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「山本太郎現象」その後 混迷するれいわ新選組のゆくえ

野党へのゆさぶりを続けるか野党共闘の中で再生を図るか、最後の選択が迫られている

木下ちがや 政治学者

 

れいわ新選組の選択肢

 著者は、昨年6月の論攷「『山本太郎現象』を読み解く」において、この現象の背景を分析したうえで、今後についてこう予測した。

 「新自由主義的実践のもとで、労働組合の交渉力は徹底的に奪い去られ、ゼロ年代に入ると「格差と貧困」が先進国において深刻化していくことになる。このように、労働組合が政治経済的な力を失うことで、民衆の経済要求実現の回路が封じ込められてしまっていることが、「金を刷れ」を掲げるポピュリズムが台頭する原因なのである」

 「これから山本太郎は、極右排外主義的な傾向をもつ支持層も吸収していくだろうが、山本太郎自身がそのような排外主義的傾向に陥るとは思えない。左右を問わない民衆の情念を広義の「リベラル/左翼急進主義」の器に留置し、その要求を政治的に可視化することは、民主主義の体力を強化することにつながっていく」

 この論攷から1年を経て、れいわ新選組に極右排外主義的な傾向を持つ支持層が生まれたことがはっきりした。ではここから、ふたたびリベラルな陣営に立ち戻ることは可能なのだろうか。

拡大都知事選で小池百合子氏の当選が確実となり、厳しい表情を浮かべる山本太郎氏=2020年7月5日、東京都新宿区

 従来からの山本太郎支援者らからは「解党的出直し」という意見もだされている。しかも、れいわ新選組の混乱をしり目に、現在立憲民主党、国民民主党の合同新党の結成プログラムが急速に進展している。社会民主党もまたこの合同新党に加わる可能性がある。今回誕生する野党新党は、リベラルと共産党を排除した2017年の「希望の党」とは真逆の、リベラルを軸に、共産党と確固たる連携を築く新党である。この新党が誕生し、総選挙に向けて政権与党との「一対一」の対立軸が明確になれば、れいわ新選組存在感は著しく低下する。

 なお、この立憲民主党、国民民主党、社会民主党の合同新党結成にもっとも尽力しているのは、れいわ新選組支持者たちが強く批判してきた「連合」である。確かに連合については、正規社員中心の組合が大半を占め、非正規雇用らより社会的困難な立場にある人々の要求を代弁しているとはいいがたい。と同時に、もうひとつの労働組合のナショナルセンター全労連とともに、非正規雇用の組織化に積極的に取り組んできたことはあまり知られていない。

 リーマンショックをうけた2008年末の「年越し派遣村」を連合は全労連とともに支援し、野党共闘にも目立たないかたちで尽力している。連合が支援してきた三つの政党が合同することは、労働者の要求を政治に反映していくうえで大きな後押しになり得る。ただこのテーマについては、別稿において、新自由主義に対抗するうえでの労働組合の重要性を論じるなかで扱いたい。本稿は、混迷する新選組に与えられた選択肢を提示することで締めくくられる。

 野党間の対立の隙間から登場したれいわ新選組は、野党が一丸となって安倍政権との最後の闘いを挑む状況下でも「消費税廃止シングルイシュー」を掲げ、野党への揺さぶりをひたすらかけ続けるのだろうか。それとも、従来のリベラルな支持者たちの声に耳を傾け、野党共闘の枠組みのなかで再生を図るのだろうか。もはやれいわ新選組には、このどちらかの選択肢しかない。そしてどちらの道を選択するかを決断する猶予は、あまり残されていないのだ。

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筆者

木下ちがや

木下ちがや(きのした・ちがや) 政治学者

1971年徳島県生まれ。一橋大学社会学研究科博士課程単位取得退学。博士(社会学)。現在、工学院大学非常勤講師、明治学院大学国際平和研究所研究員。著書に『「社会を変えよう」といわれたら」(大月書店)、『ポピュリズムと「民意」の政治学』(大月書店)、『国家と治安』(青土社)、訳書にD.グレーバー『デモクラシー・プロジェクト』(航思社)、N.チョムスキー『チョムスキーの「アナキズム論」』(明石書店)ほか。

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