では夫が、私達家族よりも、亡くなられたという林さんとの
関係を大事にしていた、ということでもないのです。
彼が大事だったのは、SNS上の”万能で頼りにされる自分”
でしょう。結婚前、夫がツイッターの匿名アカウントをつくり
過激な発言をしては、フォローが増えるのを喜んでいて
食事中も携帯ばかりみるほどハマっていたので、厳しく
注意したことがあります。以後私の前ではやらなくなった
し、結婚して子供もできると忙しくなるので、やめたんだと
思っていました。今回の報道で、私に隠れて続けていて
blogやら電子書籍に発展していたことを、知った次第です。
私は詳細を何も聞かされていなかったので、京都の方
だったかどうかも覚えていないのですが、
「遠方に住んでいるALS患者を、当院で受け入れないか」
と言われた記憶はあります。私はそのとき
・重度訪問介護(一日26時間、つきっきりで介護する)で
支える必要があるが、それだけのマンパワーを当方で
確保するには、人件費がいくらかかるか。もしその方が
亡くなってしまっても、スタッフを解雇するわけにはいか
ない。外注でやってもらえるところを探すのも、大変な
作業になるだろう。そもそも、遠方ということだが、移動
中に急変したらどうするのだ。ALSの方にあった福祉
用具の調達にも手間と費用がかかるが。今後も難病
患者さんを受け入れていくという事業コンセプトを明確
にもつならば、最初は赤字になってもいいということで
その方を受け入れる腹積もりが必要だよね。どうするの?
といったところ、夫が黙ったので、そこで話は終わって
いました。もしそこで夫が
「どうしても、当院でうけいれたい」
という意向を私に示していれば、調整に乗り出していま
した。そのときの話題が、今回の報道にある林さんだった
のだとすればです。林さんのことも大切に考えたなら
上記に示したような手間とリスクをすべて抱え、十分な
聞き取りと、必要な説明をし、リスクを伝え、契約をして
臨むはずですので。それら全部すっとばして、「いきなり
林さんのマンションに行く」なんてもう、言葉を失います。
アスペルガー症候群を抱えていた夫は
空気読めないし
言葉の背景にある機微を読み取ることもできず
患者さんに関わる人たちの思いや思惑にも
関心をもとうとしません。いや、考えを及ばせる
ことができないのです。
夫は、患者さんからは、なかなか評判のいい
医者でした。
「よく話をきいてくれる」
と。なぜなら、目の前の患者さんのことにしか
集中しないから、なのです。うちのクリニックでは
私が、勤務先ではそちらのナースはじめスタッフ
さんが、彼の性格や特性を理解し、フォローし
てくれていたから、ようよう診療の体を成してい
たのです。
日本の医療福祉制度下において、医師とは
患者さんのための医療を提供すると同時に
スタッフや関係機関に仕事をまわす、利益
配分者でなければなりません。患者さんは
「早く楽にしてほしい」と訴えても、患者さんが
生きていてくださることで、診療報酬や介護
報酬があり、スタッフさんに人件費を支払う
ことができる仕組みがある。患者さんに短時間
でなくなられてしまうと、報酬が止まってしま
うから。もちろん年金も。医師は、その思いが
対立する間にたち、双方が納得できるように
立ち回る役目があります。が、アスペルガー
障害を抱える夫には、患者さんの訴えのほう
しかみえなかった。患者さんのためだけの
医療だけをやっていたかったのです。
私は夫婦であった期間、言葉を尽くして説明し
時には声を荒げ、夫の認知や行動を変えさ
せようとしました。しかし今回の逮捕で私が
直面したのは、夫が私の前では、私に話を
あわせていただけだったことです。私に隠し
たぶんだけ、また開業に伴いわかってくる
現実というものに直面した分だけ、SNS上の
妄想の自我は、どんどん膨らんで、いくとこ
ろまで、いってしまったのでしょうね。
家族と過ごす幸せを犠牲にしてでも、彼は
SNS上で感じる高揚感を守りたかったのです。
もう、勝手にしてください。
我が家は母子三人の幸せを、もう一度
築いてみせます。必ず。