「九州における非弁活動の実態と対策」非弁提携に陥らないために注意すべきポイントとは


弁護士資格を持たない者が法律事務を行う「非弁活動」が疑われる事例が、近年、過払い金返還や交通事故、相続などの分野で目立つようになりつつある。非弁行為は、弁護士法72条、73条に抵触し、刑事罰を科される可能性のある違法行為ではあるが、広告代理店やWeb制作会社、他士業などから業務提携を持ちかけられた際に、「非弁にあたるかどうか」がわからないケースもある。

今回は、九州における、非弁活動の実態や対策、非弁提携を見分けるポイントなどについて、福岡県弁護士会非弁活動監視等委員会委員であり、九州弁護士会連合会業際非弁対策に関する連絡協議会委員長である向原栄大朗弁護士(福岡県弁護士会)に話を聞いた。(インタビュー日:2020年6月19日)

目次

  1. 非弁業者に狙われやすいのは、独立したての弁護士
  2. 九州各県における、各非弁委員会の取り締まり対応
  3. 非弁活動が多い背景として、「弁護士へのアクセスの悪さ」と「市民の意識の問題」がある
  4. 提携が非弁か否かを見分けるポイントは、業者の「マネタイズ方法」と「集客方法」
  5. 非弁活動が疑われる事案を見つけた際の対処方法

非弁業者に狙われやすいのは、独立したての弁護士


ーー九州では、どういった弁護士が非弁業者に狙われやすいのですか。

独立したての弁護士が狙われるケースが圧倒的に多いです。弁護士人口が10年前に比べて2.5倍に増加していることもあり、今の弁護士は、経済面の先行きに漠然とした不安を抱えています。「少しでも稼いでおきたい」「顧客をつかんでおきたい」といった不安や、「たくさん依頼が来るとうれしい」という心境は、非弁提携を持ちかけてくる業者や人物に見透かされており、そこに付け込んできます。逆に、九州では、高齢の弁護士が狙われるケースはあまり聞かないですね。地域柄もあり、安定した経営をされている先生が多いからだと思います。

ーー非弁提携を持ちかけてくる業者の特徴はありますか。

これは九州に限らずですが、近年、非弁提携を持ちかけてくる業者は、広告代理店やWeb関連の企業、NPO団体が多いです。統計は取っていませんが、インターネットを使ったリーガルサービスが増えているので、インターネット広告で相談者を募って弁 護士に紹介する、周旋業が増えている印象ですね。「士業専門」と謳っている業者が散見されます。

提携の誘いが来るルートは、電話勧誘をはじめとして、異業種交流会、他士業からの相談、社会的地位の高い人物を介しての紹介などです。残念ながら、先輩弁護士が非弁と気付かずに仲介するケースもあります。

ーー実際に刑事告発に至る事案もあるのですか。

刑事告発まで至る事案は少ないですね。最近だと、一年半ほど前に、福岡弁護士会で非弁による刑事告発がありました。無資格の離婚カウンセラーが離婚相談に乗っていたケースです。それが法律事務に当たると判断し、非弁委員会で告発状を書きました。最終的に逮捕者が出ましたね。逮捕に至ることは珍しいのですが、理由としては、(関連資格すら持たない)全くの無資格者だったので、「逃亡の危険性がある」と思われたのではないかと推測しています。

九州各県における、各非弁委員会の取り締まり対応


ーー九州弁護士連合会の非弁委員会は、どのような活動をしているのですか。

非弁活動に関する情報集めおよび情報共有が中心です。5年前に設立して以来、私が委員長を務めており、「事案やそれに対する対処法を集めて類型化し、各県の非弁委員会に共有することで、九州全体の非弁に対する意識と対応スキルを上げていく」ことを目的としています。

ーー九州各県の非弁活動に対する取り締まりについて聞かせてください。

様々な取り締まりをしていますが、大きいところでは、自治体や大企業が、知らず知らずのうちに非弁活動に加担してしまっていることが多いので、その対策を行なっています。非弁活動の具体例としては、「市役所で、行政書士が交通事故相談会を開く」「保険会社や金融機関などの企業が、他士業による法律相談会を実施する」などです。

日弁連から、2019年1月に「違法な他士業による相談を全部ピックアップして警告する」ように通達がありましたが、実施している県とそうでない県に分かれています。沖縄、熊本などは実施していますが、福岡は、福岡県弁護士会の他委員会などから反論があり、実施できませんでした。福岡は、非弁対策について、かなり慎重ですね。

同様に、九州弁護士会の非弁委員会で考案していた、保険会社や金融機関に対して「こういう業者や人物は非弁である」という注意喚起ペーパーの配布も、九州全県での実施はできませんでした。沖縄県弁護士会で実施したところ、大きな反響があり、一定の効果はあったのですが。

非弁対策の実施に反対が出る理由は、「非弁活動と認定することによる他士業や行政との軋轢」を恐れてのことです。弁護士会の他の委員会との利害関係が絡んでいるため、非弁委員会としても、動きたくても動けない状況になることがあります。私としては、(このような軋轢が)非弁問題に取り組む上で、大きな障壁だと考えています。

ーー特に福岡件弁護士会が非弁対策に慎重とのことですが、他県の非弁委員会と福岡の非弁委員会には、どのような違いがあるのですか。

福岡の非弁委員会の一番の特徴は、秘密保持や処罰の観点から、弁護士による非弁提携の事案は非弁委員会マターとならず、執行部の直轄となることです。この形式は、全国でも福岡だけです。福岡の非弁委員会は、弁護士以外の法律事務無資格者(司法書士や行政書士などの他士業を含む)の非弁行為に特化して対応する存在です。そのため、弁護士による非弁提携を直轄する執行部との信頼関係の維持やコミュニケーションが大変重要になってきます。

非弁活動が多い背景として、「弁護士へのアクセスの悪さ」と「市民の意識の問題」がある


ーー九州は非弁活動が多く見られると聞きましたが、そうなりやすい地域的な特徴があるのですか。

地域的な特徴として、「地理的な問題」と「市民の意識的な問題」の2つがあります。

地理的な問題は、弁護士の絶対数が少なく、相対的に市民から弁護士へのアクセスが悪いため、行政書士を始めとする他士業が相談にのらざるを得ないことです。例えば、鹿児島でいえば、10年前は、屋久島(人口1.3万人)には弁護士は一人もおらず、種子島(同3.5万人)や奄美大島(同2.8万人)には各2人、大隅半島(同23.4万人)には2、3人という、地域によっては司法過疎の状態でした。

最近は、弁護士が増えているので、近所に法律事務所がなかったとしても、近隣の大きめの都市に出てきてもらえれば弁護士へ相談できる環境があります。それでも、他士業への相談がなくならない背景として、弁護士へのアクセス困難以外にも、「市民の意識的な問題」があります。

すなわち、市民の間で、「弁護士に相談するのは怖い」「弁護士に相談するのは悪いこと」「弁護士に相談するまでのことではないのでは」という意識がまだまだ根強くあります。これは、文化の問題とも言えます。その一因として、「弁護士と行政書士や司法書士などの他士業の区別がついてない」ことが挙げられます。

弁護士へのアクセスは向上してきているので、次は、法律相談をする市民側のマインドを変える必要があると考えています。

ーー弁護士に相談に行かない人は、どこに相談に行っているのでしょうか。近所の行政書士や司法書士でしょうか。

ケースバイケースですね。

近所で「遺言相談・相続」の看板を出している他士業や、インターネットで検索して上位に出てきた業者やNPO団体などに相談しているケースが多いです。市民は、抱えている悩み事を解決したいのであって、「相談する相手が弁護士かどうか」は重視していないのです。

弁護士に相談に行かない理由は、弁護士に対するイメージや金銭的な問題だけでなく、宣伝広告の問題もあると考えています。インターネット検索で仮に弁護士のページが上位に出てきたとしても、具体的に何の悩みを抱えている人にフォーカスしている かわからないホームページでは、市民は「弁護士に相談しよう」とは考えてくれません。

私は、非弁活動が横行するのは、弁護士側の啓発や弁護士業務と他士業業務との違いについての宣伝広告不足も大きい要因のひとつだと考えています。「弁護士が何の専門家なのか」「他士業との違いはなんなのか」を知ってもらい、そして、弁護士が信頼されていれば、「怖い」というイメージを抱かず、相談に来てもらえるはずですので。

弁護士が「法律問題を解決するのは弁護士の仕事で、この点で他士業とは異なり弁護士は優れている」ということを市民に示せていないのに、「法律相談は弁護士にするべき」と言ったところで、相談する人は増えないでしょう。自戒の念も込めて、日々の仕事をよりしっかり手がけていこうと考えています。

ーー市民への啓発活動は、どのように行なっているのですか。

まずは法律に興味を持ってもらいたいのですが、法的な悩みを抱えている方を除けば、市民は法律を身近に感じていないかと思いますので、難しいですね。

私個人では、中小企業経済同友会のような事業者が集まるところで、士業の使い分けをセミナーでやっています。「士業それぞれの守備範囲の違いをわかってもらいたい」という想いから開催しています。

いずれは、市民に向けた法教育という形で、弁護士がどのような局面で役立つかの話を、大学生などの学生や市民向けにやっていけたら、非弁への相談・依頼というのも予防できるのでは、と考えています。

提携が非弁か否かを見分けるポイントは、業者の「マネタイズ方法」と「集客方法」


ーー業者や他士業などからの業務提携の申し出が、非弁かどうかを見分けるポイントはあるのでしょうか。

業務提携をした時の「お金の流れ」や「どのようにして顧客を獲得しているのか」がポイントになります。例えば、経営コンサルタントが、弁護士に顧客を紹介することで、紹介料として弁護士に支払われる報酬の一部を中抜きするビジネスモデルは、非弁に当たります。紹介する人と顧客者の間で法律業務に関して、お金のやりとりがあると推測される場合は、非弁提携である疑いが持たれます。

全くお金のやりとりがない場合は違法にはなりませんが、業者は収入がないと会社を維持できないので、どこで業者の収入が発生しているかを見極める必要があります。そのため、ポイントとしては、無資格者もしくは他士業が領分を超えて、「法律事務をやっていないか」「法律事務ができると思わせる広告を出していないか」に注意するとともに、「紹介料的なものが発生しないか」をしっかり確認することが重要です。

例えば相続などの法律事務に関して、事業計画上、外部者との連携を行う必要がでてくることがあります。そのような場合には、その連携の仕方について、「非弁ないしはその疑い」(弁護士職務基本規程11条)あるいは「報酬分配」(同12条)との関係で問題がないようにしなくてはなりません。この判断は、現状、自己責任ということになります。しかし、他者との適切な連携は、業務拡大はもちろんのこと、社会全体の適切な法意識を高めるうえでも重要です。したがって、「業務提携は悪」と端から決めつけるのではなく、もっと理論的に「どういった活動が非弁に当たるのか」という点を突きつめていく方が、ただ「規制しろ、なくせ、やめさせろ」と主張するよりも、建設的であるように感じています。

ーー実際に、どういった手口が見られるのでしょうか。

一例を紹介しますと、広告事業者などが法律事務所に、「事務員を紹介する」と言って、事務員を送り込んで来る手口があります。その事務員は、業者側のコンサルタントなので、その事務員から大量に事件紹介が来ることになります。そうなると、その事務員の発言権が事務所内で一番強くなり、気付いた時には、業者側に経営含め全てを掌握されていた、ということになります。

非弁活動が疑われる事案を見つけた際の対処方法


ーー非弁活動が疑われる事案を発見した場合、確固たる証拠がなくても、所属する弁護士会に通報するのがいいのでしょうか。

はい。まずは、所属している弁護士会に連絡してください。確固たる証拠がなくても、似た通報が連続したら、その事案を重視することになります。非弁かどうかの調査も含めて、非弁委員会が対応します。

ーー非弁の疑いが強い場合は、どのような対応をするのですか。

非弁の疑いが強い場合は、当該業者や対象者を呼び出して、色々話を聞きます。呼び出しをするものについては、非弁であることが多いですが、中には話を聞いてみたら非弁とまではいえない事案もあります。ある程度証拠が集められている事案には、警告を出します。実際に警告された業者や対象者は、業務を改善することが多いですね。改善してくれれば、我々非弁委員会の目的はある程度達したことになると考えています。
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