第六話 情報交換
「ありがとうございました」
神々との話を終え意識を戻したカインは立ち上がり、少し多めの寄付をシスターに渡して教会を後にし、クロードたちと合流した。これから宿へと向かい次の朝まではゆっくりとする予定となっている。
協会から少し離れた場所の宿の厩舎に馬を預け、カイン達は受付を済ませ各自の部屋へと入った。
カインはクロードと一緒の部屋になっている。
「それにしてもカインとまた依頼を受けることになるなんてな。まぁ何があっても安心なのはあるけどな。ドラゴンが出てきても怖くないぜっ」
クロードは明るく笑いながら装備を脱いでラフな格好に着替えた。カインも貴族服にも着るわけにもいかず、用意した私服に袖を通す。
この世界で一番強い冒険者だということはクロードも理解している。そして上級貴族である辺境伯とも。それでも態度を変えないクロードに友達感覚で話せることに感謝していた。リナがいないところ限定という条件はあるが。
「さすがに貴族の身分では教国に申請しないと入国できませんしね。たまにはこの方が気楽でいいですよ」
簡単に王都にもドリントルにも戻ることは可能であるが、緊急時以外は戻るつもりはなかった。ドリントルにいるリザベートには悪いと思っているが、何かあればダルメシアを通じて連絡がくることになっていた。
今回の旅はクロードと同室となっており、カインが転移魔法を使えることを知らないので気軽に見せるわけにもいかない。
二人で雑談をしながら部屋を出て食堂へと下りていくと、すでにミリィやニーナ、リナの三人はテーブルを囲んでいた。
「遅いよ! まったく男なのにそんなに準備にかかるなんてっ」
リナは待ちきれなかったようで、すでにジョッキを傾けていた。ミリィとニーナは苦笑しながら手をあげる。
「お待たせしました。クロードさんと話してたらつい……」
カインは軽く頭を下げてから空いているミリィとニーナの間の席につく。丸いテーブルの並び的はリナ、クロード、ミリィ、カイン、ニーナの順番だ。
「カインは未成年だからジュースな。エールとジュース追加で!」
クロードが店員に声をかけて追加の注文をする。つまみに関してはすでにリナが頼んでいた。
ドリンクはすぐに運ばれてきて各々に置かれると、改めて乾杯をすることになった。
「とりあえず無事に教国に到着ってことでかんぱーい!」
「「「「かんぱいっ!」」」」
ジョッキを軽くぶつけ合い口へと運ぶ。
「教都まではあと三日の旅だし、教都についたら少しのんびりできるかなぁ」
今回の護衛は片道一週間、教都での滞在は十日間、後は帰りの日程となる。普段なら片道で護衛は終わりになるが、今回は司教の護衛ということもあり、信用できる冒険者に依頼するために往路も護衛依頼に含まれている。
長期間の同行のため、それなりの依頼料となるが王国が大半の補助金を支給しているため、クロードたちにとってもおいしい依頼であった。
「そういえばさっき聞いたけど、この付近も少し物騒になってるみたい。教会の馬車ですら襲われていると聞いたわ」
「えっ!? この教国内でっ!?」
マリンフォード教国は国の名前の通り、マリンフォード教が主体となって運営している国である。住民の全員は熱心な信徒であるのが普通だ。それは農民まで含めて行き渡っている。
それが教会の馬車まで襲われることになると国のとっては一大事なことは明白である。
「それが……今回、教皇の選挙があるでしょう? 各国から司祭様や司教様が集まってきているのだけど、襲われる馬車が何台もあるんだって。もちろん商会の馬車も被害を受けているみたいだけど」
「……それは少しキナ臭いな。もしかしたら選挙の妨害……。それは言い過ぎか。まさか枢機卿が盗賊と繋がっているはずもないし……」
リナの言葉にクロードが考え込む。カインも同じようにライムの言葉を思い浮かべた。
(もしかしたら枢機卿が手配して……? いや、それは難しい。枢機卿は基本本殿にいるからそんな情報は入ってこない。そうしたら一体どうやって……?)
答えがでないまま、話は進んでいく。
「本殿までの三日間、私たちも狙われるかもしれないわね。気を引き締めていかないと……」
「まぁ、それはそうだが、こっちにはーーカインがいるしな。まず負けることは……ない」
「「たしかにっ」」
クロードの言葉にミリィとニーナが同意する。カインの実力を知っている者からすれば、カインに挑むならドラゴンに挑んだほうがマシだとここにいるメンバーは思っている。
それは何百人の味方がいても同じことだと分かっている。実際にここにいるメンバーはイルスティン共和国からの帰り道にあった襲撃を経験している。
常識外れのカインの魔法を目の当たりにして、絶対に敵対してはいけないと心に刻まれている。
ミリィとニーナは自分の教え子であり、恩人でもある。カインからもらった
ニーナに至っては、未だに愛人になるという野望を抱いている。
「明日から少し気をつけて護衛するようにしましょう」
リナの言葉に全員が頷いたのだった。
いつもありがとうございます。