第二話 聖女からの手紙
いつもありがとうございます。
教皇が暗殺された話は隣国であるエスフォート王国にもすぐに伝わった。
王城の会議室には国王を始めエリック公爵、マグナ宰相、ガルム辺境伯、カイン、そしてこの国に派遣されている司教が集まっていた。
司教はカインに会うと、膝をつき拝み始めてしまったので、カインは慌てて立たせて席に座らせた。
会うたびにカインを拝む司教が原因で、最近は神々と話すときはドリントルの教会へ行くようにしていた。
全員が席に着き、司教がマリンフォード教国についての説明を始める。
「本日は至急の要件、時間を割いていただきありがとうございます。今回の教皇様の暗殺についてですが――」
子供を人質にして宝物庫を開けていくつかの宝物を奪っていったこと。
警備をしていた神殿騎士数名と教皇が犠牲になったことが説明された。
「それで奪われた品で重要な物が……?」
国王の質問に対し司教は首を横に振った。
「それは……正確にこちらには伝わってきておりません。ただ、今回教皇が没したことで新しい教皇の選定が始まると思います」
『教皇の選定』とはマリンフォード教国において、教皇の次の位に位置する数名の枢機卿から新しい教皇を選ぶ選挙だ。現状の枢機卿は四名おり、その中から選ばれることとなる。
マリンフォード教国や各国に派遣されている司祭以上によって投票され、最も票をとったものが次の教皇になる。
しかし教会内部は一体となっているわけではない。各枢機卿が派閥を作り互いに牽制しあう魑魅魍魎の世界である。
それだけ教皇という立場が魅力的なのだから仕方ないことだろうと司教は説明をした。
本人は出世欲がないらしく、このエスフォート王国に骨を埋めるつもりだと笑顔で語る。
「それで司教は今後どうするおつもりですか?」
カインは司教に尋ねる。この王国に派遣されている司教は長年に渡りエスフォート王国に尽くしてくれる人格者であり、ドリントルを治めた時のいざこざなどを早急に対処してくれていたのでカインは感謝をしていた。
「すぐに神殿から召集がかかるはずです。私としても兄が枢機卿の一人なので応援しなければなりません。一度神殿に戻る予定ですね」
「確かそうであったな。一度会ったことはあるが司教に似て人格者であるから我が王国しても応援させてもらおう」
「陛下……ありがとうございます」
国王の言葉に司教は頭を下げる。
「それではまた召集がかかったら教えて欲しい。必要なら護衛もつけるようにしよう。色々と……あるだろうしな」
国王のその言葉で会合は終わった。
◇◇◇
司教への召集は一週間ほどで届き、再度国王を含めて打ち合わせが開かれることになった。
メンバーは前回と同様である。
司教が召集状を開きながら説明していく。
「二週間後に選挙が行われる予定です。私も数日で王都を立つことになるでしょう。それでですが……」
司教は懐からもう一通の手紙をテーブルに置いた。
「これは聖女様からカイン様宛の手紙となります。ご確認ください」
「えっ……私にですか……」
カインはテーブルに置かれた手紙を手に取り、恐る恐る蜜蝋を剥がす。
中には聖女からの手紙が入っている。数枚に渡ってマリンフォード教国での出来事が書かれているが、最終的には一つの結論が書かれている。
――司教の護衛としてマリンフォード教国に来て欲しいと……。
カインが要約して国王に説明をすると、眉根を寄せ、腕を組み国王は悩み始める。
カインは立場ではエスフォート王国の上級貴族であり、簡単に国を行き来するわけにはいかない。カインの転移魔法があれば簡単に戻ってくることは可能であるが、貴族としてマリンフォード教国に向かう場合、事前に連絡が必要になる。
「……陛下。出来れば司教と一緒に向かいたいのですが……」
「少し待て……。この手紙は……。うむ……。なるほど、そういうことか」
「そういうこととは……?」
カイン宛の手紙を一通り読んだ国王はそっと手紙をテーブルに戻した。
「聖女殿からの手紙は、全て『カイン様』と書いてあるだろう。それが全てだ」
いまだに理解していないカインは首を 傾げると、エリック公爵が手を叩いてそうかと声を上げた。
「カインくん、聖女様はカイン・フォン・シルフォード・ドリントルとして来て欲しいんじゃない。カインとして来て欲しいんだよ。だから――――冒険者として行けばいいってことだね」
「……あっ!」
笑顔で言うエリック公爵に国王も大きく頷いた。
「……と言うことは、シルフォード卿にも同行していただけると……?」
「色々と思うことはあるが、聖女殿からの依頼なら仕方あるまい。もしかしたら大事なことになっているかもしれん。カイン行ってもらえるか? もちろん、正式な依頼としてギルドを通してになるが……」
司教は目を輝かせながら問いかけると、国王も渋々ながらも頷いた。
「……使徒様を神殿にお迎えできるなんて私はこのエスフォート王国に派遣されて……最高の誉です」
感動する司教にカインは苦笑しか出来なかった。