第十三話 結束
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「……そういうことか……」
オリバーの天幕の裏で気配を消していたカインが呟いた。見つからないようにそっと天幕を後にしクロード達の待つ場所へとカインは戻る。
「なんだ、遅かったな?」
「司教様と同席していたので……」
「もう食事の準備はできてるぜ。そろそろ行くぞ」
カインはこのことを誰に話すか少しだけ悩んでいた。もう一度戻ってハーナム司教には説明するつもりだが、先ほどオリバー司祭が『暗部に頼む』とう言葉を聞き、知らないままでは護衛の冒険者たちにも被害が広がる可能性があると思っていた。
自分だけなら身を守れるが、今回の護衛はクロード達もいる。実力的には真正面からくれば問題ないと思っているが、どのような形で襲ってくるかわからないので心構えだけは必要だと感じている。
しかし一度ハーナム司教に話してから、説明するつもりでいた。
頭の中で整理をしつつ、クロードの後を追う。
すでに食事の準備は済んでおりテーブルを冒険者だけで囲んでいた。クロードとカインは空いている席に座るとリナが立ち上がり乾杯の挨拶をする。
「今日の襲撃への対応お疲れ様。誰も怪我がなくてよかったわ。襲撃地点から近いしここも危険かもしれないから、お酒は一杯だけね。監視については二人一組で一刻ずつ四組で回すわ。明日からも頑張りましょう。それでは乾杯!」
「「「「「「「乾杯!」」」」」」」
全員でジョッキを掲げ喉を潤していく。クロード達はカインから購入した
違うパーティーと一緒になる場合は個別に売りさばくこともあるとリナから教えられた。割高で売れることから自分たちの分はほとんどタダ酒になると胸を張っていたのをカインは思い出す。
しかし今回は襲撃からの生還とのことで、無償で振舞っていた。カインの援護があったとはいえ百人の盗賊を相手にするのは精神的に擦り切れるものがあった。
食事を済ませると片付けをしてから再度明日からの予定を話し合うことになっていたが、カインは一度席を外してハーナム司教のもとへ向かった。
すぐに許可が出て天幕へと入ると、護衛の神殿騎士は一礼した後に天幕の外へと出ていく。
「カイン殿、何かあったかな?」
「それなんですが実は――」
先ほど気配を消して不審だと思ったオリバー司祭の天幕で様子を伺っていると今回の襲撃について関与していること。
そして暗部に連絡をとり、今後も襲撃の可能性があることをハーナム司教に伝えた。
「――カイン殿の言葉でしたら本当なのだろう。本当に関わっているとは……。聖職者でありながらなんと嘆かわしい」
「えぇ、それで今後も襲撃がある可能性があります。冒険者たちでその情報を共有してい良いか司教に判断を仰ぎたく……」
「それは構わん。もし陛下からつけてもらった護衛に言わずに何かあったら申し訳が立たない。カイン殿も協力していただけるか?」
「もちろんです。僕は司教の護衛としてついてますから。それではこれから話してきます」
「うむ、くれぐれも慎重に。悟られたらまずいのでな」
カインは頷くと天幕を後にし、先ほど食事をしていた場所まで戻る。
すでに片付けは済んでいたようで全員が席に座り雑談を楽しんでいた。
「カイン、遅かったじゃねーか? どこか遊びにいってたのか?」
「皆さんに話があります。これは内密なので声を荒げないように聞いてください」
「うん? あぁ、わかった。皆もいいな」
カインの真剣な表情を察してか、クロードも冗談をやめて真剣な表情になった。
「先ほど司教様にも確認をとりましたが、やはり教会の関係者が昼間の襲撃に関わっているみたいです。予測ですが、主導しているのは主席枢機卿のバングラで、あそこで別に天幕を張っているオリバー司祭もその一味です」
「「「「!?」」」」
カインの衝撃的な言葉に全員の顔が引き締まった。
「あのうさん臭い司祭も仲間ってことか……。つるし上げればいいのか? あの野郎を……」
テーブルの上で拳を握りしめたクロードだが、カインは首を横に振る。
「証拠はありません。それと……教会の〝暗部〟が動く可能性があります。襲撃があるとしたら二日後あたりになるかと」
先ほどオリバー司祭の天幕から早馬に乗った神殿騎士が駆けていったのは確認済である。この場所から本都までは馬車で三日かかるが、早馬なら一日もかからずにつくだろう。それから暗部の手配をして向かうとしたら本都に到着する前日になるはずとカインは考えていた。
この先の道のりにどのような障害があるかわからないので、夜に抜け出して空から確認するつもりであった。
「――聞いたな。また襲撃があると考えてくれ。武器の手入れは怠らないように。全員で教都までたどり着くぞ」
「「「「おうっ!」」」」
全員が頷いた。これで少し安心できるとホッとしたカインであった。
「あ、カインはちょっとこれから話をしような」
クロードは笑みを浮かべてカインの肩をがっちりと掴んだのだった。