ポンペオ長官“怒りの演説”が中国共産党に突きつけた「究極の選択」

中国が「国家体制」を替えなければ…
近藤 大介 プロフィール

トランプ政権内においては、その時々で、この二つのグループが頭を擡(もた)げつつも、全体的にはバランスを保ちながら、中国との関係を築いてきた。今年1月15日には、米中間の貿易交渉で1回目の合意に達し、トランプ大統領と劉鶴(Liu He)副首相が合意文書に署名した。

ところが、今年3月から本格的にアメリカを襲い始めた新型コロナウイルスは、この両グループの力関係に、決定的な作用を及ぼした。中国に対してより強硬な「軍事強硬派」が「通商強硬派」を圧倒したのである。

それは、中国発の新型コロナウイルスによってアメリカが未曽有の危機に襲われる中、トランプ的な「通商強硬派」の方針のままでは、来たる11月の大統領選挙で敗北してしまうという共和党の危機感の表れでもあった。トランプ大統領自身も、そのことは重々承知しているため、「にわか軍事強硬派」に変心した。

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はじめて「一線」を越えた

今回のポンペオ演説が「米中新冷戦」を決定づけた第二の理由は、中国という国家に加えて、9100万中国共産党員のトップに君臨する習近平(Xi Jinping)総書記個人を攻撃したことである。

これまでトランプ政権と中国側との間では、一つの「暗黙の了解」があった。それは、アメリカが中国をいくら非難しても、習近平総書記個人は非難しないということである。

どこが違うのかと思うかもしれないが、これは大きな違いである。

例えば、戦前の日本において、外国が大日本帝国を批判することと、昭和天皇個人を批判することの違いである。いまの北朝鮮において、北朝鮮を批判することと、金正恩(キム・ジョンウン)委員長個人を批判することの違いである。

北朝鮮は6月16日、開城(ケソン)の南北共同連絡事務所を爆破するという暴挙に出たが、彼らが挙げた理由は「南が撒いたビラによって最高尊厳(金正恩委員長)を汚した」ことだった。

トランプ政権は、こうしたことを理解しているため、これまでいくら中国を非難しても、政権幹部が習近平総書記個人を、公の場で批判することはなかった。あの毒舌家のトランプ大統領も、過激な中国批判をした後、「でもプレジデント(国家主席)シー(習)とは友人だ」と言い添えることを忘れなかった。

また、トランプ政権幹部によるこれまで最も過激な中国批判演説と言えば、2018年10月4日にペンス副大統領がハドソン研究所で行ったものだが、あの強烈なスピーチの中でさえ、習近平総書記個人は批判していない。

ところが今回のポンペオ演説では、その「一線」を越えたのである。ポンペオ国務長官は語気を強めて、次のように述べた。

「習近平総書記は破綻した全体主義思想の信奉者であるということに、われわれは心を留め置かねばならない」

「われわれが許さない限り、習総書記は中国内外で、永遠に暴君でいられる運命ではないのだ」

 

換言すれば、この発言は、中国側にボールを投げたものでもあった。すなわち、「アメリカとの新冷戦を避けたかったら、習近平を替えなさい」ということだ。