共通ルート 第一部
ブラコンな義姉たちは将来像を描くそうです。
7,8話あたりから徐々に物語が進んでいきますので楽しみにしてていただけるとありがたいです!
「それでは改めて『さらにラブラブ強化期間』についての会議に入ります。プレゼンテーターは私──志木冬華が務めさせていただきます」
「書記はわたし~、志木秋奈がやりま~す」
「それじゃあ、私──志木夏希がファシリテーターをやります!!」
え、何。なんでみんなこんなノリノリなの!?
場所を食卓に移してプロジェクターを用意してまでやることなの!?
「春斗君はオブザーバーですね」
「さらっと発言権を奪わないで!!」
「冗談ですよ。生産性の高い議論にするためにも、春斗君の意見も聞きたいですし」
すでにこの時間が生産的とは言い難いことにはツッコんじゃダメですか?
「では、まずはこれを見てください」
そんな言葉と共にプロジェクターに映し出されるのは、俺の写真。
「ってなにこれ!?」
「なにって。デスクトップですが?」
「いやいやいや、なんで俺の写真をデスクトップの壁紙にしてるの!?」
「さすが冬華ちゃんだよね~。いいチョイス~。わたしもこっちに変えようかな~」
「秋ねえ!?」
「確かに。今のデスクトップも捨てがたいけど、これもいいなぁ。悩んじゃうよ」
「夏希姉ちゃん!?」
え、待って待って。
まさか三人ともデスクトップが俺の写真とか、そんなこと言わないよね?
「見て見て~。このホーム画面もいいでしょ~」
「秋奈。どうして私も持ってない春斗の写真を持ってるんですか。羨ましい」
「いいでしょ~? この間こっそり撮ったの~」
この間っていつ? そして何の写真!?
頼むから俺にも確認させて。肖像権を守らせて!!
「春斗春斗」
「……何? 夏希姉ちゃ──!?」
「やった。春斗とのツーショット。待ち受けこれにするね!! 春斗にも今送るから、お揃いにしよ!!」
いえ、結構です。待ち受けは今の当たり障りない画像で十分です。
「なっちゃんだけずるい~。わたしも~」
「あ、秋奈。抜け駆けはダメですよ。ここは長女の私から撮るのが筋です」
姉さんたち。
もう議論は、いいのかな?
解散しても、いいのかな?
はい! 解散──ッ!!
「もう! 秋ねえも冬ねえも写真は後でいいでしょ!! 今は議論の時間だよ」
今ほど『自分のことを棚に上げて』ってツッコみたくなった瞬間はない。
そしてやっぱりこの議論は続けるんだね……。
「そうでしたね。失礼しました。春斗君との写真が欲しいという欲求が爆発してしまいました」
写真ならすでに持ってるよね!?
今デカデカとプロジェクターに映し出されてるのは何!?
「残念~。……今度また撮る~」
秋ねえには、いつかしっかりプライバシーという概念を叩き込もう。
「さて、それでは気を取り直して。……『さらにラブラブ強化期間』のプレゼンテーションを始めます」
厳かな言葉と共にカチリと鳴るクリック音。
そして、おしゃれなBGMに合わせてムービーが流れ出す。
それは、俺たち姉弟のこれまでを映し出したものだった。
予期せぬ出会い。
最初はぎこちない触れ合いも、時を、回数を重ねるごとに少しずつほどけていく。
それでもどこか遠慮がちなやりとり。
そんなものありはしないのに、正解を探すようなもどかしさの中をさまよう関係性。
しかし、それはふとした瞬間、ちょっとした出来事で晴れてしまう。
どうしてこんなことで悩んでいたのかと、今になってしまえばそう思えるささやかなすれ違い。
だけど、それがあったからこそ確かめられた。
自分の気持ちを。相手への気持ちを。
そして思い悩んだ時間があったからこそ言える。
今、こうして触れ合える瞬間こそが、何よりも大切なものなのだと。
「……結婚式?」
思わずそう呟きたくなる内容だった。
だってこれ、結婚式で流れるやつでしょ!?
あの、二人の馴れ初めとか言う、ある意味黒歴史を暴露していく、見てる方も反応に困ったりするあれと同種のやつでしょ!?
「……以上でプレゼンテーションを終わります」
え、嘘。
ムービー見ただけだよ!?
「みなさん、いかがでしたか?」
いや、いかがも何も。
ぶっちゃけ反応に困るんだけど……。
「う、ぐす……」
「うぅ……。ぐす」
秋ねえ!? 夏希姉ちゃん!?
泣いてるの!?
「私も完成ムービーを見た時は、職場にも拘わらず泣いてしまいました」
いや、学校で何してんだあんたは。
教師としての職務を全うしようよ!
なんてツッコミは野暮らしい雰囲気なのはわかる。
というか、秋ねえも夏希姉ちゃんも、何ならムービーを流した冬華姉さんも、感動に浸っていて言葉を発しづらい。
「冬ねえ。冬ねえの言いたいこと、よ~くわかったよ」
マジか……。夏希姉ちゃんすごいな。
「わたしも~。やっぱりとーかちゃんはすごいね~」
秋ねえまで。
わかってないの、俺だけ?
さっきまでのリビングよりもさらにアウェー感が増した気がする。
「私たちは春斗君と出会ってから今日まで、確かな絆を育んで来ました。家族として、ひとりの人間として、それはかけがえのないものです……」
そこで一度言葉を切る冬華姉さん。
「ですが! だからこそ! 私たちはここからさらに仲良くなる必要があると思うのです!!」
ドーン! とか、背景に文字が見えそうな冬華姉さんに賛同するのは、秋ねえと夏希姉ちゃんのふたり。
俺は、……正直ついていけてない。
何。何、このテンション。
「それで冬ねえ。具体的にはどうするの?」
「ええ。春斗君にはこれから、私たちの誰かと二人きりの時には『特別な呼び方』をしてもらいます」
「わたしそういうの好き~。いいよね~」
「秋奈。これだけではありません。三人の中でより多くの回数『特別な呼び方』をされた人には、『さらにラブラブになったで賞』として、春斗君を一日独占する権利を手に入れることが出来ます!!」
瞬間、姉さんたち
の目つきが変わった。
って、言うか──ッ。
「待って。ちょっと待とう。冬華姉さん、何言ってんの!?」
「『さらにラブラブ強化期間』についての話ですが?」
えー。なんで質問したこっちがおかしなこと言ってる風なの?
「何て言うか、そもそもそれがわからないんだけど、『さらにラブラブ強化期間』って何?」
「私たちと春斗君がもっと仲良くなるための取り組みです」
即答。
秋ねえと夏希姉ちゃんも頷いている。
いや、わかんないから。
「えっと。そのさ、もっと仲良くなるってどういうこと? 今も十分に仲良いいと思うんだけど」
クラスメイトの話を聞いてもそうだ。
正直うちは、仲が良すぎる。
「これ以上仲良くなって、それでどうするの?」
冬華姉さんだけじゃない。秋ねえと夏希姉ちゃんにも言葉を投げかける。
ぶっちゃけ、仲良くなりたいとか言われても、今だって十分なんじゃないだろうか?
家族として、いい関係を築けているのは間違いないのだ。
「結婚して、春斗君と子育てがしたいです」
……冬華姉さん?
「はるくんを養いたいな~。あ、もちろん結婚はするよ~」
……あ、秋ねえ?
「私はまだ高校生だし、その、お嫁さんになりたいなって思ってるぐらい」
……夏希姉ちゃんも!?
「……ガチで言ってるの?」
問いかけに三人は頷く。
は~~~。なるほど。
そうか、だからか。
さっきから感じてたアウェー感はこれが原因か~~~。
要するに、俺と義姉さんたちの間では、目指す家族の形が違ったってことだな?
俺は『普通の姉弟』としての家族像を。
義姉さんたちは『結婚した夫婦』としての家族像を。
それぞれ意識してたってことか。
そりゃあ、温度感も変わるよねー。ていうか、普段からそんな感じだったってことだ。ははぁん、そりゃあんな感じのスキンシップになるわけだ。
納得納得。オーケー、原因は把握した。
把握したところで、どうしようもないけどな!?
「さて、と。余り長々と話していても仕方ないので、最後に『特別な呼び方』だけ決めておひらきにしましょう」
なんて言う冬華姉さんの言葉も遥か彼方。
俺は遂に発覚した義姉さんたちからの過度なスキンシップの原因、その衝撃的な事実に混乱し、そこから先の会話にほとんど参加出来なかった。
後から聞いた話。喧々諤々な議論の末、俺は義姉さんたちの内、誰かひとりと二人きりになった時は、その人を『姉ちゃん』と呼ばなければいけなくなったそうだ。
そして一学期が終わるまでの残り一か月ちょい。俺に最も『姉ちゃん』と呼ばれた人が、俺を一日独占出来る権利を得るそうだ。
こうして、俺が混乱のただなかにいるうちに、『さらにラブラブ強化期間』はスタートしたのだった。
これ、嘘のような本当の話。
マジか。
9話は本日の日付が変わるぐらいまでには……!