名エッセイストとしても知られた,世界的な数学者の岡潔.ゴールデンウィーク中に偶然書店で見つけた『情緒と日本人』には,そんな岡先生の時代を超えて色褪せない名言が数多く収められていました.ご関心をもたれた方は,ぜひ本書を手に取ってご覧下さい!深く情緒に富んだ思索に、多くの方が啓発されることと思います.
以下,個人的に印象に残ったフレーズです.ご参考まで!
以下,個人的に印象に残ったフレーズです.ご参考まで!
第一章:情緒と日本人
・人と人との間にはよく情が通じ,人と自然の間にもよく情が通じます.これが日本人です.
『岡潔集(第五巻)』
・標語としての徳目の実行は,善行の練習にはなるであろうが,善行そのものとはいえない.
『春風夏雨』
・情緒の濁りはいけない.情緒は喜怒哀楽によって濁ります.とくに,人を恨むというようなことをするとひどく濁ります.
『風蘭』
・なにかいちいち文字に書き表して,それに認め印までおしてもらわなければ承知できない,そのようにしてはじめて安心するというふうなつながりでは,つながっているということの実感はけっして出てきません.
『風蘭』
・生命というのは,ひっきょうメロディーにほかならない.日本ふうにいえば“しらべ”なのである.
『春風夏雨』
・人は,男・女性に関するさまざまなことを,さまざまな経験によって知るのではなく,情緒的に,すでに知りつくしていることを,単に経験によって,具体的に知るだけのことなのです.
『風蘭』
・孔子の『論語』に,最初は学をつとめ,次に学を好み,最後に学を楽しむという境地の進み方を述べたことばがあるが,この「楽しむ」というのが学問の中心からの春風の吹く所に住むことにほかならない.
『春宵十話』
・フランスのジイドは「無償の行為」ということをいっている.これはこのくにの善行と似ているようだが,大分違う.このくにの善行は「少しも打算,分別の入らない行為」のことであって,無償かどうかをも分別しないのである.
『春宵十話』
・心の眼が開いていないと,もののあるなしはわかるが,もののよさはわからない.たとえば秋の日差しの深々とした趣はけっしてわからないのである.
『月影』
・私は答案などによってくわしく研究した結果,男性は普通,知から情に向って意志が働くが,女性は逆に情から知に向って意志が働くらしいことを知った.
『紫の火花』
・人の中心は「情」であって,情の根底は「人の心の悲しみを自分のからだの痛みのごとく感じる心」すなわち観音大悲の心である.
『月影』
・日本語は物を詳細に述べようとすると不便だが,簡潔にいい切ろうとすると,世界でこれほどいいことばはない.簡潔ということは,水の流れるような勢いを持っているということだ.
『春宵十話』
・情緒を形に表現することは大自然がしてくれるのであるから,大自然に任せておいて,人は自分の分をつとめるべきである.情緒を清く,豊かに,深くしてゆくのが人の本分であろう.これが人類の向上ではなかろうか.
『紫の火花』
第二章:日本民族
・明治以前の日本人は,死ねばそれきりなどとは思っていなかったのであって,この一生をながい旅路の一日のごとく思っていたのである.そして私もそう思っている.
『春の雲』
・今往古来地に邦する民族は多いが,「知性」に「自主性」を与えたものは,ひとり大ギリシャあるだけである.これなしに西洋の学問も芸術もない.
『春の雲』
・知性は理性と同一ではなく,理想を含んだものだと思うが,はっきりと理想に気づいたのもギリシャ文化が初めてだった.これを代表しているのがプラトンの哲学・及びユークリッドの幾何学である.
『春宵十話』
・アメリカという国は,個性を尊重するようでいて,じつは個性を大事にすることを知らない国です.それを真似ているんですから.食べ物にも個性がなくなっていきますね.
『対談 人間の建設』
・欧米人がはじめたいまの文化は,積木でいえば,一人が積木を置くと,次の人が置く,またもう一人も置くというように,どんどん積んでいきますね.そしてもう一つ載せたら危ないというところにきても,倒れないようにどうにか載せます.そこで相手の人も,やむをえずまた載せて,ついにばらばらと全体がくずれてしまう.いまの文化はそういう積木細工の限度まで来ているという感じがいたします.
『対談 人間の建設』
第三章:数学と芸術と文学と
・刹那に悠久を見るのが美です.美術というものは悠久の影です.
『岡潔集(第一巻)』
・知的創造はつねに知と未知との境において起きるのである.これが容易に起らないのは,知の麻痺が非常に深いからであると思う.
『紫の火花』
・わたしは数学をやっています.数学の研究とはどういうことをしているかといいますと,情緒を数学という形に表現しているのです.
『風蘭』
・研究の壁に突き当たったときに,海の魚が真水の中に入れられてぐんにゃりしているときに一つまみの塩をあたえられるという働きを,ある種のすぐれた文学がしてくれるのです.
『風蘭』
・私は三日かからねば,つまり二晩寝なければ解けないという問題から問題と呼ぶことにしている.
『紫の火花』
・数学の目標は真の中の調和であり,芸術の目標は美の中における調和である.
『春宵十話』
・今の数学者をみると,数学の研究を知的にやり,あるいは意志的にやる人はいるが,まだ感情的にやるところまではいっていない.これは,つねづね私の言っていることだが,本当はそこまでゆかねば駄目だと思う.
『紫の火花』
・こういう世相にあって,のんきな数学などは必要ないと思う方もあるかも知れません.しかし,数学というのは闇を照らす光なのであって,白昼にはいらないのですが,こういう世相には大いに必要となるのです.
『春宵十話』
・私は,創作では,ドストエフスキーのものが断然群を抜いていると思っているのですが,おすすめできますものは,『白痴』『カラマゾフの兄弟』の二つしかありません.
『月影』
・あなた方にぜひおすすめしたい本に,フランスの作家サン=テグジュペリの日本語訳「星の王子さま」というのがあります.童心を知るまことによい本です.
『風蘭』
第四章:教育
・人の子を育てるのは大自然なのであって,人はその手助けをするにすぎない.「人づくり」などというのは思い上がりもはなはだしいと思う.
『春宵十話』
・現代は他人の短所はわかっても長所はなかなかわからない.そんな風潮が支配している時代なのだから,学問の良さ,芸術の良さもなかなかわからない.
『春風夏雨』
・いま,たくましさはわかっても,人の心のかなしみがわかる青年がどれだけあるだろうか.人の心を知らなければ,物事をやる場合,緻密さがなく粗雑になる.粗雑というのは対象をちっとも見ないで観念的にものをいっているだけということ,つまり対象への細かい心くばりがないということだから,緻密さが欠けるのはいっさいのものが欠けることにほかならない.
『春宵十話』
・文章を方程式に直すだけ.これを方程式を立てるというのですが,これができなかったら,できる高等数学は一つもありません.
『風蘭』
・数学において自然数の一とは何であるか,ということを数学は全く知らないのである.のみならず,ここはとうてい手におえないとして,初めから全然不問に付しているのである.数学が取り扱うのは,自然数の全体と同じ性質を持った一つの体系が存在すると仮定しても矛盾しないか,という問題から向うのである.
『春風夏雨』
太字のフレーズについては,twitterでも呟かせて頂きました.こちらのまとめをご参照下さい!
・人と人との間にはよく情が通じ,人と自然の間にもよく情が通じます.これが日本人です.
『岡潔集(第五巻)』
・標語としての徳目の実行は,善行の練習にはなるであろうが,善行そのものとはいえない.
『春風夏雨』
・情緒の濁りはいけない.情緒は喜怒哀楽によって濁ります.とくに,人を恨むというようなことをするとひどく濁ります.
『風蘭』
・なにかいちいち文字に書き表して,それに認め印までおしてもらわなければ承知できない,そのようにしてはじめて安心するというふうなつながりでは,つながっているということの実感はけっして出てきません.
『風蘭』
・生命というのは,ひっきょうメロディーにほかならない.日本ふうにいえば“しらべ”なのである.
『春風夏雨』
・人は,男・女性に関するさまざまなことを,さまざまな経験によって知るのではなく,情緒的に,すでに知りつくしていることを,単に経験によって,具体的に知るだけのことなのです.
『風蘭』
・孔子の『論語』に,最初は学をつとめ,次に学を好み,最後に学を楽しむという境地の進み方を述べたことばがあるが,この「楽しむ」というのが学問の中心からの春風の吹く所に住むことにほかならない.
『春宵十話』
・フランスのジイドは「無償の行為」ということをいっている.これはこのくにの善行と似ているようだが,大分違う.このくにの善行は「少しも打算,分別の入らない行為」のことであって,無償かどうかをも分別しないのである.
『春宵十話』
・心の眼が開いていないと,もののあるなしはわかるが,もののよさはわからない.たとえば秋の日差しの深々とした趣はけっしてわからないのである.
『月影』
・私は答案などによってくわしく研究した結果,男性は普通,知から情に向って意志が働くが,女性は逆に情から知に向って意志が働くらしいことを知った.
『紫の火花』
・人の中心は「情」であって,情の根底は「人の心の悲しみを自分のからだの痛みのごとく感じる心」すなわち観音大悲の心である.
『月影』
・日本語は物を詳細に述べようとすると不便だが,簡潔にいい切ろうとすると,世界でこれほどいいことばはない.簡潔ということは,水の流れるような勢いを持っているということだ.
『春宵十話』
・情緒を形に表現することは大自然がしてくれるのであるから,大自然に任せておいて,人は自分の分をつとめるべきである.情緒を清く,豊かに,深くしてゆくのが人の本分であろう.これが人類の向上ではなかろうか.
『紫の火花』
第二章:日本民族
・明治以前の日本人は,死ねばそれきりなどとは思っていなかったのであって,この一生をながい旅路の一日のごとく思っていたのである.そして私もそう思っている.
『春の雲』
・今往古来地に邦する民族は多いが,「知性」に「自主性」を与えたものは,ひとり大ギリシャあるだけである.これなしに西洋の学問も芸術もない.
『春の雲』
・知性は理性と同一ではなく,理想を含んだものだと思うが,はっきりと理想に気づいたのもギリシャ文化が初めてだった.これを代表しているのがプラトンの哲学・及びユークリッドの幾何学である.
『春宵十話』
・アメリカという国は,個性を尊重するようでいて,じつは個性を大事にすることを知らない国です.それを真似ているんですから.食べ物にも個性がなくなっていきますね.
『対談 人間の建設』
・欧米人がはじめたいまの文化は,積木でいえば,一人が積木を置くと,次の人が置く,またもう一人も置くというように,どんどん積んでいきますね.そしてもう一つ載せたら危ないというところにきても,倒れないようにどうにか載せます.そこで相手の人も,やむをえずまた載せて,ついにばらばらと全体がくずれてしまう.いまの文化はそういう積木細工の限度まで来ているという感じがいたします.
『対談 人間の建設』
第三章:数学と芸術と文学と
・刹那に悠久を見るのが美です.美術というものは悠久の影です.
『岡潔集(第一巻)』
・知的創造はつねに知と未知との境において起きるのである.これが容易に起らないのは,知の麻痺が非常に深いからであると思う.
『紫の火花』
・わたしは数学をやっています.数学の研究とはどういうことをしているかといいますと,情緒を数学という形に表現しているのです.
『風蘭』
・研究の壁に突き当たったときに,海の魚が真水の中に入れられてぐんにゃりしているときに一つまみの塩をあたえられるという働きを,ある種のすぐれた文学がしてくれるのです.
『風蘭』
・私は三日かからねば,つまり二晩寝なければ解けないという問題から問題と呼ぶことにしている.
『紫の火花』
・数学の目標は真の中の調和であり,芸術の目標は美の中における調和である.
『春宵十話』
・今の数学者をみると,数学の研究を知的にやり,あるいは意志的にやる人はいるが,まだ感情的にやるところまではいっていない.これは,つねづね私の言っていることだが,本当はそこまでゆかねば駄目だと思う.
『紫の火花』
・こういう世相にあって,のんきな数学などは必要ないと思う方もあるかも知れません.しかし,数学というのは闇を照らす光なのであって,白昼にはいらないのですが,こういう世相には大いに必要となるのです.
『春宵十話』
・私は,創作では,ドストエフスキーのものが断然群を抜いていると思っているのですが,おすすめできますものは,『白痴』『カラマゾフの兄弟』の二つしかありません.
『月影』
・あなた方にぜひおすすめしたい本に,フランスの作家サン=テグジュペリの日本語訳「星の王子さま」というのがあります.童心を知るまことによい本です.
『風蘭』
第四章:教育
・人の子を育てるのは大自然なのであって,人はその手助けをするにすぎない.「人づくり」などというのは思い上がりもはなはだしいと思う.
『春宵十話』
・現代は他人の短所はわかっても長所はなかなかわからない.そんな風潮が支配している時代なのだから,学問の良さ,芸術の良さもなかなかわからない.
『春風夏雨』
・いま,たくましさはわかっても,人の心のかなしみがわかる青年がどれだけあるだろうか.人の心を知らなければ,物事をやる場合,緻密さがなく粗雑になる.粗雑というのは対象をちっとも見ないで観念的にものをいっているだけということ,つまり対象への細かい心くばりがないということだから,緻密さが欠けるのはいっさいのものが欠けることにほかならない.
『春宵十話』
・文章を方程式に直すだけ.これを方程式を立てるというのですが,これができなかったら,できる高等数学は一つもありません.
『風蘭』
・数学において自然数の一とは何であるか,ということを数学は全く知らないのである.のみならず,ここはとうてい手におえないとして,初めから全然不問に付しているのである.数学が取り扱うのは,自然数の全体と同じ性質を持った一つの体系が存在すると仮定しても矛盾しないか,という問題から向うのである.
『春風夏雨』
太字のフレーズについては,twitterでも呟かせて頂きました.こちらのまとめをご参照下さい!
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