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転生貴族の異世界冒険録~自重を知らない神々の使徒~ 作者:夜州

第七章 マリンフォード教国編

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第九話 襲撃

12月は発売日まで毎日7時に更新します。


 

 小休憩を終わらせた司教を乗せた一行は警戒をしながらゆっくりと馬車を進めていく。

 定期的に偵察と思われる者を感知していたが、一キロ先に襲撃者が集まっていることを感知した。

 小窓を開けてカインはクロードに声を掛ける。


「クロードさん、襲撃者がこの先一キロのところに集まっています。数は――百程度」

「まじかっ!? 襲撃のためにそんなに集める必要があるのかっ!?」

「普通ならありえません。検問でもありませんし、何か思惑があるのかも……」

「カイン殿、ちょっといいか」


 カインとクロードが馬車越しで話していると、ハーナム司教が声を掛けてきた。


「どうしました? 司教様」

「いやな。マリンフォード教国にそんな盗賊はいないはずなのだ。この時期になってこれだけ現れるということは……もしかしたら枢機卿の手が回っているのかもしれん」

「えっ……それって……」

「今回、各国から司教が次々と帰国している。誰もが四人の枢機卿の派閥に入ってるのが普通なのだ。私もエスフォート王国の司祭の票を含めれば二十程あるのだ。もし、私が対立候補に票を入れるとなると……困る者がいるだろう。私の兄が枢機卿の一人。兄が私に刺客を送るわけはないだろう。そうすると残り三人の誰か……」


 ハーナム司教の言葉にカインとクロードは眉根を寄せた。投票するのを妨害するのに盗賊を使って命をも刈る。教皇になるのは魅力的なことだとわかるが、その為に手段を選ばないのは考えられなかった。

 カインはヒナタがエスフォート王国に来た時の事を思い出す。神殿騎士が聖女の暗殺を目論み失敗したこと。マリンフォード教の名の下に裏では魑魅魍魎の世界が広がっているのだとカインは苦虫を噛み潰したような表情をする。


「カイン殿……その数の襲撃者。大丈夫なのですか?」


 少し不安な表情を浮かべたハーナム司教だったが、カインとクロードは目を合わせて笑みを浮かべた。


「司教様、問題ないですよー。こっちにはカインがついていますからね。その時点で襲撃は失敗ってことです。まぁ捕まえて尋問しないといけないでしょうけど。黒幕を吐かせないといけないですしね。とりあえず皆に襲撃のこと伝えてきます」


 馬を走らせて神殿騎士と冒険者に伝えていく。クロードから話を聞くと全員が戦闘準備を整えていった。


 襲撃者の集団まで残り少しというところで全員が馬から下りる。騎乗したままで弓矢が馬に当たれば落馬で怪我をする可能性もあり、咄嗟に動けるように下りていた方がいいのだ。

 カインもハーナム司教に話し、御者台へと移動した。

 ゆっくりと馬車を進めていくと、待ち構えていたかのように両脇から次々と盗賊が現れた。汚れた革鎧を身につけているが、すでに抜かれた剣だけは綺麗に磨きがかかっている。


「おいおい、ここは通り抜け禁止だぜ? 全員武器を捨てろ。命が惜しければな」


 一人の盗賊がニタニタしながら前に出てきた。しかし武器を捨てろと言って捨てるはずがないとわかっているのか、百人近くの盗賊がゆっくりと広がってカインたちに近づいていく。


「おい、この教国はこんな盗賊だらけなのか? しかも全員弱そうだしな。どこかで拾った棒切れ持って強くなったと思っているのか?」


 クロードは盗賊たちを煽っていく。護衛の神殿騎士は強張った表情をしているが、クロードは話を続ける。


「おい、そういえばどこの枢機卿の手のもんだ? あとで神殿に行ったら、俺がケツを蹴飛ばしてやるからよ」


 クロードの煽りに盗賊たちの表情は怒りで真っ赤に染まっていく。最初に出てきた盗賊が目配りをすると、全員が武器や弓を構えて始めた。


「いつまで強がりを言っていられるかな。女も三人もいるのか。こりゃ全員始末した後はお楽しみだな」


 しかしリナやミリィ、ニーナもそんなことは気にせず澄ました顔をしている。全員が負けることは確実にないとわかっていたからだ。


「……もう始末していい?」


 ニーナは杖を構えて、いつでも魔法を放てる準備をしている。


「ちょっと私にもやらせなさいよ。こいつらの顔見てたらぶっ放したくなってきたわ」


 クロードの両脇にはリナとニーナが並んで立つ。


「おう、可愛いねーちゃんがわざわざ出てきてくれたぜ」


 盗賊は汚い笑みを浮かべながら自分の仲間たちへ笑いを誘う。しかしそれがその男の最後だった。


真空刃(エアカッター)

火炎壁(ファイヤーウォール)


 二人から放たれる魔法で先頭に立っていた盗賊は上半身と下半身が別れ、そのまま焼き尽くされていく。ニーナから放たれた空気の刃はいくつにも分裂し一人だけでは留まらず、数人を切り裂いていく。

 同じように幅十メートル、高さ五メートルある炎の壁が盗賊たちを飲み込んでいく。

 あちこちからあがる悲鳴を合図に、冒険者たちは切り込んでいく。神殿騎士は馬車の護衛をし、攻撃は冒険者が行うことが事前に打ち合わせ済みであった。

 最初は難色を示した神殿騎士も司教の保護を第一優先と説くと渋々納得していた。


 カインは御者台に立ち、遠くにいる弓を持っている盗賊に魔法を放っていく。


真空弾(エアバレット)


 次々と連射していくカインの魔法は、体の一部に当たるとそのまま破裂し、一撃で盗賊の命を奪っていく。


「こいつら化け物だっ! 逃げるぞっ!!」


 八割以上が倒れ護衛の冒険者たちの実力を目の当たりにし、恐怖からか次々と盗賊は逃げ出していく。

 リナとニーナの魔法の追撃によってさらに減った盗賊は逃げるのに邪魔な武器も投げ捨てて走り出す。

 しかしクロードたちは追うことをしなかった。


 あまりの強さに逃げ出し生き残った僅かな盗賊たちは、冒険者たちが追ってこないことに安堵の息を吐く。


「信じられねぇ。なんだあの化け物揃いは……。護衛ならCランク程度の筈だろ。でも助かった……。戻ったらあの方に説明しないとな……」


 盗賊たちは全員が自分たちは助かったと思った。しかし――。


「まさか逃げられると思っていないよね? あの方(・・・)って人の事もゆっくり説明してもらおうか?」


 逃げた先に何故か先回りした銀髪の悪魔のような笑みを浮かべ、剣を構えたカインが立っていた。




 


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