挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ブックマーク登録する場合はログインしてください。
転生貴族の異世界冒険録~自重を知らない神々の使徒~ 作者:夜州

第五章 イルスティン共和国編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました
157/225

第十四話 魔族の正体

 

 開始のかけ声と共に、ガームズは剣を担いだまま少しずつ魔族の女性へと近づいていく。

 自分の手を見て苦々しい表情をしながらも、魔族の女性は距離をとるように動いていった。


「あれ、魔族って魔法が得意じゃないのかな……」


 カインが小声で呟くと、後ろにいたメイドが説明をする。


「結界を張っておりますが、強力な魔法では観客に被害が及ぶ可能性がある場合、念のため魔法封じの腕輪をつけております。一割程度の威力しか出ないものと思われます」

「……そうですか、ありがとうございます」


 カインは説明してくれたメイドに礼を伝え、視線を魔族の女性へと送る。

 その魔族の女性の手首には、金属で出来た腕輪が巻かれていた。


(あれか……。なんとかして解放出来ればいいんだけど……)


 ガームズは剣を構え、一気に詰め寄っていくが、魔族の女性は逃げるように距離を取ろうとする。

 しかし、さすがSランクの冒険者というべきか、逃げる方向へ咄嗟に向きを変え、剣を振りかぶる。

 衣が一枚斬られながらも、魔族の女性は身を躱していく。


「ふんっ、なかなかやるな。さすが魔族ってことか……」

「この腕輪さえなければ、お主など数秒で灰にしてやるものを……」


 苦々しい表情で自分の腕につけられた腕輪に視線を送り、また、ガームズを警戒する。

 魔族の女性は火魔法を使うが、現れるのは頭大の火の塊である。それが三つほど現れ一気にガームズへと飛んでいく。


「こんなもんか。ふんっ」


 ガームズは剣で火の塊を一気に斬り払った。


 それからはガームズの一方的な攻めになっていく。

 観客達はそれに伴い盛り上がっていくが、一緒に見学している生徒達の表情は険しい。

 魔物との戦いでは盛り上がっていたが、魔族とは言え外見が人間と大して違うわけではない。

 テレスティアたちも揃って顔を少し青ざめさせながら、ハンカチで口を押さえながらその同行を伺っていた。


 次第に魔族の女性はガームズのの刃の餌食になっていく。

 あちこちが斬られ、流血が地面を濡らしていく。


 カインは見てられず、「ちょっと席を外す」と言って部屋を出た。

 そして、トイレへと行く。



 その数分後。


 銀色のマスクをして、黒いフード付きマントに覆われた者が突如、闘技場の真ん中に姿を現した。

 突如、人が現れれば観客も驚きの声が上がる。


「いきなりの乱入者だぁぁぁぁぁぁぁ!! 誰もいなかったはずなのになぜっ!?」


 司会の声が観客席に響き渡った。

 しかしガームズは気にした様子もなく、その男に声を掛けた。


「なんだい? ショーの邪魔をしにきたのか……? なら、お前から先に始末させてもらうぜ?」


 剣を振りかぶり男に斬りかかるが、男は一歩だけ動いてその剣を躱す。

 そして後ろに飛び、距離を取ったところで、やっと男が口を開く。


「この魔族の女性は僕がもらっていきますね。この人に何かあったら、多分――――人族と魔族は戦争になると思いますし」

「……うん? 随分若い声をしているんだな。まだ――ガキだろう……。それに戦争、大いに結構じゃねーか。それだけ斬れるってことだろ」


 にやりと笑うガームズに男はため息をつく。


「それは困るんですよね。色々と……。それに戦争になったら、この国は滅びますよ? 簡単にね」

「…………お前も魔族か。それだけ知っているってことは」

「……そこは関係者ってことで」

「まぁ、いいや。お前から相手にしてやるよ」


 その言葉を最後に、ガームズの殺気が一気に膨れ上がる。そして男へと一気に詰め寄った。


「仕方ないよね……」


 男はそう呟くと、頭から勢いよく振り下ろされる剣を片手で掴む。


「なっ!?」


 その瞬間に、男はガームズの懐に入り込み、腹に拳をめり込ませる。

 ガームズの身体はくの字に折れ曲がり、そのまま宙を舞い十メートルほど飛んだところで地面に転がり、そのまま失神した。


「なんということだっ!? フードの男は一体!? あの、ガームズが一撃だとっ!!」


 観客達は盛り上げるためのイベントなのかと思い、大いに歓声が湧く。

 そしてフードのままの男は、魔族の女性へと近づいていく。そして数歩のところで立ち止まった。


「お主は魔族では――ないな? 同じ人間であろう。なぜ妾を助けた……?」


 腕から流れる血を押さえながら話す魔族の女性に男は言葉を返す。


「魔族には知り合いがいてね。一度、一緒に来てもらってもいいかな? 回復魔法も掛けたいし。その腕輪も邪魔でしょう」

「確かに……。名も知らぬお主についていくのも良いかもな。ここにいても同じ事になりそうだしのぉ」


 男はフードを被ったまま、軽く頷くと、魔族の女性の肩に手を置き『転移』で一瞬にして消えた。


 その場は意識を失っているガームズだけが取り残されたのであった。



 ◇◇◇


 転移した先は、誰も居ない応接室。


「随分といい部屋じゃの。妾をこんなところへ連れてきて、何が目的じゃ?」


 魔族の女性の問いに男はフードを脱ぎ、仮面を外す。

 その男の正体に魔族の女性は目を見開く。


 カインは特に気にした様子もなく、笑みを浮かべた。


「まずは、回復魔法を掛けますね。『ハイヒール』これくらいの傷なら問題ないでしょう」


「……まだ少年とはな。その年で転移魔法までも……感謝するのじゃ」


 自分の傷を確認しながら、魔族の女性は笑みを浮かべ感謝の述べる。


「あと、その腕輪があったら魔法も使えないでしょう。外しちゃいますね。ここは僕の家だから壊さないでくださいよ?」

「そこまで恩知らずではないのじゃ。身を守る時は仕方ないがのぉ」


 カインは魔法で腕輪の魔法を解除すると、腕輪は何事もなかったのように外れて床に転がった。

 そのままソファーに座るように促し、カインも対面に座る。


「まずは、自己紹介をしますね。僕の名前はカイン・フォン・シルフォード・ドリントル。エスフォート王国で伯爵の位にいます。先ほどまでいたイルスティン共和国の隣の国ですね。カインと呼んでもらって構わないです」

「妾もせねばならぬな。妾の名前は……リザベート・ヴァン・ベネシトスじゃ。お主ならリザと呼ぶことを許可しよう」

「なら、リザって呼ばせてもらうよ。すぐに紅茶の用意はさせるから、すぐに来ると思うし」


 そのカインの言葉と同時に扉がノックされた。

 カインが許可を出すと扉が開き、ダルメシアが入ってくる。


「カイン様、お戻りで。お客様です……ね……」


 その言葉と同時に、ダルメシアはその場で膝をついて頭を下げたのだった。



いつもありがとうございます。

GWは色々と忙しく、なんとか一話だけ更新できました。(最終日で申し訳ないですが)

5月15日には第3巻も発売されます。

お近くの書店等でお買い求めいただくと、嬉しい限りです。

特約店でお求めいただけると、特典SSもついておりますので、是非楽しんでいただけたらと思います。


  • ブックマークに追加
ブックマーク登録する場合はログインしてください。
ポイントを入れて作者を応援しましょう!
評価をするにはログインしてください。

感想を書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。