山中教授の「10万人以上の死者」の指摘も、根拠は何も提示されていない。「41万人」でも「10万人」でも、それが科学的根拠を持つなら、われわれは深刻に受け止めて対策を取るべきだ。だが、科学者と称する人物の発言に根拠がないというのでは国民が困惑する。
しかも、政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議(以下、専門家会議)の委員ではなかった西浦教授個人の試算ならともかく、山中教授は、ノーベル医学・生理学賞受賞者だ。その上、政府のコロナ対策の効果を検証する有識者会議の委員を務めている。圧倒的な「権威」があり、社会的な影響力が絶大である上に、政府の意思決定にも直接かかわっているのだ。
だが、山中教授は「感染症」の専門家ではなく、自分で新型コロナウイルスの研究をしているわけではない。コロナ対策を判断するのに必要な情報は、すべて他の「専門家」の研究に頼るしかないのだ。
専門家会議の「廃止」を巡り
安倍政権の「唐突な決定」に反発
安倍晋三政権は、コロナ対策における意思決定の体制を転換した。まず、前述の「有識者会議(新型コロナウイルス感染症対策・AIシミュレーション検討会議)」を設置し、東京電力福島第1原子力発電所事故の国会事故調査委員長を務めた黒川清・政策研究大学院大学名誉教授が委員長に就任。山中教授、永井良三・自治医科大学学長、安西祐一郎・日本学術振興会顧問(元慶應義塾大学塾長)らが委員に就任した。
3密回避や外出自粛、休業要請など、これまでのコロナ対策の効果を、人工知能(AI)やスーパーコンピューター「富岳」など、日本が誇る最高クラスの技術や最新の知見を結集し、感染第2波への対策に役立てるという。
また6月24日、西村康稔経済再生相は記者会見で、専門家会議を「廃止」する旨を発表。その代わりに新たな有識者会議「新型コロナウイルス感染症対策分科会」(以下、分科会)を設置すると明らかにした。
ところが、西村経済再生相の記者会見と同じ時間に、専門家会議が別の場所で会見を開いていた。座長の脇田隆字・国立感染症研究所所長らが、専門家会議のあり方について提言を発表している最中に「廃止」の情報が入ったのだ。会見に出席していた委員の尾身茂・地域医療機能推進機構理事長は、「今、大臣がそういう発表をされたんですか?」と驚きを隠さなかった。