第三話 召喚された者たちは
「……そうなると、前教皇の暗殺にはバイサス帝国が絡んでいると……?」
「確実にそうなるだろう。しかし、証拠もないしはぐらかされるであろうな」
召喚の宝玉については教皇が管理されている宝物庫で厳重に管理されている。前回の前教皇暗殺事件の際に、宝物庫からいくつかの宝物が盗まれた一つが召喚の宝玉であった。
ユウヤのように新しい勇者が召喚されたことに、仮面の下でカインは眉根を寄せた。
「実際にバイサス帝国に派遣している司教から手紙が届いておった。勇者と言われるものも含めて、
(もしかしたらユウヤさんと同じ日本人が召喚された可能性が……)
「召喚された人たちの外見は……?」
「そこまで詳しいことは書かれていなかったが、黒髪か茶髪だが全員黒目だと聞いておる。十代半ばで男女ともに二名だそうじゃ」
(やはり日本人である可能性が高い……。接点が持てればいいんだが……)
カインも前世は日本人である。懐かしさを感じるが、同じ日本人として戦争に参加しているということが信じられない。
例え獣人であったとしても、会話が通じるのだ。カインもこの世界で殺生の経験はあるが、それなりに覚悟は必要だった。
それがまだ成人もしていない未成年が好んで戦争に参加していること自体ありえない。
「情報ありがとうございます。今、ケルメス獣王国からエスフォート王国に救援の依頼がきており、王国としても応援を出す予定です。できれば教国からも回復魔法を使える人たちを派遣してもらえれば助かります」
カインの言葉に教皇は深く頷いた。
「もうその手配は済んでおる。教国からも船の往来はあるのでな。回復魔法が使える複数人を向かわせるつもりじゃ」
「よろしくお願いします。では、早急に王国に戻って手配をいたします、それでは――」
「カイン様っ!」
カインの言葉を遮るようにヒナタはカインに抱き着いた。
耳まで赤くしたヒナタはカインの胸元から見上げる。
なかなかカインに会えないヒナタは他国へ自由に行ける身分ではない。だからこそこの一時を大事にしたかった。
「うむ、わしは忙しいので少し席を外させてもらおう。この部屋はまだ使っていてかまわん。ではカイン様、よろしく頼みます」
拳を握り、親指を上に突き立てて笑顔のまま教皇は部屋を離れていく。
その間もヒナタはカインから離れることはなかった。
胸に顔を埋めるヒナタの頭をゆっくりと撫でていく。
「ヒナタ、なかなか会いにこれなくてごめんね。この戦争を止めることができたらまた会いにくるよ。そうしたらまたドリントルの街を案内するよ」
「……本当ですか……?」
「うん、もちろん。二人きりで行こうか」
「えぇ、よろしくお願いします。二人きりですね」
ヒナタの好意については、ドリントルを訪れた時にカインは理解している。今の婚約者たちもいるが、だからといってヒナタをのけ者にするつもりもない。
前世を考えれば信じられないことではあるが、この世界では一夫多妻は普通のことである。
しかしながら、カインの婚約者を見れば誰もが普通ではないのだが。
少しの間、隣同士でソファーに座り、会話を楽しんだ後、カインは自国へ戻ることにする。
「それじゃ、またね」
「えぇ、気を付けてください。使徒様だとはいえ、怪我もありますし、勇者がいるということですから」
「うん、ユウヤさんくらい強い人がいたら困るけど、きっと大丈夫なはず。終わったら会いに来るね」
カインは席を立ち、転移を唱える。
視界がぐるりと変わり、ドリントルにある執務室へと移動した。
自分の席で背もたれに寄りかかると、すぐに部屋がノックされた。
「カイン様、お戻りのようなので……」
入室の許可を出すと、すぐにダルメシアが現れる。
この部屋はいつも監視されているのかとカインは思ったが、すぐに本題に入った。
「ダルメシア、これからケルメス獣王国に行くことになった。バイサス帝国が攻め入ったらしい。それで頼みたいことがあるんだが――」
カインはバイサス帝国に勇者たちが現れたこと、ケルメス獣王国とバイサス帝国の内情を探るようにダルメシアに頼む。
「それでしたらお任せください。ただ、両国とも私も場所を存じませんので、少しだけ時間をください。すぐに配下を向かわせます」
「うん、僕も空を飛んでいければいいけど、他の人たちと船で行くことになる。少し時間に余裕はあるはずだから頼んだよ」
諜報に関してはダルメシアの右に出る者はいない。蟲使いであるダルメシアの得意分野である。
配下である蟲たちが情報を集め、主であるダルメシアと情報を共有する。屋敷にいる虫一匹に注意を払うことのないこの世界ではかなり有用であった。
そしてすぐにケルメス獣王国へ向かう日を迎えることになった。
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