第二十話 リザベートの力説
国王の言葉に場が静まり返った。
しかしカインもリザベートとの婚姻は初耳であり、驚くしかない。
上級貴族当主とはいえカインは未成年である。すでに三人の婚約者がいることは周知の事実であるが、他国から妻を娶るということは簡単ではない。
しかも人族と魔族ではそのハードルはさらに高くなる。
リザベートの婚姻と急に言われてもカインも簡単に首を縦には触れなかった。
確かにリザベートはカインからしても魅力的な女性であると感じている。特にカインは多種族に対しても忌み感もないことからエルフであるティファーナも婚約者としている。
だからといって、魔族の国を束ねる皇国の皇女を簡単に娶れるはずがなかった。
「……私も初耳です……」
カインとしてもそうとしか答えられなかった。
静まり返る中、リザベートが席を立つ。
「条件で申し訳ないとはわかっておりますが、これだけは認めていただきたい。何故なら、魔族国家は今大事な局面を迎えております。恥ずかしい話ですが、カイン殿が使者として我が国を訪れ兄である魔皇帝を説得しましたが、四人いる魔王のうち三人の魔王が反発から反乱を起こしました」
一人の魔族ですら人よりも優れているのは誰でも知っていることだ。
その中で魔王という存在は、誰よりも実力がある証拠なのはこの場にいる貴族たちもすぐに理解した。
三人の魔王が反乱を起こしたとなると、魔族の国は大荒れになっているのだろうと参列している貴族たちは考えた。
リザベートはさらに言葉を続ける。
「演説の途中、その牙は兄にも向きました。致命傷を負いましたがなんとかカイン殿の魔法で一命を取り止めたのです。そして三人の魔王はカイン殿と剣を合わせました。結果……二人の魔王は死亡し、もう一人は捕ることができました。カイン殿がいなければ私たち皇族は生き絶え、戦争は確実に開戦されていたのは間違いありません」
リザベートはその場の出来事をわかりやすいように説明していく。
その話を聞いて貴族の誰もが理解できたことが一つだけあった。
――カイン・フォン・シルフォードは魔王よりも強い、と……。
数々の功績をあげ貴族の三男でありながら独立し、数年で辺境伯という上級貴族まで成り上がったのだ。
多少見識がある貴族ならば、運だけでなれるわけではないのは理解できる。例え王女と公爵令嬢、騎士団長を娶ると知っていたとしても。
しかもカインが治めている領都ドリントルにおいては、他の街、いや、王都よりも勢いのある街だということは知れ渡っている。貴族たちもお忍びという名目でドリントルの見学をしたりしているのだ。
他の者では考えつかないような唯一である商品を多数生み出し、国民の生活水準は劇的に向上している。どの貴族も真似ようと思うが、結局は出来ず、逆にドリントルより商品を仕入れてしまうことになっていた。
それによってまたドリントルは潤っていたのだ。
もちろん王国に納める税金に関しても、他の街より群を抜いている。
だからこそドリントルに蓄えられた資産を還元できるように、国王を含めた上層部はイルスティン共和国から分けられた土地をカインに与え辺境伯とした。
まだ発展していない街に投資をしてもらい、今後、街が発展すれば王国へ納める税収もあがり潤すことになる。
しかもカインの元には、テレスティアとシルクが嫁ぐことが決まっている。我が子が可愛い国王とエリック公爵の思惑は一致していた。
マグナ宰相も王国が潤うのは確定したようなものなので反対すらしない。
そんな期待をかけたカインの実力は経済だけでなく、武力についても定評がある。屋敷にはSS級と言われるドラゴンの剥製が飾られるのは有名であった。
公にはなっていないが冒険者としてもSランクとして期待されている。
「カイン殿は私が人族国家で捕らえられ、命の危機になった時に救っていただきました。無事に皇国へと帰還できたのも、カイン殿のお陰です。そして、今回の反乱についてもカイン殿のお陰で収束し、国民も人族国家と和平を結ぶのに賛成していただきました。そんな恩に報いるのに皇族として当然ではないでしょうか?」
いつもの口調と違うリザベートは皇族らしく国王に語りかけた。
国王は困り顔のまま、カインに一度視線を送る。
「だからと言ってだな……。カインにはすでに数人の婚約者がおる。わしの娘もそうじゃ。リザベート殿は皇女としてそれで良いのか? 皇女に相応しい相手が他にいるのでは……」
「カイン殿以上の人がいらっしゃると……? 我がベネシトス皇国には属国があり四人の魔王がおります。その地位は実力で取るしかない。それだけ強いという証明であります。その魔王三人を相手にしても引かない実力がある者などそうはおりません。それに――――」
一度、リザベートの言葉が止まる。
リザベートは国王を見据えた。そして言葉を続ける。
「勇者である――ユウヤ様がお認めになったカイン様と婚姻を結べるのであれば、ベネシトス皇国の皇女としてこれ以上の誉れはありませぬ」
リザベートの言葉に謁見の場は騒ついた。
(あ……ユウヤさんのこと言っちゃった……。良いのかな……)
カインは冷や汗をかく。ユウヤはすでに亡き過去の人である。しかもここはエスフォート王国。初代国王でもあるユウヤはこの国では神格化されているほどだ。
実際に王城内にはユウヤとされている銅像が飾られている。
ユウヤの名前を聞いたことに、国王ですら動揺を隠せない。
「な、なんと……。それではリザベート殿は……初代国王であられるユウヤ様に会ったことがあると? すでに初代国王が伏してから数百年の時が過ぎておるのに……? カイン、これはどういうことだ?」
国王から厳しい視線がカインに送られる。
「……いや、それについてはですね……。なんと言えばいいのか……。さすがにこの場では……」
全てを話す訳にもいかないカインは言葉を濁すしかできない。
しかし国王は何かを察してか、大きく頷いた。
「わかった。この件については後でゆっくりと話しあおうな、カイン」
カインは苦笑しながらも「わかりました」と返事をして頭を下げたのだった。
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