第十話 襲撃者たちの末路
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空を飛び先回りして逃げ道を塞いだカインであったが、盗賊たちの顔色は少しだけ希望を見出せていた。先ほどまで馬鹿強い冒険者たちに撃退されたが、目の前に立っているのはまだ成人を迎えていないだろうという少年が一人。
どちらに逃げるかというのは明白であった。
実際に御者台の上から魔法を放っていただけのカインに盗賊たちの恐怖感はない。
「ガキが一人だけか。俺たちより先回りするなんて……。まぁ一人始末すればいいだけだ。お前らいくぞっ!」
男の言葉に残った盗賊はカインに向かって走り出す。先ほどの戦いで剣を投げ捨てた者は拳を握りしめ、懐からナイフを取り出す者。まだ剣を持っていた者は剣を構える。
盗賊たちはまだ二十人近くも残っており、このまま逃げ切れると思っていた。
しかしカインの一振りでその希望は打ち砕かれる。
剣を一振りしただけ。ただそれだけで真空の刃が盗賊たちを襲った。
カインも全員を絶命させるつもりもなく、足を狙い、剣を振ったのだが、迫る盗賊たちの下半身は次々と切断されていく。
先頭を走っていた半数はそのまま転がり、膝から下のない足からはとめどなく血が流れていく。
「ぐあぁ……こっちも化け物かよ……ちくしょう!」
無傷で残った盗賊たちは戦意を失い、その場に武器を投げ捨てて投身した。
カインは剣を納め、後陣を待つ。
その間に四肢欠損しながらも生きている者は魔法で傷口だけ塞ぎ、四肢に問題ない者は順番にロープで縛り上げていった。
盗賊たちもまさかこんな化け物だらけの護衛だと思っていなかったらしく、力無く俯いていた。
全員を縛り終えたところで、クロード達が馬車を護衛しながら進んできた。
「お、カイン。そっちも順調だな。思ったより生きてるじゃねーか」
「無駄に殺生する必要もないですし、人数が多い方が情報も増えるかと思って」
「確かにそうだな。まぁ尋問は神殿騎士に任せよう。俺たちの依頼内容じゃないしな」
「そうですね」
クロードとカインは神殿騎士に尋問については任せて休憩となった。
冒険者全員で円になるように座るとクロードが話し始めた。
「あの盗賊達武器が全部統一されていた。盗賊ではありえないだろ。どこかにバックがいるはずだ。しかも何人か盗賊とは思えない動きもしていたしな」
盗賊はもっと無計画で襲ってくる事が多いが、今回襲ってきた盗賊はかなり統制が取れていた。動きはそこまで早くないにしても指揮をとっている者はそれなりの実力があるとクロードたちは考えていた。
「尋問で吐けばいいんだけど……。この後、教都まで何があるかわからないから護衛は気合入れないとね」
クロードの言葉に同意したリナが話を進める。
「まぁ何があってもカインがいればなんとかなるしねっ」
「うむ、カイン無敵」
ミリィとニーナは特に気にした様子もない。
「それにしても、子供だと思っていたがカインって強いのな。クロード達が信用しているのが良くわかったよ。今回の護衛を任されることはあるな」
「だろー。何てったって俺より上のSランクの冒険者様だしなっ! 痛っ!」
「クロード! それは秘密でしょ……ってもう遅いか……」
クロードの軽口にリナが頭を叩いたが、カインのランク知らなかった冒険者は唖然とした。
カインも信用のおける仲間だと思っているので隠すつもりはなかったが苦笑する。
「マジかよ」
「ガキだと思って絡まなくて良かった」
「どうりで司教様の馬車に同乗しているだけはあるな」
「それは思った」
固まっていた冒険者たちもクロードの知り合いとわかっていたので遠慮して文句を言わなかったのが功を奏した。
ホッとした表情でカインに視線を送った。
「隠すつもりはなかったですがすみません。陛下からの依頼だったのと司教様は知り合いなので……」
カインはあくまで冒険者としての立場として今回の護衛に参加している。
貴族当主としての身分については明かすつもりはなかった。クロードには最初にリナと一緒に念を押してあるので話すことはないだろうと思っていた。
雑談を続けていると、焦ったように神殿騎士がカイン達へと走ってきた。
「待たせたな。説明だけしておく。尋問をしていたが、リーダー格の男は最初の戦いで死亡している。その片腕だった男が生きていたが、尋問中に歯に仕込んでいた毒を飲んで死んだ。だが問題はそこではない……」
神殿騎士の表情は暗い。眉根を寄せ歯を食いしばり拳も硬く握っている。
「……盗賊のリーダーとその片腕は――――神殿騎士だった」
予想外、いや、予想内という状況にカイン達の表情は一気に硬くなった。
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