その上、専門家会議の「廃止」については自民党・公明党の連立与党に対しても事前説明がなかったため、安倍政権の「唐突な決定」に対する反発が広がった。そのため、6月28日に西村経済再生相は再度会見を開き、「『廃止』という言葉が強すぎた。発展的に移行していく」「専門家会議の皆さんを排除するようにとられたことも反省している」と釈明した。

 そして、西村経済再生相は、専門家会議のメンバーの一部が「分科会」に参加するとも説明した。事実上、「廃止」の方針は修正された。実際、専門家会議のメンバー12人中8人が分科会に加わった。しかし、ある政府関係者から筆者が聞いた話では、安倍政権は専門家会議を本当に「廃止」し、新しい分科会には、専門家会議のメンバーを参加させない方針だったのだという。

 専門家会議のメンバーは、国立感染症研究所を中心とする「学閥」の推薦で選ばれていた(第242回・P4)。それに対して安倍政権は、分科会の委員に現在の世界最先端の研究に携わっている若手を起用しようとしたという情報を得ている。だが、それは成功しなかったようだ。感染症研究の場合は、国立感染症研究所が絶対的な権力を持つという。その牙城を崩すことはできなかったということか(「日本のサンクチュアリ546 国立感染症研究所」『選択』〈2020年3月号〉)。

 少なくとも言えることは、首相官邸・内閣府内部において、コロナ対策を巡り「防疫」か「経済」かの綱引きがあった(第243回・P7)。そして、安倍政権は経済を動かす方にかじを切り、専門家会議との関係が悪化していたということだ。

分科会を新たに設立しても
専門家会議の本質的問題は未解決

 結局、分科会の会長・副会長には、専門家会議のメンバーだった尾身氏、脇田氏がそれぞれ就任した。一方で、経済界から大竹文雄・大阪大学大学院教授)、小林慶一郎・東京財団政策研究所研究主幹、労働界から石田昭浩・連合副事務局長、メディアから南砂・読売新聞東京本社常務取締役、そして地方自治体から平井伸治鳥取県知事が加わった。「世論を敏感に察知し」「地域の現場のニーズに応え」「経済を動かして」「雇用を守る」という安倍政権の新しい方針がはっきりと分かるメンバー構成となった。

 だが、この連載が指摘した専門家会議の本質的な問題は何も解決していない。それは、集団を対象として病気の発生原因や流行状態、予防などを理論的に研究する「理論疫学」の世界最先端の研究動向を追うことができる専門家がいないことだ(第242回・P6)。