2018/04/06

オタク女の仕事術を聞いてみた!シマリス(Webディレクター)の場合「オタ女子おしごと百科」第1回

オタク女の仕事術を聞いてみた!シマリス(Webディレクター)の場合「オタ女子おしごと百科」第1回

劇団雌猫

「いつもオタク現場にいるあの人、一体なんの仕事をしているんだろう?」

ソシャゲに延々お金を注いだり、推しているアイドルのツアーに合わせて全国を飛び回ったり……。すべてを惜しみなく推しに注いでいる彼女たちはいったいどんなお仕事をして、時間とお金をやりくりしているの?
この連載では、劇団雌猫が、日々趣味と仕事の両方にいそしむオタク女子たちにインタビュー。「仕事とオタ活の両立」の工夫や、知られざる「オタ活に向いた仕事」をひもといていきます。

初回はWeb系会社でディレクターとして働く腐女子のシマリスさん。Webサイトを立ち上げたり、コンテンツとメーカーのコラボキャンペーンの企画をしたりしているようですが、オタ活とお仕事、どうバランスをとっているのでしょうか?

【本日のゲスト】

シマリス

シマリスさん(28歳)
Web制作会社でディレクターとして働く腐女子。現在のオタクジャンルは「Fate/Grand Order」「刀剣乱舞」など。二次創作・商業BL(ボーイズラブ)は両方好きで、自分でも二次創作の同人誌を出している。

激務でしんどかった日々を救った「神宮寺レン」

――今日はよろしくお願いします! シマリスさんのお仕事はWebディレクター。具体的にはどういうお仕事なのでしょう?

オタク女の仕事術を聞いてみた!シマリス(Webディレクター)の場合 「オタ女子お仕事百科」第1回-画像-01

シマリス:主な仕事はWebサイト制作なんですが、最近はキャンペーン設計までやることも多いです。Youtubeで流すWebムービーを考えたり、SNS投稿の運用プランを設計したり、結構「なんでも屋さん」近いポジションかもしれません。
私はアニメやマンガそのものや、それらを使ってプロモーションをしたいというメーカーさんの案件などにアサインされることが増えてきました。自分で企画を考えることもあります。現在の平日・休日のスケジュールはこんな感じですね。

シマリスさんのオタ活スケジュール

シマリス:繁忙期と閑散期でかなり波はありますが、平均して1日2、3本打ち合わせがあって、その間に作業をしています。コンテンツ制作系の仕事が入っている時は、撮影や収録で一日中外にいることもありますね。

――声優さんと仕事することも……?

シマリス:たくさんではないですが、たまにありますね。緊張してしまって、うまくしゃべれたことがないんですが(笑)。

――趣味と仕事がつながってる! いいな〜。

シマリス:でも実は、今の仕事を選んだのは『オタクだったから』という理由じゃないんです。学生時代は、バンドと劇団のサークルに所属していて……どこにでもいるようなしゃらくさいサブカル女で。

――しゃらくさい(笑)。

シマリス:ただ、その頃から「コンテンツが好き」という気持ちはあって。「仕事でも何かコンテンツに関わりたいな」とぼんやり思っていたんですが、テレビ局や出版社などの業界にはことごとく落ちてしまい……。
「就職浪人しよう!」と決めてからたまたま受けたのが、今の会社のインターンだったんです。それで実際に現場の人と働いてみたら、相性が良かったみたいで。流れで入社することになりました。

――就活を振り返ってみて、「ここをこうすればよかった!」ということはありますか?

シマリス:いっぱいあります! ガチガチに志望動機を作っていって、いざ面接官から質問されるとうまく答えられず……みたいなのは山ほどありました。
自分でも採用の手伝いをしてみて思うこととして、杓子定規な返し方をする人って、キャパシティが小さく見えちゃうんですよね。だからといって、完全にノーガードで行くのも「やる気ないのか!」となるので、塩梅が難しいんですけど(笑)。
なので社員の人と働いてみて、業務や社風との相性がわかった上で入社できたのは、ラッキーだったなと思います。

――なるほど! インターン期間があったということですが、社員として入社してからはどうでしたか?

シマリス:最初はちょっとつらかったですね。まずは先輩について徹底的に仕事のイロハをたたきこまれるんですが、毎日朝早く行って終電で帰る感じの生活だったので。でも、そんなときに出会ったんです。「うたの☆プリンスさまっ♪」の神宮寺レンくんに。

うたの☆プリンスさまっ♪マジLOVE2000% アイドルソング 神宮寺レン

――あの御曹司の!?

シマリス:はい! 私、ついつい推しキャラに「かわいい系」を選んでしまうタイプのオタクなんですが、レンくんは別腹です! 財閥の三男坊という生まれ育ちも、セクシーなビジュアルも気障な性格も、何もかもがツボで。諏訪部順一さんのハスキーなお声もぴったりで、あの声で「こっちおいで」とか言われると……私の中の女が騒ぎ出すんです!!

――いきなりテンションが高い!

シマリス:すみません! つい(笑)。その時期は本当に忙しかったんですけど、移動時間や作業中にちょっとキャラソンを聴くだけですごく癒されていて。ちょうどその頃「うたプリ」が「キャラクターがやっている設定のTwitter」というのを盛んに更新していた時期だったんですけど。帰宅してからうたプリツイッターを追いかけるのが、本当に楽しくて……。

――ああー! 盛り上がりましたね。

シマリス:二次元コンテンツの良いところは、スキマ時間に自分のペースで楽しめるところ。新人のころは、友達と食事の約束をしていても、当日急に都合がつかなくなってキャンセルしてしまうことも多くて……でもマンガやアニメ、キャラソンは、本当に細切れの時間でも楽しめる。それが当時予定の読めなかった自分にとって、ぴったりだったんですよね。

――pixivとかも、通勤中にサクッと読めますもんね。

シマリス:そうそう。恋愛ゲームの方の「うたの☆プリンスさまっ♪」は進めるのに時間がかかるので、当初手をつけられなかったんですけど。アニメだったりライブだったり、キャラソンはじめ周辺のコンテンツが充実していたので、充分に楽しむことができたなと思います。

――商業BLを読みだしたのもその時期ですか?

シマリス:そうですね。もともと腐女子ではあったんですが、大学に入ってからはあまり読んでいなくて。BLもキャラソン同様に、ちょっとした空き時間で楽しめるのが自分には助かりました。BL漫画って一巻完結のものも多いし、オムニバス作品もたくさんあるので。
会社の近くで結構品揃えのいい書店があるんですけど、お昼とかに抜けて買いに行って、むさぼるように読んでました(笑)。

「ものづくり」経験者は歓迎される業界

――シマリスさんは、職場でもオタクをカミングアウトしてるんですよね?

シマリス:はい。最初は、周りに同じ趣味の人がいたらいいのにな〜と思いながら、ちらっと言う程度だったんですけど。あるとき、「プロレスが好き!」と公言していた先輩が、プロレスにかかわる案件を振ってもらっているのを知って。

――さまざまな取引先がある業界ならではですね。

シマリス:「私も好きなことをやりたい!」と思って、自分の趣味を積極的にアピールする方向にシフトしました。たとえば、これは賛否あると思いますが、アニメ映画の応援上映に行ったときの写真をFacebookにあげてみるとか……。
オタク趣味がない人からすると、映画の途中にコール&レスポンスしたりサイリウム振ったりとかするのって、ちょっと異様な光景じゃないですか。だからなのか、結構な確率で「あれ何なの!?」と聞いてもらえるんです。そこで「今流行ってる作品で〜」「こういう文化があって〜」と説明しているうちに「オタク文化に詳しい人」という認識が周囲に広がっていて……「シマリスさん、◯◯ってアニメ知ってる? 案件きたんだけど」と仕事を振ってもらえるようになりました。

オタク女の仕事術を聞いてみた!シマリス(Webディレクター)の場合 「オタ女子お仕事百科」第1回-画像-03

――策士だ! このところ、「あれ、このメーカーがアニメCMを?」とか「まさかの商品擬人化!?」など、アニメやマンガがプロモーションに活用されている例が増えているように感じます。そういう案件は、オタクな人が立ち上げてるんでしょうか?

シマリス:半々ってところでしょうか。立ち上げた人はオタクじゃなくても、チームにひとりはオタクがいるという状態はよくあります。中には「とりあえずアニメにすればいいでしょ」みたいな、“リスペクト”が感じられない案件もたまにあって……。そういうのを見ると、二次元に救われた身としては腹が立ちますね。

――Web業界というと、「オシャレ系」「リア充」みたいなイメージがあるんですが、オタク的人材は求められてるんでしょうか?

シマリス:私の周りでいうと全然そんなことなくて、色んな人がいます(笑)。ただ、知らない人に会いにいったり、共同作業をしたりすることは避けられない仕事ですよね。「コミュ障です!」「自分の好きなことは曲げられない!」というタイプのオタクには向いてないかもしれません。オタク趣味でも、人とコミュニケーションをとるのが苦にならなくて、新しいものに飛びつける人には楽しい業界だと思います。
かくいう私も、ものすごーくミーハーなんですよ。オタク界隈で流行ってるものがあったら、なんでも飛びついちゃう。今は「刀剣乱舞」をやりつつ「A3!」と「Fate/Grand Order」に課金してるし、「おそ松さん」「ユーリ!!on ICE」「名探偵コナン」あたりも一通り通って、最近は「僕のヒーローアカデミア」にハマってるし……。

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――周囲と調整しながらアウトプットしていく、というのは、どんな仕事でもそうですよね。自分の好きなコンテンツの案件なのに、思い通りにならない、なんてこともあるんですか?

シマリス:ありますね。私も日々悩んでいます。すごく微妙で繊細な話なんですけど……メーカーなどの企業コラボレーションの場合、いちオタクとして考えているそのコンテンツの魅力や「らしさ」を押し出そうとすると、クライアントが「このプロモーションで言いたいこと」がおろそかになってしまう場合もあって。でも逆に、クライアントの意見をそのまま通すと、ファンにピンときてもらえないとか。
クライアントも喜ぶしファンのみなさんにも楽しんでもらえる、絶妙な塩梅がどこかを探す作業を続けていますね。正解がないです。

――いちオタクとしてグッズ販売とかコラボ企画とかの発表を見てると「えー、そんなの要らないし」「え、なんでそんな企画?」と文句言いたくなることありますけど、中の人は大変ですよね……。

シマリス:そうですよね……だからこそ自分は、「今どういうのが流行ってるのか」「どこに何を投げ込むとファンの方が反応してくれるのか」ということをしっかり考えたいと思ってます。
後輩たちを見ていると、「アニメやマンガが好きです!」って人も増えてるし、もっとオタクが増えてもいいし、カミングアウトしてもいいんじゃないかなと思います。そもそもこの業界、「ものをつくった経験のある人」のことは歓迎してるんですよ。「これまでも何かつくってたしこれからも何かつくりたいです」という人のほうが、説得力あるじゃないですか。

――たしかに……!

シマリス:マンガでも動画でもコスプレでもいいんですけど、オタクとして何かを「つくった」経験のある人は、向いているんじゃないでしょうか。「でも同人誌だし」とか躊躇する気持ちもわかるんですが。たとえ二次創作だとしても、コピー本だとしても、自分でものをつくったことのある人にしかわからないことってたくさんあると思いますし。そこがアピールできれば、熱意が伝わりやすいはずです!

仕事のコツは「忙しそうにすること」

――シマリスさんの場合、仕事に没頭するうちにオタク趣味にハマったわけですよね。やはり生活の優先順位も「仕事>趣味」なんでしょうか?

シマリス:うーん、難しいな。私、「仕事」は好きなんですけど、「働く」のは嫌いなんですよね。伝わるでしょうか……?

――なんとなく……分かる(笑)。

シマリス:企画を考えたり、やったことが形になったりするときはめちゃくちゃ嬉しいんですけど、実際に手を動かしているときは「めんどうくさいな〜」と思ってます(笑)。だから新人のときはともかく、今は毎日できるだけ早く帰るようにしてるし、土日もちゃんと休んでます。10時出社で、21時までには帰ってますね。

――それでも長時間労働だけど! 効率よく仕事をするための工夫はありますか?

シマリス:忙しそうにすること……かな。

オタク女の仕事術を聞いてみた!シマリス(Webディレクター)の場合 「オタ女子お仕事百科」第1回-画像-04

――どういうことですか!?

シマリス:他人に指摘されて気づいたんですけど……作業してるときの表情が険しいみたいで、いつでも「めちゃくちゃ忙しそう」に見えるらしいんですよ。それで、周りから声かけられるときは「シマリスちゃん、忙しいところ申し訳ないんだけど……」って感じで、余計な作業をあまり頼まれないのかもと思います(笑)。

――予想してなかったライフハックでした(笑)。

シマリス:作業が終わっていれば、時間の融通はきくんですよ。自由に帰っていいし、早めに抜けてお芝居に行っても怒られない。そこはオタクに向いている仕事だよな〜と思います。平日でも休みをもらって、お昼開演の舞台を見に行ったり。

――いいな〜!

シマリス:あとはGoogleカレンダーに、打ち合わせや撮影といったスケジュールだけじゃなく、毎日の個人的なTO DOもすべて書き込んでます。で、そのTO DOが終わらないとその日帰っちゃダメ、ということにしている。それをやることで、土日に仕事を持ち帰らずに済んでるのかも。

――ストイックだ!

シマリス:息抜きもきちんとしてますよ。打ち合わせ間の移動時間とか、仕事中にガチャ回せる! 一瞬でリフレッシュできて最高。

――(笑)。かなり仕事を楽しんでるようですが、転職を考えたことはありますか?

シマリス:何度か転職サイトを見たことはあったけど、今のところ予定はないです。でも、コンテンツのコラボ案件を手がけているうちに、コンテンツ自体をつくってみたいなと思うようになりました。業界用語で「IP(intellectual property)」ですね。結局コラボというのは「おまけ」であって、コンテンツこそが「メイン」なんだよなあ、という思いが強まってきて。ライセンシー、つまり自社でIPのライセンスを持っている企業のプロデューサーや、出版社の編集の方とかと話していると、なんだかもう純粋に「いいなあ~!」と思います(笑)。いつか、そういう立場でIPと関わってみたいですね。

――なるほど。仕事をしている中で、悩むことなどはありますか?

シマリス:悩みというほどじゃないですけど、アニメとかマンガとか好きなことが仕事になると「純粋にそのコンテンツが好きな気持ち」を持ち続けるのが難しいなと思うことはあります。仕事をしている自分とは切り離して、いちオタクとして「好き!」ってずっと感じながらコンテンツのそばで働けたら、本当に幸せですよね。
あと、仕事のために「新しいコンテンツ」をキャッチアップし続けないといけないな……という焦りもあります。趣味を生かせる仕事ではあるんだけど、だからこそ仕事のための「趣味の貯金」が必要になる。貯金がつきないように気をつけないと、というのは日々意識してます。

――最後に、自分の就活や仕事に行き詰まっている方に、メッセージをお願いします。

シマリス:いわゆる「激務系」なイメージの会社で働いていますが、入社して5年経って、かなり時間に融通が効くようになりました。忙しい中でもオタク活動はできますし、私の場合むしろ、忙しい時の方がオタク活動にも張りがでるような……(笑)。なのでどんな業種であっても、自分に合う環境が見つかれば、仕事と趣味は両立できます! 私も体を壊さない程度に今後も頑張っていくので、一緒に頑張りましょう!

――ありがとうございました!

★シマリスさんの主な浪費

1)商業BL(月7千円)
「うたプリ」同様、新卒の激務時代にハマる。ピーク時は毎日3冊購入することもあり、それだけで月5〜6万円の出費だった。今はマンガよりも小説が好き。最近読んだオススメは凪良ゆう先生の『セキュリティ・ブランケット』(上下巻)。

2)同人誌(月2万円)
常に何らかのジャンルに並行してハマっているため、月1ペースで即売会イベントに行ってしまう。地雷もないため、手持ちの薄い本がどんどん増えているそう。月2万円程度。

シマリスさんが所有する同人誌。1,000冊あるそうです!

シマリスさんが所有する同人誌。1,000冊あるそうです!

3)ソーシャルゲーム(月1万円)
現在プレイしているのは「A3!」と「Fate/Grand Order」。酔っぱらっている間にガチャを回してしまい、記憶がないけどカードが増えている……という事件をきっかけに、現在年齢設定を「15歳以下」として、課金できる金額を制限している。

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(メインイラスト:kamochicさん)

  • 劇団雌猫
  • プロフィール

    劇団雌猫

    平成元年生まれのオタク女子4人組。「インターネットで言えない話」をコンセプトに、オタク女子たちが胸のうちを告白した同人誌「悪友」、その書籍化となった『浪費図鑑―悪友たちのないしょ話―』(小学館)が話題。20〜30代女性の幅広い共感を得ている。

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