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転生貴族の異世界冒険録~自重を知らない神々の使徒~ 作者:夜州

第七章 マリンフォード教国編

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第十二話 敵対する派閥

いつもありがとうございます。6巻発売日は12月15日、コミック3巻は12月13日になります。


 食事の準備をしていると、同じ野営をしている一人がカイン達へとゆっくりと歩いてくる。

 白いローブを着ており教会関係者だということはすぐに理解できる。歳は二十代半ばの青年が笑顔のままカインたちへ話しかけた。


「馬車の旗を見る限り、エスフォート王国からだと思いますがハーナム司教の馬車でいらっしゃいますか? よろしければご挨拶をしたいのですが」

「はい、ハーナム司教は天幕で休まれておりますが、お伝えしましょうか? 良ければお名前を……」

「これは失礼しました。司祭を務めておりますオリバーと申します」

「オリバー司祭様ですね。今司教様に確認を取ってまいりますので少しお待ちを」


 冒険者の中で司教とのやりとりを行うのはカインだけとなっており、カインはハーナム司教が休憩している天幕へと向かう。

 天幕の入り口で待機していた神殿騎士に伝えると、少し待つように言われてカインは入り口で待っていた。

 すぐに許可が出て天幕へと入ると、司教の休むベッドの他、打ち合わせ用のテーブルも配置されていた。

 打ち合わせの最中のようで神殿騎士二人とハーナム司教は地図を見ながら話し合っていた。


「これはカイン殿。どうされました?」

「今、オリバー司祭がお見えになられているのですが、司教様にご挨拶したいと……」

「オリバー司祭ですか……大丈夫です」


 少しだけハーナム司教は考えた素振りをしたが、笑顔で頷いた。


「それではお伝えしてきます」


 カインは天幕から出てオリバー司祭を迎えると一緒に天幕へと入る。

 入れ替わりで神殿騎士が天幕を後にした。

 ハーナム司教がオリバー司祭に席を勧め着席するとカインは天幕を出ようとしたが、ハーナム司教に止められて隣に着席することになった。

 カインが同席することに、オリバー司祭は少しだけ表情を歪めた。しかしすぐに表情を戻すと定型的な挨拶から始まった。


「お久しぶりです、ハーナム司教。ご健勝で何よりです」

「お久しぶりですな、オリバー司祭も息災のようで」

「……できれば二人だけで話したいので人払いができれば……」


 オリバー司祭はカインへ少しだけ視線を送る。しかしハーナム司教は首を横に振った。


「すまんがそれはできないのだ。ここまでくる道中、大規模な盗賊に襲われてのぉ。なんとか撃退はできたのじゃが……。何があっても一人にならぬように護衛から言われておるのでね」

「?! それはまた……よくぞご無事で。私も本日山間の街道を抜けてきましたが、運が良いことに盗賊に合わずにすみました。もしかしたらその後に出没したのかもしれませんな……」

「同じ道を……。それはよかった。うちの護衛は優秀で助かったが、普通なら耐えきれるものではないほど多かったのでのぉ」

「そうでしたか。それでは仕方ありませんね。教皇選挙についてお話をお伺いできたらと思いましたが……」

「その件については私も誰とも話し合うつもりはない。当日までな」

「そうですよね。これは申し訳ございません。お忙しい中お時間をつくっていただき感謝いたします。本殿までご無事に辿りつけますように」


 少しだけ不貞腐れた声で挨拶をしたオリバー司祭は席を立ち天幕を後にしていった。

 オリバー司祭がいなくなるとハーナム司祭は疲れたようにため息をついた。


「カイン殿、いやなところに立ち会ってもらってすまんの」

「いえいえ、これくらいでしたら」

「街の教会でも今回の選挙について探りをいれられておってな。どこに行っても同じなのじゃ。少し愚痴らせてもらってもいいかの」

「僕でよければ……」


 ハーナム司教は現在いる四人の枢機卿について説明を始めた。先ほどまでいたオリバー司祭はバングラ主席枢機卿の派閥であり、精力的には一番強いこと。しかし裏で色々と動いているようで一線をおいていること。

 ハーナム司教の兄であるデンター枢機卿は派閥的には一番数が少ないが、弟の立場からしても人格者であること。

 しかし数の暴力には勝てず、教皇選挙に勝ち残るは難しいこと。

 愚痴は三十分をほど続き、話し終えたハーナム司教はすっきりとした表情になっていた。


「すまんの。色々愚痴ってしまって……」

「いえいえ、先ほどよりすっきりされていますから。そろそろ僕は護衛のところへ戻りますね」

「わかった。あと数日頼む」


 返事をしてカインはハーナム司教に一礼して天幕を後にする。しかしカインはその場からクロードたちが集まる場所に向かわずに、そのまま気配を消し姿を消した。


 ◇◇◇


「あのじじいめ。無事に切り抜けたのか」


 もう一つの天幕の中、オリバー司祭はワイングラスに酒を注ぎ一気に飲み干した。

 神殿騎士がお替りを注いでいく。


「それなりの人数を揃えているはずですが、あそこを抜けるのはありえないかと……それなりの実力がある騎士をつけてますし」

「そうだ。あそこには百人程度隠れさせていたはずだ。それを取り逃がすとは……。無能なやつは本当に駄目だ。バングラ様に確実に新しい教皇になってもらうのに盤石にせねばならん」

「そういっても、ハーナム司教はたぶん、兄であるデンター枢機卿の派閥は一番少ないかと」

「派閥的には一番少ないのはわかっている。しかし浮遊票で一番投票されるのはきっとデンター枢機卿だろう。派閥に所属していない司祭どもからは人気だからな」

「そうでしたか……」

「一人先行して本殿に走らせろ。急げば本殿に到着する前に暗部を使えばなんとかしてくれるだろう。到着したら手が出せなくなる」

「わかりました。書状を書いて一人すぐに走らせます」


 同席していた神殿騎士はオリバー司祭に一礼し天幕を後にする。


「ここで敵対候補はつぶしておきたいしな。司教の枠があけば、俺も司教に推薦してもらえるはず」


 オリバー司祭は残った酒を飲み干した。




二十五話まで毎日更新予定です。

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