第十八話 神託
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カインは一度目の襲撃から話を始め、二度目を未然に防いだこと、主導していたのが野営地で会ったオリバー司祭だったことを告げた。
「オリバーか……。奴は
カインもオリバー司祭と暗部との話を聞き、黒幕がバングラ枢機卿だとわかっていたが、選挙については投票数によって変わるのでどうにもならない。
「今回の件で失脚とかにはらないのでしょうか」
「いや、とかげの尻尾切りのようなものでしょう。知らぬ存ぜぬ、勝手にやったことだと言われたらそれまでですし、それでも派閥は一番多いから変わらないでしょう」
カインの問いに諦めたようにデンター枢機卿は首を横に振る。
「わたしもできればデンター枢機卿に新しい教皇になってもらえると嬉しいです。デンター枢機卿とのお話は楽しいですし」
「そう言ってもらえるのは光栄なのですが、それだけではなんとも……。派閥作りが好きでなかったので仕方ありません」
ヒナタもデンター枢機卿が新しい教皇になって欲しかったが、やはり本人が数の不利から諦めているようであった。
しかしカインは伝えなければならないことがあった。
「デンター枢機卿。どうしても伝えないといけないことがあります」
「カイン様……」
カインの表情が引き締まったことに、デンター枢機卿も表情を引き締める。その雰囲気を察してかヒナタもハーナム司教も口を結んだ。
「生命神ライム様からの言葉です。あなたが――――新しい教皇になりなさい。と」
カインの言葉にデンター枢機卿は身震いさせ、いきなりソファーから立ち上がるとカインの前に膝をついて頭を下げた。
「このデンター、ライム様からの神託ありがたくお受けいたします」
カインは頷いた。しかしデンター枢機卿を新しい教皇にするためにはいくつもの難関が待っている。いくらカインが神の使徒であったとしても結局は投票の数になるのだ。
「しかしどうするのでしょうか。兄は枢機卿とはいえ派閥の数は多くありません。最大の難関はバングラ枢機卿でしょう」
「それについては…………直接聞いてみます」
「カイン様、またあの場所に……?」
ハーナム司教の質問にカインは完結に答えた。そして以前ヒナタは神々の間に一緒に行ったことがある。
もしかしたら一緒に祈ればともに神々の間に行ける可能性はあった。
「もしかしたらヒナタも一緒にいけるかもしれない。一緒に祈ってもらえるか?」
「はい、もちろんですっ」
ヒナタは満面の笑みを浮かべ頷いた。
「明日、私は祈祷の時間があります。その時に一緒に祈っていただければ」
基本的に神々への祈りは朝に行われることが多い。午後は来客者の祈祷や炊き出しなどを行うためである。
「ではまた明日。楽しみにお待ちしておりますね」
予定の時間も過ぎていたのでカイン達はヒナタの部屋を退出した。
ハーナム司教とカインは自分たちの客室へと向かうが、その後ろには何故かデンター枢機卿もついていく。
「――兄上、暇なのか?」
ハーナム司教の言葉にデンター枢機卿は苦笑しながらも頷いた。仕方ないとばかりにハーナム司教は自分たちに用意された客室へと招き入れる。
何故かハーナム司教とデンター枢機卿はソファーに隣同士に座ったので、カインは対面に座った。
「自分の派閥の者に声をかけるなり結束するなりする予定はないのか?」
「そんなちまちましたことなどわしが出来るわけないだろう」
人格者だとは神々から聞いていたカインであったが、こんな人が教皇になって大丈夫なのかと少しだけ心配になる。
しかし聞いた限りだと他の枢機卿はとんでもない人ばかりだ。
これならハーナム司教が教皇になったほうがいいのではと思ってしまうのは仕方なかった。
「カイン様、兄はこんな感じの人なのです。確かに人格者として言われておりますが、少しだけ変わっていて……」
「なんだ、ハーナム。人を変人みたいな扱いをしてっ!」
「だってそうだろう。孤児を見つけたら次から次へと拾ってくる。私財はほとんど寄付につかって自分の使える分など持ってない。いくら枢機卿だから本殿に住めるからといっても、多少の財産くらいもっておくのは普通だろ。何度わしから借りているのだっ!」
「それくらいいいだろう。何も使わないでしこたま貯めていただろう!」
「貸すのが嫌だからわしはエスフォート王国に志願していったのだ!」
二人の兄弟喧嘩を聞いていたカインであったが、デンター枢機卿の性格が理解できた気がした。
確かに悪い人ではないし、孤児を引き取るなど人格者であるのは確かだ。しかし、それ以上に自分の生活が破綻している気がする。思わず苦笑いをするカインであった。
二人の口喧嘩は一時間弱と続いたが、デンター枢機卿はすっきりとした表情をしながら部屋を出ていった。
残されたハーナム司教の表情は逆に疲れ果てている。
「……あんな兄が教皇になっていいと思いますか……?」
ハーナム司教のその言葉にカインは何も返せず顔を背けたのだった。