観光業は経済効果が大きな産業だというのは言うまでもない。観光に関連する産業は裾野が広いからだ。観光で利益を得るのは、直接携わる旅行業や旅館・ホテル業、運輸業、レジャー施設などだけではない。農林水産業や製造業、建設業、商業、サービス業などの産業に対しても、直接、間接の経済波及が広がることや、雇用拡大が期待できるのだ。
特に、「インバウンド」と呼ばれる海外からの観光の増加は、経済効果を劇的に増加させる。観光業が、海外の外国人観光客に日本の観光地を買ってもらう「輸出産業」に大化けするからだ。
2019年の外国人観光客は3188万2000人。「インバウンド消費額」とも呼ばれる外国人観光客の消費額は4兆8113億円。コロナ禍の前、日本の観光産業は急成長していた。
しかし、コロナ禍でインバウンドは途絶えてしまった。何とか国内観光だけでも促進しようとする「Go To トラベル」も、「人が移動する」政策を今やるべきではないという批判が強い。それならば観光業なしで、農林水産業や製造業、建設業、商業、サービス業などの産業を動かす経済政策をとればいいではないか。ところが、事が深刻なのは、それができない地方が多いことだ。
「Go To」に頼らざるを得ないのは
地方が衰退しきっているから
さまざまな要因によって、地方が衰退してしきっているからだ。そのきっかけは、1980年代後半以降のグローバリゼーションの進展である。まず、歴代政権は海外からの圧力に応えて、農業自由化を進めた。その結果、海外から安い農産物や木材が入ってきて国内の農業が影響を受け、農業の衰退が始まった。
また、製造業は中国や東南アジア、東欧などが「世界の工場」として台頭するグローバル経済下での競争力を高めるために、地方にあった工場を労働コストの安いアジア地域などに移転し始めた。その結果、国内工場の閉鎖が相次ぎ、製造業の雇用が失われ、産業空洞化が起こった(第34回)。
その上、90年代半ばにトイザらスなどの日本進出に際して、米国から「大規模小売店舗法(旧「大店法」)」が「海外資本による大規模小売店舗の出店を妨げる非関税障壁の一種である」と批判された。
旧大店法は、スーパーマーケットなど大型商業店舗の出店に際し、地元の中小の小売店との協議の場を設け、大型店の店舗面積の調整や出店後の相互の協力体制の構築を図る目的で制定されていた。しかし、米国からの市場開放を求める強い圧力によって、旧大店法は廃止されて、「大規模小売店舗立地法(大店立地法)が新たに制定された。
「大店立地法」で、大型店事業者は地元小売業者の商売について気配りすることなく、大型店を出店できるようになった。地方では郊外型の大型ショッピングセンターが出店ラッシュとなった。零細な個人商店が連なる商店街は大型ショッピングセンターに客を奪われてしまい、店じまいを余儀なくされて「シャッター商店街」となってしまった。