スマートフォン向けFate RPG『Fate/Grand Order』(FGO)が本日2020年7月30日でサービス開始5周年を迎えたことを記念して、『FGO』の開発資料をお届けする連載企画“潜入!FGO開発の舞台裏”を掲載する。

 本企画は5つのWebメディアの横断企画となり、初回はファミ通.comが担当。バトルキャラクターのグラフィックをテーマに、星5サーヴァント“レオナルド・ダ・ヴィンチ(ライダー)”の制作工程や開発スタッフのこだわりポイントなどを紹介する。

バトルグラフィックの制作工程を解説

 週刊ファミ通を含む数々のインタビューにて、完成までに半年以上の期間を要することが明らかになっていたサーヴァントのバトルキャラ制作は、以下のように進行する。

  1. バトルキャライラスト制作
    ・ラフの作成
    ・線画・パーツの分割・着彩
    ・見た目完成~差分作成
  2. アニメーション制作
    ・作画打ち合わせ
    ・セットアップ
    ・待機や宝具演出のアニメーション制作
    ・攻撃やスキルのアニメーション制作
    ・納品
  3. バトルエフェクト制作
    ・エフェクトリストの作成
    ・エフェクト作成作業
    ・実装後の作業
    ・監修
    ・動作確認・バグ修正・リリース
  4. 実装作業
    ・作画打ち合わせ後の社内MTG
    ・モーションデータの落とし込み
    ・カメラデータの作成
    ・エフェクトデータの組み込み
    ・TYPE-MOONチェック1
    ・サウンドデータの発注と組み込み作業
    ・TYPE-MOONチェック2
    ・バトルキャラリリースへ

 1騎のサーヴァントを世に送り出すために、じつに膨大な時間と労力がかけられていることがよく分かる。ここからは、バトルキャラ制作の具体的な工程を2019年8月に実装された“レオナルド・ダ・ヴィンチ(ライダー)”を例に見ていこう。

バトルキャラ制作の流れ

(1)バトルキャライラスト ラフの作成

 TYPE-MOON作成の絵コンテをもとに、バトルキャラのラフを作成する。

【レオナルド・ダ・ヴィンチ(ライダー)の例】

 『Fate/Grand Order Arcade』で先行して実装されており、『FGO Arcade』のコマンドカードのイラストがあったため、その作画を元に制作されている。

『FGO Arcade』コマンドカード用のラフ
『FGO』バトルキャラ用のラフ

(2)バトルキャライラスト 線画・パーツの分割・着彩

 (1)で制作したラフをTYPE-MOONが監修。監修が完了したらバトルキャラ制作チームが線画を起こす。パーツごとに分割し、色塗りと進めていく。

【レオナルド・ダ・ヴィンチ(ライダー)の例】

 バトルキャラはどのキャラクターも基本的に服の模様や装飾をはじめとしたキャラクターのディティールは省略しない方針とのことで、細かな装飾が入ったキャラも手間隙をかけて再現している。複数角度が必要になる杖と背中のアームは、パーツアニメーションでは難しかったため、3Dモデルで作成しているという。

完成した待機ポーズ

(3)バトルキャライラスト 見た目完成~差分作成

 着彩終了後、ディライトワークス内でクオリティチェックをしてからTYPE-MOONが監修し、基本となる見た目が完成。バトルキャラの見た目が決定したところでアクション用の差分パーツを作画していく。

【レオナルド・ダ・ヴィンチ(ライダー)の例】

霊基再臨第1段階の腕のアクション用パーツを一部抜粋したもの。
完成したバトルキャラのパーツの数々

アニメーション制作の流れ

(1)作画打ち合わせ

 TYPE-MOONが作成した絵コンテを見ながら、細かい動きを決定する打ち合わせを行う。どの部分を3Dモデルで作るか、攻撃などのアクションのテンポ感はどのような感じかを決めていく。

(2)セットアップ

 上がってきたバトルキャライラストを、Maya(3Dアニメーション制作ソフト)を使って動かせるようにセットアップ(※)。2Dイラストではつけられない動きを再現するための3Dモデルも、この段階で作成する。

※……3Dモデルにアニメーションをつけるための設定を行うこと。

【レオナルド・ダ・ヴィンチ(ライダー)の例】

ボディのセットアップの様子
3Dモデル作成

(3)待機や宝具アニメーションを制作

 宝具はカメラや演出を作るのに非常に時間と手間がかかるため、先にキャラクターアニメーションを完成させる。宝具に必要なアニメーションが完成したらTYPE-MOONの監修と同時に宝具制作チームへと渡す。ここで修正が発生した場合も、同時平行で宝具演出を作成していく。

(4)攻撃やスキルアニメーションを制作

 綺麗に動かすのは当然として、アニメーション制作チームは以下の3点を厳守して作成する。

  1. TYPE-MOONの表現したいことを再現する
  2. 実装チームが動かしやすいよう形を作る
  3. エフェクトチームが作業できる環境設定を行う

 ここまでの作業を(1)~(4)としているが、常に納期との闘いが起きており、順番通りに進行しないことも。(4)の工程の途中に(2)に戻ることや、(3)や(4)の工程がクリアできずに納期を調整することもある。

(5)納品

 Mayaで作成したデータをUnity(ゲームエンジン)で実装できるよう最適化し、実装チームや宝具制作チームへ納品。動作の確認用にムービーも同時に納品する。

バトルエフェクト制作の流れ

(1)エフェクトリストの作成

 作画打ち合わせの議事録やコンテ、サーヴァントの資料をもとに必要なエフェクトを洗い出し、リスト化する。

(2)エフェクト作成作業

 バトルキャラを動かしながらエフェクト作成を行う。タイミングやサイズ感等を重視。

【レオナルド・ダ・ヴィンチ(ライダー)の例】

EXTRA Attackの着弾エフェクトを単体で表示したもの
バトルキャラをSequencer(カットシーンエディタ)上で動かしながら実装後の動作を想定してエフェクト作成を行う。各コマンドカードの動きに合わせてエフェクトを作成。

(3)実装後の作業

 バトルシーンで動作を確認しつつ、本格的にエフェクトの作り込みを行う。敵側で登場したときも正常に動作するように……等も意識しつつ作成する。

【レオナルド・ダ・ヴィンチ(ライダー)の例】

カメラと動作を意識し、画面映えを意識して調整する。

(4)監修

 ディライトワークス社内で監修を行い、TYPE-MOONの求めるエフェクトのイメージに近づくよう、かなり細かくすり合わせを行った後、TYPE-MOONがチェック。修正・調整を繰り返しながら完成度を上げていく。

(5)動作確認・バグ修正・リリース

 バグがないか確認。実機(iOS、Android)特有のバグがないか、動作が重くないか等の確認・修正を行い、リリースへ。

実装作業の流れ

(1)作画打ち合わせ後の社内MTG

 TYPE-MOONが表現したいことを、開発チームがどのように実現させるか検討。既存の機能での実現か、新しい機能が必要なのかの洗い出しが必要で、後々の開発に大きな影響を与えるため、ミスが許されない重要な箇所となる。

 実装チーム側は基本的には「NO」とは言わず、可能な限り理想に近づけるスタンスとのこと。

(2)モーションデータの落とし込み

 アニメーション制作チームが作成したバトルキャラを、実際のバトル画面で動くようにモーションデータに落とし込む。

 キャラの移動や攻撃するタイミング等、バトルでカッコよく動かすことを念頭に作成。霊基再臨段階によって動きが異なるキャラの場合、その分のモーションデータを作成する。

※魔王信長やスペース・イシュタル等の場合は、すべての段階で動きが異なるため、3キャラ分のデータを作成。作業量も3倍になる。

【レオナルド・ダ・ヴィンチ(ライダー)の例】
 霊基再臨第1段階と第2段階、第3段階目で動きが異なるため、2キャラ分のモーションデータを作成している。

霊基再臨第1段階のモーション遷移図
霊基再臨第2段階・第3段階のモーション遷移図

(3)カメラデータの作成

 キャラの動きに合わせて、バトル中のカメラワークを作成。何を見せたいのか等を考えながらカメラを作っていく。霊基再臨段階で動きが異なる場合は、カメラデータもそれに合わせて作成する。

(4)エフェクトデータの組み込み

 エフェクト制作チームが作成したエフェクトデータを組み込む。

【レオナルド・ダ・ヴィンチ(ライダー)の例】

(2)~(4)の作業を行いながら、動作の確認をしている様子

(5)TYPE-MOONチェック1

 (4)までが完成したタイミングでTYPE-MOONのチェックが入り、キャラクターとしてのイメージや作り込みに問題がないかを確認。リテイクと修正を繰り返しながら完成度を上げていく。

※大体2~3回くらいリテイクと修正を行うが、一発オーケーをもらうことも。

(6)サウンドデータの発注と組み込み作業

 ひとつのキャラクターを表現するにあたって必要なSEの洗い出しとサウンド制作チームへの発注を行う。音のイメージを間違えてしまうと台無しになってしまうため、SE発注とリテイクを繰り返し行い、カッコいい音を模索する。

※実装者の音に対してのセンスが重要になっているため、非常に難易度の高い工程。
※現状、バトル用のSEだけでも1700個以上作成している。

 続いて、ボイスリストに沿った内容のボイスデータを組み込む。スキル名にボイスが紐付いている場合もあるため、ミスが起こらないようにかなり注意して行っている。

(7)TYPE-MOONチェック2

 組み込んだサウンドデータ(主にSE)が問題ないかを確認。ここでもリテイクが発生することあるので、都度修正と再提出を行う。

(8)バトルキャラリリースへ

 QAチェック(バグチェック)開始。修正を繰り返しながら、リリースまで対応。

各工程ごとの具体的な制作期間

バトルキャラ

  • ラフ:約1週間
  • 線画~色塗り:約4週間
  • 追加パーツ:約2週間

 バトルキャライラストの制作は、霊基再臨第1段階~第3段階の姿が違う3段階分のデータを作成することや、線が細く頭身が高いことから作業量も多くなり、時間がかかるという。

アニメーション

  • セットアップ:約30日
  • 待機や宝具のアニメーション制作:約10日
  • 攻撃やスキルのアニメ―ション制作:約30日

バトルエフェクト

  • 全体で約1カ月半

 レオナルド・ダ・ヴィンチ(ライダー)の場合、霊基再臨第1段階、霊基再臨第2・第3段階の動作が異なるため、実質サーヴァント2騎分の作業を2名で行っている。

実装

  • アニメーションデータの落とし込み~エフェクトデータの組み込み:約3日間
  • サウンドデータの発注と組み込み:約1週間以上

担当者別のこだわりポイント、苦労したこと、制作秘話を紹介

こだわったポイント

【バトルキャライラスト担当】
 霊基再臨第2段階と第3段階のスカートの中に隠れているドロワーズにこだわったほか、霊基再臨第3段階のスケート靴のディティールがかなり細かく、時間をかけて制作していったという。ちなみに、「アクション中にドロワーズがチラッと見えるかもしれません」とのこと。

【アニメーション担当】
 ロケットパンチ等は2Dの腕を飛ばすと旋回の動きの見栄えが悪い部分もあるため、手から離れた後に3Dモデルに置き換わっているそうだ。

発射前
発射後

【アニメーション担当】
 レオナルド・ダ・ヴィンチ(ライダー)は、旋回するアニメーションで違和感が出ないよう、左右非対称になるように設定を行っているという。

 参考画像は、回りながら火炎放射を放つArts攻撃のアニメーション。

右向き(腕に注目)
左向き(腕に注目)

【バトルエフェクト担当】
 レオナルド・ダ・ヴィンチ(ライダー)の霊基再臨第1再臨のエフェクトは、レオナルド・ダ・ヴィンチ(キャスター)をリニューアルするイメージで作成されており、霊基再臨第2段階・第3段階は『FGO Arcade』のエフェクトをできる限り再現するように作成したそうだ。

 どちらの攻撃モーションでも敵の周りをぐるっと回る演出があったため、エフェクトのほうで立体感を出しつつ回り込んでいるように見えるように工夫したとのこと。

 また、キャラクターが小さい関係でエフェクトが小さくなりがちだったそうで、大きめの敵キャラを配置するなどしてサイズ感覚がおかしくならないように工夫していたそうだ。

【実装担当】
 実装担当者は、基本的に全キャラクター(エネミーも含む)に愛情をもって全力で実装作業を行っているとコメント。すべてのキャラの動きや音にもこだわっているという。ちなみに、過去のキャラになるほど「もう一度作り直したい」と思うようになるそうで、改修作業がいちばん楽しい作業とのこと。

苦労したこと

【バトルキャライラスト担当】
 フリル(とくに霊基再臨第3段階)の作画や、霊基再臨第1段階の腕のアクションパーツ、霊基再臨第2段階、第3段階のミサイル発射のアクションパーツの作画は細かくて大変だったそうだ。また、霊基再臨第2段階のスカートの影は、アニメ塗りで処理するのが難しく影の入れ方に苦労したという。

制作秘話や小ネタ

【バトルキャライラスト担当】
 霊基再臨第2段階・第3段階のミサイル発射のアクションパーツは、最初は両手にランドセル紐を持ちながら発射する予定だったそうだが、お辞儀のようなポーズに変更された。

【実装担当】
 レオナルド・ダ・ヴィンチ(ライダー)の移動音は、霊基再臨第2段階はローラースケート、霊基再臨第3段階はアイススケートの靴を履いているので、地面を移動する際はローラースケートやアイススケートを滑る音を再生しているいう。スキル“アクセルターン”を使うとわかりやすい。

週刊ファミ通『FGO』5周年記念特集号では清少納言ほかの開発資料を掲載!

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