自民党の「バラマキ政治」から
小泉首相の「聖域なき構造改革」へ
90年代、地方で唯一好調だったのが建設業だった。バブル経済の崩壊による長期的な景気低迷で何度も経済対策が打ち出され、地方の公共事業が増加したからだった。そして、グローバリゼーションで職を失っていた農業や製造業、商業から建設業へと就業者の移動が進んだ。建設業は、約700万人が従事する日本の基幹産業の1つとなった。

しかし、中央に吸い上げた税金を公共事業の形で地方にバラマキ選挙での集票につなげる「自民党政治」は、巨額の財政赤字を生んだ。高度成長期が終焉し、全国のインフラ整備が一巡した後、景気対策を理由に無駄な公共事業を乱発することになったからだ。
2001年、ここで登場したのが「自民党をぶっ壊す」と宣言した小泉純一郎首相(当時)だった。
小泉首相は、「聖域なき構造改革」を断行し、公共事業費は一気に10%以上カットされた。公共事業が一気に縮小したことで、地方の主要産業であった建設業が雇用を支えられなくなった。だが、小泉政権は「痛みを伴う改革」の必要性を強調して「地方の自立」を促すばかりで、十分な支援策を行わなかった。
小泉政権が退陣した後の政権でも、一貫して公共事業の削減は続いた。そして、地方から都市部への人口の流出が止まらなくなった。「東京一極集中」が加速し、地方と都市部の格差が急激に拡大していった。
斜陽産業を延命するバラマキの一方で
新しい産業を育てる成長戦略の欠如
このように、地方では農林水産業や製造業、建設業、商業、サービス業などの産業が衰退していった。それは、グローバリゼーションの進展への対応という避けがたい側面はあった。
しかし、安倍政権の「アベノミクス」が典型的だが、中途半端に斜陽産業を延命させる巨額のバラマキを行う一方で、新しい産業を育てる成長戦略が欠けていた(第163回)。歴代政権の無策が、地方の産業の衰退を加速させてしまったことは間違いない。その結果、地方には美しい風景や神社、仏閣、城郭といった歴史的建造物などの「遺産」に頼る観光業しかなくなったのだ。
「Go To トラベル」は、新型コロナの感染拡大リスクを高めるという観点から批判されることが多い。しかし本質的に重要なことは、歴代政権の無策によって観光業しか頼るものがないほど地方の産業が衰退してしまったことにある。全ての政治家は、その責任を直視すべきなのである。