木下ちがや(きのした・ちがや) 政治学者
1971年徳島県生まれ。一橋大学社会学研究科博士課程単位取得退学。博士(社会学)。現在、工学院大学非常勤講師、明治学院大学国際平和研究所研究員。著書に『「社会を変えよう」といわれたら」(大月書店)、『ポピュリズムと「民意」の政治学』(大月書店)、『国家と治安』(青土社)、訳書にD.グレーバー『デモクラシー・プロジェクト』(航思社)、N.チョムスキー『チョムスキーの「アナキズム論」』(明石書店)ほか。
野党へのゆさぶりを続けるか野党共闘の中で再生を図るか、最後の選択が迫られている
2019年7月の参議院選挙における228万の得票、同年8月のNHK世論調査での支持率1.2%――これが、数字上でのれいわ新選組のピークである(都知事選直後の支持率は0.6%)。ここ十数年余り、日本政治にはみんなの党や希望の党といった、伝統的政党とは異なる新党が次々と登場してきたが、これらの党に比べても、れいわ新選組発足当初のインパクトは数字上ではささやかなものだった。だが、安倍政権の長期化と野党の低迷という閉塞状況のもとで、政治報道は新参の政治勢力に殺到し、れいわ新選組は参院選後数カ月にわたり世間の話題をさらうことになる。
だが当時から、一部の政治学者は冷静な分析を試みようとしていた。朝日新聞2019年8月2日付オピニオン「山本太郎という現象」において、政治学者の菅原琢氏は「れいわ新選組はよくあるミニ政党の域を出ていません。れいわの伸長を大きな政治現象と捉えるのには疑問があります」と論じている。
菅原氏の主張を敷衍するとこうだ。数十議席以上の議席を中長期的に維持している政党は、数多くの地方議員と支援団体の土台がある。自民党は各種利益団体、公明党は創価学会、民主党・社民党系は連合、共産党は民主団体、そしてポピュリズム政党と評される大阪維新の会も、自民党大阪府連の基礎組織が分裂して誕生した政党であり、決して「風まかせ」の党ではない。このような地方議員や中間団体を有しない新党は、これまで数年の寿命で衰退してきた。社会的な基盤を有しない政党は長続きしないという経験則からすれば、れいわ新選組も一過性のブームとして消え去るのは目に見えていたのだ。
しかもれいわ新選組は、参議院選後も基礎組織をつくろうとはしなかった。地方議会には候補者を擁立せず、党員はあくまで国会議員と予定候補者のみに限定し、「反貧困」を掲げるわりには貧困問題を掲げる団体や労働組合との連携にも消極的だった。それどころか支持者の間からは、立憲民主党、国民民主党、社民党を支える労働組合のナショナルセンター・連合に対する敵対的な声が数多くあがっていた。
れいわ新選組は、代表である山本太郎氏が全国で展開する街頭宣伝とメディア・SNSの相乗効果によって吹き上がる「風」にまかせることで党勢を拡大しようとしたのである。れいわ新選組は当初、昨年末にあるといわれていた解散総選挙までこの「風」を維持し、その勢いで衆議院十数議席を獲得することで、国会内に陣地を固めるという戦略を抱いていたと思われる。衆参あわせて十数議席の勢力になれば、たとえ社会的基盤がなくても数年間は勢力を維持することは可能だからだ。
ところが、昨年末から相次いだ政権のスキャンダル、さらには新型コロナ危機により解散総選挙はどんどんと遠のいていった。このことが、れいわ新選組の戦略に大きな狂いを生じさせたのである。
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