新型コロナウイルスの感染再拡大が止まらない。重症者が少なく、医療体制も逼迫(ひっぱく)していないとはいえ、新規感染者数が緊急事態宣言下の4月より増えていく状況に、国民の不安は膨らむ。

 ところが、安倍晋三首相は国会の閉会中審査への出席にも、記者会見にも1カ月以上応じず、記者団の前に数分間立ち止まり、コメントするだけだ。それも感染予防の行動の徹底を要請する一方的な発信だけで、多くの人の心配が和らぐだろうか。感染症対策という国家の危機管理を指揮するトップリーダーの気概と姿勢が問われている。

 この間、コロナを巡る情勢は一変した。7月に入り、東京都を中心に新規感染者が増え、現在は大阪、愛知、福岡といった大都市部だけでなく、その他の府県でも1日当たりで過去最多、緊急事態宣言解除後最多の更新が相次ぐ。もはや「圧倒的に東京問題」(菅義偉官房長官)と言っていられない段階に進んだ。

 とりわけ、政権が説明責任を果たさなければならないのは、前倒しでスタートさせた観光支援事業の「Go To トラベル」だ。感染が広がるさなかに、人の移動を活発化させる施策に、地方への拡散を警戒する自治体や野党から異論が出たにもかかわらず、開始にこだわった。キャンセル料の扱いも迷走、業者への説明会も直前となるなど、制度設計も生煮えのまま、見切り発車させたのである。

 さすがに、小池百合子知事が不要不急の外出自粛を呼び掛けた東京を6日前に除外したものの、首都圏や大阪などでも感染が再拡大している中で、県境をまたぐ旅行を奨励するかのような大がかりな事業をやらなければならなかったのか。

 東京を外す措置で十分とした理由も説明を尽くしたとは言い難く、控えるよう求めた若者や高齢者の団体旅行の線引きもあいまいだ。国会論議を“素通り”させた点も含め、1兆3500億円の巨額の公費を投入するという「自覚」が政権には感じられない。

 安倍首相は22日の新型コロナウイルス感染症対策本部で「十分に警戒すべき状況」としつつも、検査体制の拡充や医療提供体制の整備、主に若い世代の感染拡大で重症者が少ないことを挙げ、「4月の緊急事態宣言時とは大きく状況が異なっている」と述べた。

 しかし、全国で連日数百人規模の感染が続く事態がいずれは収束するのか、国民は疑問を抱いている。現時点で人の移動を抑える必要がないと判断する医学的根拠、「夜の街」「会食」「職場」「家庭内」とくくるだけでなく、感染が生じた具体的な環境や防止策、このまま感染増が抑制されない場合の病院や隔離施設の見通しなどについて、十分な情報開示がいまこそ求められている。

 西村康稔経済再生担当相や菅氏、知事に任せるばかりではなく、首相が節目で率先してリスクコミュニケーションをとることが欠かせない。6月の会見で「できる限り制限的でない手法で、感染リスクをコントロールしながら、しっかりと経済を回していく」と表明したのならば、現状は感染を制御できているのかを語るべきだ。

 これまでもさまざまな不祥事の説明から逃げてきた安倍政権。最高指揮官の顔が見えなければ、国民に安心を与えることはできない。(共同通信・橋詰邦弘)