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転生貴族の異世界冒険録~自重を知らない神々の使徒~ 作者:夜州

第六章 魔族国編

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第十二話 新たなる陰謀

 

「少し落ち着かれよ。デニス殿」


 険悪な雰囲気に水を差すかのように声がかかり、全員がその方向に向いた。

 中立派であったが、先程からデニスの肩を持つようになったイグニスであった。

 カインやセトとしては、このままカインとの実力勝負になったらはっきりするだろうと身構えていたのだが、肩透かしの状態であった。


「殿下、私はデニス殿の言葉は正論だと思います。しかしながら『あの約束』を遂行してくれるのでしたら、喜んで殿下の支持に回りましょう」


 イグニスは少しだけ口元を緩ませリザベートへと横目で流すように視線を送る。その視線に気づいたリザベートは眉間にシワを寄せた。


「何はともあれ、無事に帰って来られたことですしね……」

「それについては……」


 含んだ笑みを浮かべるイグニスに対して、ログシアの表情は渋くなっていく。

 同席しているカインは理由が分からず少しだけ困惑するが、セトを含めて渋い表情をしていることに無言を通した。


「――妾はそなたの妻になんぞなるつもりはないぞ」


 リザベートは真剣な表情でイグニスに向かって答えた。その言葉でカインはこの国を逃げ出した理由について思い出す。

 イルスティン共和国から保護してから少し経った時に聞いた逃げ出した理由。


『魔王の一人と婚姻を結ぶように兄から言われている』


 きっとこれだろうとカインは察した。そしてその相手が魔王の一人、イグニスだということを。

 イグニスは体格は大柄で筋肉で固められているが、どう見てもセトよりも年上に見受けられる。

 そして、下心があるような笑み。

 カインも逃げた理由に対して少しだけ同情した。

 ログシアも申し訳なさそうな顔をし、口を結んで答える様子もなかった。

 しかしきっぱりと断られたことで、イグニスの表情は強張っていく。


「……それでは、わたしも開戦派に回ってもよろしいか?」


 ログシアに対し、脅迫とも言えるような言葉。しかしログシアもカインという抑止力があることを理解している。

 言葉の真意はわからないが、セトとリザベートの言葉を信じるなら問題ないだろうと感じていた。


「――リザの婚姻については、なかったこととする。これは皇太子としての言葉だ……」


 ログシアの言葉にリザベートも安堵の吐息を吐いた。しかしプライドを傷つけたのか、イグニスの表情は今までで一番憎悪を持った目でログシアを睨みつけた。


「……そうですか。では、わたしはデニス殿を支持しましょう」

「ふんっ、そんな人族のガキのいうことに耳を傾けるからこうなるんだ」


 ログシアにもリザベートにも断られたイグニスは、当てつけのようにデニスを支持することを表明した。


「わしは戦争を行うつもりはないぞ。我が領地から兵士も出すつもりもなければ、兵をあげるなら敵対するつもりだ」


 イグニス、デニスの二人に対してセトは明確に反対を表明した。

 ログシアもセトに視線を送り、小さくうなずいてから二人に視線を送った。


「わたしは戦争をするつもりはない。これは皇太子として、そして魔皇帝代理としての決定だ。これは覆すつもりはない。二日後、国民に対して表明する。『戦争は行わず、平和をもって人族と対話を行う』とな……」


 はっきりとしたログシアの言葉に、開戦派の二人の表情は渋る。

 そして今まで沈黙を貫いていたアグスが口を開いた。


「殿下がお決めになったことです。わたしはそれに従いましょう。二人とも愚痴は後から聞きますから」


 アグスの言葉に渋々ながら二人は頷いた。


「アグス、助かる。それでは戦争は行わないことにし、二日後布告を行う。今日はこれにて終わりとする」


 ログシアの締めの言葉とともに各魔王が席を立ち退出していく。

 カインはセトに案内され、別室へと赴いた。部屋でセトと待っていると扉が開き、ログシアとリザベートが入室してきた。


「待たせたな、カイン殿」

「いえ、先程は英断ありがとうございます」


 カインは席を立ち、軽く頭を下げた。

 満足そうに頷いたログシアも席に座る。


 無事に戦争を回避したことに四人は安心し雑談を続けた。


 

 ◇◇◇


 別室では、不機嫌そうなイグニスとデニス、そして無表情のままのアグスがテーブルを囲んでいた。


「なんで戦争をしちゃいけないのだっ! あの殿下の腰抜けめっ」

「俺もせっかくあの皇女を手に入れる予定だったのにな、まったくもってあの皇太子としたら……」


 不機嫌な二人に対して、アグスはテーブルに肘を乗せ手を組んで笑み浮かべた。


「二人の思い通りになる方法がありますよ。どうせ魔皇帝に決定を下すことはできませんしね」


 アグスの予想外の言葉に、二人は苛立ちを抑え視線を送る。


「今は皇太子殿下がこの魔族国家を握っています。皇族は陛下を含め三人ですが、魔皇帝は病床の身。もし、皇太子に何かあれば次はリザベート殿下がこの国を舵をとる必要があります。しかし、リザベート殿下は政治には疎い。誰かしら補助が必要になるでしょう。わたしたち魔族は力を見せてこうして魔王としての地位におります。力あるものが魔皇帝を名乗っても……」


 アグスの言葉に二人はテーブルに乗り出した。


「おい、アグス。それって……」

「えぇ、可能でしょう。セト殿が強いと言っても魔王の一人。わたしたちは三人おります」

「もしかして、リザベート殿下を貰いうけることも……?」

「もちろん可能でしょう。リザベート殿下もいつかは嫁ぐ必要があるのですから」

「何かいい方法があるのか」


 興味津々の二人にアグスは満面の笑みを浮かべた。


「こういう手を考えています。二日後に――――」


 三人による怪しい密談が始まったのだった。




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