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slip into words - 美少女でべそ蘭(パイロット版)

「きゃー、おへそが伸びてる!」

突然の悲鳴に蘭の両親は一瞬顔を見合わせ、慌てて二階に駆け上がった。

「どうした?」

「大丈夫?」

部屋の扉を開けるとベッドの上に蘭が座りこんでいる。

「パパ、ママ、おへそが…」

ゆっくりと振り返る蘭。

蘭がめくりあげた苺柄のパジャマの裾、そこから見える白い腹部からうにょにょと伸びているへび状の物体。

「おへそが伸びちゃった…」

父親は失神した。


蘭は生まれつきのでべそだった。いや、生まれつきというのはおかしいかも知れない。他の普通の赤ん坊同様、蘭も母親のお腹の中で育ち、オギャアと生まれてきた。その時にはもちろん母親と自分とを繋ぐへその緒がついていたが、これまた普通の赤ん坊と同じく生まれてすぐにちょきんと切られ普通に処理された。

が、なぜか蘭のへそはいつの間にか伸びていたのであった。伸びるといっても数センチなのだが、数センチといってもへそである。へその数センチはちとおおごとである。

「へそが伸びてきた? またまたあ」

蘭を取り上げた産院の担当医師は初めは笑って取り合おうとしなかったが、実際に蘭のへそを見ると顔色が変わった。

「…取りましょう」

斯くしてへそ手術が取り行われ伸びたへそは取り除かれたのだが、十日ほど経つとまた元通りにへそが伸びてきてしまった。

「…取りましょう」

繰り返す事三回。産科医だけに三回だったのかどうかは知る由もないが、三度目の手術の後、十日ほどしてまた蘭一家が訪れた時、件の産院は潰れていた。

蘭の両親は考えた。こうなると下手に余所の医者に行って事を大きくするのはいかがなものか。このでべそ、数センチとは言っても押せば引っ込む程度の柔らかさだったので押し込んでいるうちに治るかも知れない、いつか普通のへそになるかも知れない。これを肯定する根拠はないが否定する根拠もない。二人は一縷の望みに向って娘のへそを押し込み始めた。

しかしへそは引っ込まなかった。押せば引っ込むが手を離すとどうしてもぼよんと出てきてしまうのである。

これをいたく心配したのは蘭の父親である。無論母親も心配してはいたのだが、生来の前向きな性格から「なんとかなるでしょ」と殊更に騒ぎ立てはしなかったが繊細な父親はそうはいかなかった。

「女の子なんだからいくらなんでもでべそのままじゃかわいそうだ」

そう言っては暇さえあれば蘭のでべそをためつすがめつしていたのである。

「よし、決めたぞ」

「決めたって何を」

「俺はとことん蘭を守るぞ」

「守るって、一生この子のへそを押さえて生きるつもり?」

「そうだ」

「え」

「蘭のへそを押さえるために俺は生きる」

「早まらないであなた」

「蘭、大丈夫だぞ、パパが一生守ってやるからな」

父親は製薬会社に転職し、蘭のへそを押さえるための絆創膏製作に一生を捧げる覚悟をしたのだった。

「あなた…」

母親は母親で強い決意で蘭を守る意志を固めていた。

「蘭のお洋服はみんなママが作ってあげる。おへそが簡単に出ないような、おへそに当たっても痛くないようなお洋服をね」

こうして蘭は両親の愛情をいっぱいに受けてすくすくと育ち、美しい少女に成長したのである。

その蘭の中学入学の日、事件は起きたのだった。


参考:「美少女でべそ蘭」/「ハイペ」のイラスト [pixiv]

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