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ネット

政府もお手上げ、中国ネチズンの乱

不正捜査に対する抗議がネットで爆発。ネット市民は行政や役人を監視する力をもち始めている

2009年11月13日(金)15時04分
ローレン・ヒルガーズ

 中国河南省出身の出稼ぎ労働者、孫中界(19)は上海地裁に起訴されたとき、インターネットの力で正義を手にできるかもしれないと考えた。孫は警察による不正なおとり捜査で摘発されていた。上海市内を走行中、若い男に車に乗せてくれと頼まれ、この男が私服警官だとは知らずに乗車させたところ無許可タクシーを営業していたとして捕まったのだ。

 孫は世間の注意を引くため、左手の指を切り落として抗議するという恐ろしい行為に出た。この件が報じられると、ネット上でもおとり捜査に対する反発の声が上がった。「今後24時間のうちに、あなたが言うことすべてをインターネットに流すつもりだ」と、孫の弁護士は地裁判事に脅しをかけた。

 孫のような人々からみれば、インターネットは中国における「正義の方程式」に変化をもたらす存在だ。ネチズンと呼ばれるネット市民たちは、訴訟や地方行政を監視する力をもち始めている。権力のない弱者にとってネチズンは強い味方。反対に、裕福でたくさんのコネがある人や、汚職に手を染めている官僚ならネチズンとは一切関わりたがらないだろう。

 ネットの力で正義が守られるケースが増え、孫のような人々はネットを武器として使うことを覚えている。中国人のネット利用者が3億3800万人以上に上るなか、政府の役人たちは彼らの監視の目を避けることは難しくなっている。何か事が起きれば、ネット上での「暴徒」の数は一気に膨れ上がりかねない。

 その典型例が今年5月、娯楽施設の女性従業員が自分をレイプしようとした地元役人を殺した事件だ。彼女が殺人容疑で逮捕されると、不当だと抗議する投稿が400万件以上もネットにあふれた。

 こうしたネット上の抗議行動は有効であることが証明された。女性従業員は何の罪に問われることもなく釈放された。孫もすべての容疑で無罪になり、切断された指は再接着手術が行われた。道路交通法の適用を管理する政府の特別チームも作られた。

 清華大学グローバル・ジャーナリズム研究所(北京)のスティーブン・トン所長によると、過去1年間でネット市民に目を付けられた84人の役人のうち、4分の1が解雇されたという。こうした監視ケースはここ1年で過去にないほど増えていると、トンは言う。

 一方、役人たちも反撃を開始している。市民によるネット上の監視に対して、従来どおり規制の立場を取る役人もいるが、ネットを広報ツールとして活用する例も増えている。

 広東省の当局は最近、第1回「ネチズン集会」の開催を許可した。同省発行の雑誌に掲載された記事にはこう書かれている。「インターネット時代においては、公務員1人ひとりが政府と中国共産党の『イメージ大使』である」。勝てない相手なら、仲間になったほうが得策というわけだ。

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