第五話 神々の希望
「それでは出発」
一泊したカインたちはシルベスタの街を出発した。朝食の時間も司教とラグナフの会話は弾んでいた。カインはよくあそこまで話が続くなと思いつつも自分に被害が及ばない程度に相槌をうっていた。
朝食を済ませ、シルベスタの街を出発することになった。
ラグナフ伯爵も国境付近まで同行すると申し出たが、司教が拒否したために渋々街の入口で見送りとなった。
「それにしてもラグナフ卿は熱心な信徒であられるな……。少しだけ熱狂的とも言えますが……」
司教の言葉にカインは苦笑しながらも頷いた。実際には夕食の後にラグナフと司教は別室にて軽く酒を交わしながらさらにマリンフォード教について熱く会話を交わしていた。
カインはその場にいなかったことにホッとする。
馬車はマリンフォード教国へ進み続け、半日ほどで国境の橋へと差し掛かる。
止まることもなく、馬車はマリンフォード教国内を進み続け途中一泊野営をしながら、街へとたどり着いた。
マリンフォード教国内の街は白の家が基本とした落ち着いた街並となっていた。司教の説明では中心地に教会があり、内政を司る文官が代官として各街を治めている。
汚職が行われないように、教会を取りまとめる司教や司祭と互いに監視しながら街を運営している。
「ここはジェナシーの街です。ここから本殿までは三日ほどで到着する予定です。まずは教会へ向かいましょう」
司教が神殿騎士に指示を出すと、馬車を先導していく。
司教と神殿騎士は教会に泊まり、護衛であるカインたち冒険者は宿屋に泊まることになっている。
教会の前に馬車を止めると、中から司祭とシスター数人が外へと出てきた
「これはハーナム司教、長旅お疲れ様でございます。部屋は用意してありますのでこちらへどうぞ」
「うむ、一泊世話になる。カイン殿、ここで問題ないぞ。明日迎えにきてもらえれば構わない」
「はい、司教様。出来ればせっかく教会にきたのですから、お祈りしてからで構いませんか?」
カインの言葉に司教は笑みを浮かべ頷いた。
「これは冒険者なのに立派な心掛けですね。さぁ冒険者殿も中へとどうぞ」
司祭の案内でカインは教会の中へと入る。造りは規模にもよるが基本的に同じ大きさである。ドリントルの教会については前司祭が自分の威光を示すたびに、大規模な教会が建っているが、取り壊すことなくそのまま利用している。
現状のドリントルの規模にあわせるとちょうど良い規模だが、中は質素に変わっており、現在のドリントルの教会は以前と変わって毎日住民の多くが祈祷や治療をするために通うため賑やかな場所となっている。
カインは祭壇の前に膝をついて手を合わせ祈りを捧げる。
同時に世界が白く変わった。
「カイン、久しぶりだのぉ。相変わらず退屈しない生活を送っているようだな」
「――ご無沙汰しております。色々と巻き込まれていますよ。相変わらず」
カインは立ち上がると、空いている席を座る。
「こちらは楽しく眺めさせてもらっているのじゃがな。アーロンの思念との戦いは見事じゃった。まさか意識をあそこまで乗っとるとは思っていなかったがな……。わしらには何も手が出せん。繋がりがあるとはいえユウヤはすでに他の世界の神じゃ。カイン。お主だけが今は頼りなのじゃ」
「……わかりました。こちらでできる範囲になりますが、対処するようにします。それよりも聞きたいことが……」
「うむ、それは今回お主が聖女に会いにいく件についでであろう。それはライムから説明させよう」
隣に座っていたライムがゆっくりと頷いた。
「まずはマリンフォード教の教皇殺害についてですが、これはバイサス帝国の密偵ですね。宝物庫からいくつかの宝を盗んでいったようです。まぁ、あの教皇と呼ばれた者はそれなりに信仰してくれたので、たまに言葉を神託として授けてましたが。それよりも、ヒナタのことですね。これから新しい教皇を選出することになると思いますが、その中には神への信仰もない者もおります。その者たちが新しい教皇になったら、神託を出すこともなくなるでしょう」
カインは予想外の真相をライムから説明され、逆に困惑してしまう。あくまでカインはヒナタに会いにいくだけだ。しかも司教の護衛として貴族の身分を隠し、冒険者としていくのである。
今回のバイサス帝国の密偵が教皇を殺害したと教えられても何もできるわけではない。逆にその理由も説明できることではない。
『神から教えてもらいました』などと説明しても、証拠を出せるわけでもないし、エスフォート王国の上層部、また、今回同行している司教くらいしか信じてもらえると思っていない。
「そうだったんですか……。それで神さまたちにとってどの人が新しい教皇がいいとかってあるのでしょうか」
神々が認めた者が教皇になるのならば、カインも応援してもいいと思っている。
実際にはカインにはその権限はまったくないのだが、神々の言葉をヒナタに伝えることはできると考えていた。
「基本的に私たちにそれを決める権利をありません。しかし出来れば私たちを信仰してくれる人のほうがいいですね。それでしたらーー」
ライムは顎に手を当て少しだけ悩み、一人の名前をあげた。
「この人間が新しい教皇になるのならば、今後も神託をおろしましょう。ヒナタとも関係は良好のようですし」
カインにとってはその言葉が決め手となった。たとえどんなに信仰心が高くても、ヒナタとの関係が悪ければ応援することなどできないし、信用もできない。
ヒナタにもいざという時に身を守るアイテムは渡しているが、使用されるという時は深刻な時だ。
そんな時が起きないことを祈って、カインはライムから告げられた名前を心に刻んだのだった。
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