リツイート判決 自由な発信妨げぬには
2020年7月30日 07時50分
ツイッターで他人の投稿をリツイートしたら「権利侵害」−。こんな判決が最高裁であった。写真がトリミングされ、写真家の名前が表示されなかったのだ。SNSを窮屈にしない法整備が必要だ。
ツイッターなど会員制交流サイト(SNS)は今や情報インフラといえる。コミュニケーションのインフラでもあり、他人の投稿を転載することは日常的である。
今回のケースは写真家の男性がスズランの写真を自分のホームページに掲載したことに始まる。第三者がツイッターに無断で投稿したのを別の人物がリツイートした。その際に画像の隅にあった写真家の名前が自動的に切り取られてしまった。
もともと自動的にトリミングされる仕様だったためだ。クリックすれば調整前の画像が出て名前も表示されるという。この場合、リツイートは権利侵害に当たるか?
最高裁は「著作者人格権が侵害された」と断じ、ツイッター社に転載した人物の情報開示を命じた。著作者人格権とは、著作者が氏名を表示できる権利のことだ。
確かに著作者の名誉と権利を守るうえで当然の結果と受け止める。違法の可能性がある写真拡散を引き起こさないよう利用者に注意を促さねばならない。サービスを提供するツイッター社は社会的責任として、その周知が必要になる。トリミングの仕様変更などの対応にも迫られよう。
だが法律の専門家でない利用者が、常にSNSを使う際に違法性の有無を判断することは可能なのだろうか。最高裁の林景一裁判官が「利用者に大きな負担を強いる」と反対意見を述べたことが、その立場を代弁している。その判断が難しい場合は「リツイート自体を差し控える事態をもたらしかねない」とも…。
実は自動切り取りはフェイスブックやインスタグラムなども採用している。判決の影響は意外に大きい。SNSに萎縮効果をもたらしうる。手軽で自由な発信が持ち味なのに、逆に窮屈になる−この相反をどう考えたらいいか。
参考になるのが米国や英国の対応だ。許諾なしに著作物を利用できるケースについて「複製者が経済的利益を得るか」「複製の量・割合」などの指針を定める。
フェアユースと呼ばれる。
日本でもぜひ議論の対象にしてほしい。SNSでの自由な表現行為と法制度の在り方を再考すべきときであろう。
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