共通ルート 第一部
冬華姉さんは(外では)しっかりしています
※2/05 改稿版に変更しました!
結局昨日は中々寝付けなかった。それもこれも秋ねえがあんなことをするせいだ。男子高校生を何だと思っているのだろうか。
おかげで昼近くまで寝ていたというのに、いまいちしゃっきりとしない。せっかくの日曜なのに何だかもったいない気分だ。
『春斗君。私の部屋に来てください』
そんなメッセージで呼び出され、欠伸を噛み殺しつつ冬華姉さんの部屋に向かう。
そして扉を開けた瞬間、俺の眠気はどこかへ消し飛んだ。
「冬華姉さん!?」
「春斗君。待っていましたよ」
いやいや、なんでそんな普段通りのテンションなの!?
「どうして下着だけなの!? 服は!?」
「え? ああ」
何その淡白な反応。
家だからって言われればそれまでだけど、それにしたって下着姿で義弟を部屋に招くってのは常識的に考えてどうなのさ。
昨日の秋ねえと言い、少しは気にしようよ。
「今日はずっとこの恰好でしたから」
以上、結論のみお送り致します。
って、そんなの納得出来ないから!!
何事も過程が大事だろ?
「とりあえず服を着て。風邪ひいちゃうって」
目のやり場にも困るしね!!
「そうしたいのは山々なのですが、そう出来ない事情があります。あと、春斗君はどうしてそっぽを向いているのですか?」
「自分が今どういう恰好してるかわかってる!?」
「下着姿ですね。いわゆる勝負下着というものです」
余計な情報をありがとう!! 通りでちょっと高そうなレースだと思ったよ!!
「春斗君。ひとまずこちらを向いてください」
「無理だから!!」
「話をする時は人の目を見なきゃダメですよ」
「目を見れる状況だったらね!!」
「何がいけないのですか? 自慢じゃないですが、私はそこそこいいスタイルをしていると思いますよ?」
「だからだろ!?」
頭いいくせに何でこんなに会話がかみ合わないんだよ!!
「春斗君。私はこれから下着を脱ごうと思います」
「なんで!?」
「春斗君が目を逸らすからです。こうなったら私の体をきちんと見て貰って、直視に値しないものではないと確かめて貰わないといけません」
その思考はおかしいよね!?
理屈っぽいこと言ってるけど、バカの発想じゃないか。
「では」
「わかった!! わかったから、それ以上脱がないで頼むから!!」
あっぶな!? ホントに脱ごうとしてたよこの人。しかも下の方から。
「春斗君も強情ですね」
「なんで俺が宥められてる風なの? おかしいよね。逆だよね?」
「わがままな義弟を持つと、義姉は大変です」
「話が通じない義姉を持った義弟の方が大変だと思います!!」
思わず突っ込んでしまったけど、俺の言うことは何も間違ってない。
冬華姉さんは時々ズレてること言うけど、ここまでとは思わなかった。
「で、冬華姉さんはどうして下着姿なのさ」
なんかもうどうでもよくなってきてるけど、一応聞いておく。
「春斗君、そこには深い事情があるのです」
神妙に語り出す冬華姉さん。何かやむにやまれぬ事情でもあるのだろうか?
「なんと、起きたら全部洗濯されてしまっていたのです」
「夏希姉ちゃん!!」
「夏希はさっき出かけていきましたよ。友人と会うそうです。それよりどうしたのですか、いきなり名前を呼んだりして」
そりゃ、家事全般は夏希姉ちゃんがやってるからな。
「え、ていうか聞くけど、どうしてそんなことになったのさ」
「そうですね。部屋の状況を見るに、私が寝ている間に夏希が掃除をしてくれたからだではないでしょうか」
「……ああ」
言われて気が付いた。今日の冬華姉さんの部屋には足の踏み場がある。いつもは服やらなんやらでとっ散らかっているのに。
美人だし勉強も出来るし、教師としても学校一の人気を誇る冬華姉さんの唯一の弱点、それが家事だ。
これがもう尋常じゃないぐらい出来ない。
一緒に暮らし始めて何度そのポンコツっぷりに目を見張ったことか。
「やる気はあるのにね」
「ええ、長女ですから。それに、秋奈の手本にもならなければなりませんし。あの子は出来るのにやろうとしないからダメなのです」
根本的にダメダメな冬華姉さんとどっちがマシなのだろうか。
ていうか、やっぱり俺も夏希姉ちゃんを手伝った方がいいよな。姉さんたちが止めるから何もさせて貰えてないけど、今度ちゃんと話そう。
「で、夏希姉ちゃんに服を全部洗濯されてしまったと」
「下着のまま寝ていたので、これだけは死守出来ました」
「別に褒められることじゃないからね!?」
まあ、これで冬華姉さんが下着姿なのは理解出来た。
本来ならそこもきちんと服を着てもらうべきなのだろうが、なんかもういいや、慣れたし。
「そう言えば、俺は何で部屋に呼ばれたの?」
ものすごいどうでもいい時間を過ごした気がするが、冬華姉さんには俺に何か用があるはずなのだ。
「そうでした。春斗君がどうでもいいことを気にしたせいで忘れるところでした」
「どうでもよくはないよね」
この人には羞恥心とかないんだろうか。常識とか、貞操観念とか。
「春斗君。一緒にゲームをしましょう」
「え?」
「聞こえなかったですか? 一緒にゲームをしましょう、と言いました」
「え、用事ってそれ?」
「ええ、そうですが」
「服を貸してとか、乾いた洗濯物を取ってきてとかじゃなくて?」
「? どうしてそんなことを春斗君に頼まなければいけないんです?」
いやもう何て言うかさー。そういうとこだよ冬華姉さん!!
それ絶対に優先順位間違えてるよね!?
今の状況的にまず真っ先に必要なのって服だよね!?
それを差し置いてゲームって……。
天然なのかなぁ。天然なんだろうなぁ。
「わかった。ゲームやろうか」
うん。これが冬華姉さんだ。そういうことにしておこう。
「で、冬華姉さんは何してるの?」
「ゲームです」
うん、そうだね。お互いにコントローラーを握って、ちょうどいまタイトル画面が出てきたね。これから熱い大乱闘が始まるんだけどさ、俺が聞いてるのはそうじゃないんだ。
「なんでこの体勢?」
「春斗君はいい匂いがしますね。好きですよ」
昨日も同じようなこと言われた気がするなぁ!!
「ゲームするのに腕を組んで頭に肩を乗せる必要ってある!?」
「ふふ、ハンデですよ」
「どっちがどっちに対しての!?」
「もちろん私が春斗君に対してのです。知っていますよね? 私のゲームの腕前は」
「自信満々だけど俺と大して変わらないよね!?」
とてもじゃないがガチ勢とは呼べない、エンジョイ勢に毛が生えた程度のものだ。
「聞きましたよ、昨日の話は。秋奈だけズルいじゃないですか」
「さっき『長女ですし』なんて言ってた人の発言とは思えない」
「私も春斗君とイチャイチャしたいんです」
「とうとう開き直ったね」
「ほらほら春斗君、早くキャラを選んでください」
どうあってもこの体勢は譲らないつもりらしい。
まあ、ゲームに熱中すれば自然と離れるか。
「今日こそは私の実力を春斗君に教えてあげましょう」
なんて言われたけれど、苦戦したのは冬華姉さんのゲームテクニックではなく、常に当たるやわらかな感触と、秋ねえとはまた違ったいい匂いなのだった。
そして今日も今日で帰宅した夏希姉ちゃんに風呂に放り込まれた後、たっぷり十分もハグされる羽目になった。
次も改稿版に変更しました!