最低賃金水準 コロナ禍でも上げたい

2020年7月29日 07時22分
 二〇二〇年度の最低賃金は現行水準維持が適当−。厚生労働省の審議会がこう答申した。新型コロナウイルスが経済に与える影響は理解できるが、こういう時だからこそ賃上げが必要ではないのか。
 リーマン・ショック後の〇九年度以来となった最低賃金の据え置き判断には、疑問が二つある。
 一つ目は、働く人が自立して生活できる賃金の水準を保障するという最低賃金の目的に合致しているか、である。コロナ禍で困難に直面する人がいる現状を考えれば、なおさら疑問が募る。
 二つ目は、主に正社員対象の春闘では今年、賃上げが実現(連合まとめで1・9%)したのに、最低賃金はなぜ据え置くのかだ。
 最低賃金は企業が従業員に払う最低の賃金額で、労使参加の審議会で毎年目安を示す。
 一六年度から3%以上の引き上げが続き、昨年度は過去最高となる二十七円の引き上げ。全国平均は時給九百一円になったが、この額で週四十時間働いても年収は二百万円に満たない。
 これでは最低賃金に近い賃金で働く非正規労働者と賃上げされた正社員との格差は広がる一方だ。
 さらに、感染が拡大する中、医療や介護、保育、小売り、運送、飲食店などで働く人の社会的な役割の大切さが再認識された。非正規で働く人が多い職種もある。賃金水準の底上げは必要である。
 据え置き判断には伏線がある。政府が十七日に閣議決定した経済財政運営の指針「骨太の方針」では「より早期に全国平均千円を目指す」と従来方針を明記しつつ、「雇用を守ることが最優先課題」と含みを持たせた。これではあらかじめ据え置きを容認したと受け取られても仕方がない。
 安倍政権は「働き方改革」の一環として最低賃金引き上げを掲げてきたが、審議会では結局、引き上げを求める労働側と凍結を主張する経営側が歩み寄れなかった。
 感染症の拡大で経営環境が厳しいことは理解できる。経営側は最低賃金引き上げで人件費が増え、中小企業では雇用が維持できなくなると懸念する。
 ならば生産性を上げるための設備投資や税制などで支援するなど政府は賃上げと経営の両立にもっと知恵を絞るべきではないか。
 最低賃金の決定は今後、地域ごとの額を決める都道府県の審議会に委ねられる。コロナ禍で受ける影響は地域や業種ごとに違うだろう。各審議会には最低賃金制度の目的にかなう議論を望みたい。

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