添付の請求書をご確認ください。請求日6月22日、金額1468ドル、よろしくお願いします」といった英語の文面です。
ウイスキーは1万ドル以上しますが、何かの手数料かなと思って添付のExcelファイルをデスクトップにドラッグ&ドロップしました。すると「予期しないエラーのため、ファイルをコピーできません」と表示されました。
今までテスト環境で何度も見たメッセージです。Windows 10のセキュリティ機能「Windows セキュリティ」でマルウェアの侵入を防御したことを表しています。ネット詐欺メールに引っ掛かってしまい、ファイルのダウンロードまで試みてしまいました。既知のマルウェアだから検知できましたが、新種であれば感染してしまっているところです。
Windows セキュリティでどんなマルウェアをブロックしたのか確認したところ、「TrojanDownloader:O97M」と表示されていました。「Emotet」と呼ばれるトロイの木馬型マルウェアの一種です。今年は2月以降に大きな動きは見られなかったのですが、7月ごろから再び感染活動が観測されるようになりました。
セキュリティ機能をすり抜けた場合は添付のExcelファイルが開きます。そして、マクロを有効にするよう促すメッセージが表示されます。画面上部には「セキュリティの警告」が表示され、「コンテンツの有効化」というボタンがあります。ここをクリックしてしまうとマクロが実行され、マルウェアがインストールされてしまいます。
Emotetは通常のマルウェアとは異なる挙動をするのが特徴で、セキュリティ機能から検知されないように偽装します。例えば、仮想環境では動作しないように仕掛けられています。通常の環境に感染した場合は、セキュリティ機能を無効にしようともします。
その後、外部から別のマルウェアを引き込んで感染させます。最初からEmotetではなく、そのマルウェアを送りつければいいと思うことでしょう。実は、感染後に引き込むマルウェアは別の犯罪者から委託を受けて広めていることがあるのです。
そのため、感染後に何が起きるか分かりません。犯罪者はウェブブラウザーを監視してさまざまなアカウント情報を盗んだり、ランサムウェアに感染させて身代金を要求したり、オンラインバンキングに不正アクセスして送金させようとします。「ボット」という踏み台にされて、知らない間にサイバー攻撃に加担させられる恐れもあります。
PC内のアドレス帳やメールの情報にアクセスし、いろいろな人にマルウェア付きのメールをばらまくこともあります。以前にやり取りしたメールの文面に返信する形で送ることもあるので、知人や取引先に迷惑をかけてしまうことも考えられます。とても凶悪なマルウェアです。
Emotetが怖いのはメールの文面とファイル名を変えるだけで、いくらでも攻撃対象を広げられることです。今回は請求書を装っていましたが、給与明細や賞与明細などに偽装するパターンも確認されています。最近では、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の注意喚起や、感染予防関連の資料などに偽装してくるケースもあります。
防御策は2つあります。まずは、ネット詐欺メールかどうかよく確認することと、Windowsなどのセキュリティ機能を有効にしておくということです。
今回届いたメールの送信元はやり取りしている相手のメールアドレスではありませんでした。さらに、メールの文面にもお互いの個人情報が全く入っていなかったため、気が付くことはできたと思います。
本当にこの手のネット詐欺は手に負えません。騙されないためにも最新の手口を把握し、セキュリティ機能も自動アップデートを適用するなど、常に最新の状態にしておきましょう。
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