第十五話 暗部たちの末路
いつもありがとうございます。
「それでは出発する」
神殿騎士の言葉で馬車は出発した。神殿騎士も今日あたり襲撃があるかもしれないと伝えられている。
カインがいない一行は野営地をゆっくりと進んでいく。
「カイン大丈夫かな……」
ぼそりと呟いたミリィだったが、クロードが笑みを浮かべる。
「ミリィ、そんなに心配するな。カインが負けるところが想像つくか? あいつと戦うくらいならドラゴンと戦ったほうがマシだと思うぜ?」
「確かにそうかもね……。小さいころから知ってるけど、アレはね……」
まだ幼い時に家庭教師をしていた頃を思い出す。
カインは最初から常識から外れた子供であった。どこか聡くて子供らしく見えない時もあったが、じゃれ合うと顔を赤くして可愛らしい子供だとミリィは感じていた。
それから十年もしないうちに貴族当主として独立しただけでなく、上級貴族である辺境伯まで上りつめた。住んでいる場所は王城よりある意味立派な建物である。
そんなカインはまだ十四歳。成人も迎えていない少年の偉業は誰もが信じられるものではなかった。
領主となったカインが改革に乗り出し、ドリントルの住民の生活は豊かになり犯罪も一掃され、ある意味カインのことを神格化するほどであったが、カインがマリンフォード教を推進していることから熱心な教徒も多くいる。
懐かしいなと思いながら街道を進んでいった。
途中昼食を挟み何事もなく進んでいくと、先頭を進む神殿騎士が馬を止めた。
クロード達も気になって前方を注視すると、一人の少年が大きく両手を振っていた。
「カインだな……」
クロードから声が漏れる。カインはクロード達を笑顔で出迎えたのだった。
◇◇◇
時は少し遡る。
夕食を済ませたカインは野営地を抜けて空から教都までの街道を空から眺めている。
もしかしたら襲われた馬車なのかもしれないと思いながらカインは空から近づいていく。
「あの馬車は確か……」
野営地でカインに声を掛けてきたオリバー司祭の乗っていた馬車であった。一日目の野営地は一緒の場所であったが二日目は見受けられなかった。
もしかしたらと思っていたのだがカインの読みは正解であった。
オリバー司祭と思われる男が数人の神殿騎士に囲まれており、そしてその前には黒装束の男が三十人以上集まっていた。
カインは気配を消したまま地面に下りてそっと近づいていく。
「明日にここを通るはずだ。手筈通りに司教を仕留めるように。次期教皇になる枢機卿様もお喜びになるだろう。心して掛かれ」
「「「「「御意」」」」」
「いや、無理だから」
「「「「「?!」」」」」
黒装束の男たちの後ろからカインは声を掛けた。中途半端に散らばられているより、今ここに集まっているほうがまとめて捕獲できるのでありがたいと思っていた。
気配がないカインから声を掛けられて、その場の全員が驚き、そして視線が声の元へと集まった。
『泥沼化』
『硬化』
カインが二つの魔法を唱えるとオリバー司祭、神殿騎士、黒装束の男たちの足元は泥沼化し沈んでいく。そして硬化され身動きが取れない状態になった。
「お、お前は……っ!?」
「昨日ぶりですね……オリバー司祭。すべて聞かせてもらいましたよ? 司教様の暗殺計画についても」
「し、知らん。何のことだっ。私は何も関係ないっ」
「それは留置所で話してくださいね」
カインが魔法を唱えると、全員が次々と倒れていく。
「一体何が……あっ……」
オリバー司祭も同じように倒れていく。
「これでよしと。後は……」
カインはアイテムボックスからロープを取り出して全員を縛っていく。そして最後に全員を繋いでそのまま転移魔法を唱えた。
転移した場所はジェナシーの街の入り口であった。本当なら教都の騎士に引き渡しを行いたいが、カインはまだ行ったことがないので転移することができない。
だからといってエスフォート王国に連れていくこともできないので、マリンフォード教国内の街に転移した。
街の入り口近くに転移し、警備していた衛兵にカインは話しかける。
「あの、すみません。最近この近くで起きている襲撃者を捕まえたのですが……」
「何だとっ!? ちょっと待て。応援を呼んでくる」
二人いた衛兵の一人が門の中へと走っていく。
程なくして詰め所に待機していたのだろうか、十名程度の武装した衛兵が出てきた。その中で少しだけ豪華な服装をした隊長だと思われる衛兵がカインに声を掛けた。
「それで襲撃者はどこに……」
「それはあちらに」
カインは三十人以上いる黒装束の男たちと、数名の神殿騎士、そして司祭服を着たオリバーを指さす。
縛られ意識がない男たちを見て、
「ま、まさかっ……」
「えぇ、そのまさかです。教会関係者が盗賊を装って襲っていたみたいですね。多分今回の教皇選挙が理由で……」
「そんなことのために……。わかった。それで君は……? まさか一人でこの人数を倒すなど無理であろう」
たしかにカインは冒険者の恰好をしているとはいえ、まだ少年にしか見えない。少年が三十人以上いる盗賊を捕まえてこの場所まで連行できるなど誰も想像がつかないだろう。
カインは懐から自分のギルドカードを取り出して提示する。
「エスフォート王国冒険者ギルドSランクのカインです。今回はハーナム司教様の護衛でこの地を訪れてます」
「……っ!? Sランク……。それならば納得できる。わかった。後はこちらで引き取ろう」
「あと、今回途中で一回の襲撃がありました。その盗賊の亡骸は同行している神殿騎士の
「まさか二回も襲撃があるとは……。それでハーナム司教様はご無事でしょうか」
「えぇ、問題はありません。他にもAランク、Bランクの優秀な護衛がついておりますから」
「そんなに優秀な護衛が……。さすが今一番勢いがあるエスフォート王国ですな。噂ですがドリントルという街が今とても繁栄しているとか」
他国までドリントルのことが知れ渡っていることに少しだけ冷や汗をかきながらカインは頷く。
色々と聞かれても困るので、カインは早々に街を後にすることにした。
「それでは、まだ護衛の途中ですので戻ります。後はよろしくお願いいたします」
「わかった。校正な裁きを受けられるようにしておこう」
カインは衛兵に一礼すると踵を翻えし駆けだす。その勢いは馬で走るより早い。
すぐに見えなくなったカインを眺めながら、衛兵たちは茫然とした。
「あれがSランク……。別次元だな。それよりもっ! お前ら、こいつらを牢にぶち込め! その恰好なら暗殺者かもしれない。念には念を入れて拘束しておくんだ」
「「「はいっ」」」
衛兵たちは意識のない襲撃者たちを次々と牢へ運んで行ったのだった。