2020年(令和2年)5月11日 月曜日 徳洲新聞 NO.1235 四面
読み解く・読み得“紙上医療講演”㉞
PCRってどんな検査?
今回はPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)検査について紹介します。新型コロナウイルスの感染拡大にともない、感染を確かめるための検査法として耳目を集めていますが、一体どんな検査法なのか、ご存知の方は少ないのではないでしょうか。岸和田徳洲会病院(大阪府)の山中良之・臨床検査科技師長(徳洲会臨床検査部会部会長)が特徴を解説します。
山中良之・岸和田徳洲会病院(大阪府)臨床検査科技師長
PCRは端的に言えば、遺伝子であるDNA(デオキシリボ核酸)やRNA(リボ核酸)を短時間で大量に増幅し、可視化する技術です。1980年代に海外で発表され、汎用性が高く、多様な分野で応用されています。医療では、がんやHIV(ヒト免疫不全ウイルス)などの研究、診断などに用いられ、臨床検査では顕微鏡で見ることができない微量の病原体(検体)の有無を調べる方法として行います。
一般的なPCRの技術を具体的に説明すると、①熱を加えDNAの二重螺旋(らせん)を解離し、②それぞれの一本鎖に短いDNA分子を結合(プライマーのアニーリング)、③DNAを複製する際に働く酵素「ポリメラーゼ」により、短いDNA分子が伸長、二重螺旋状のDNAが合成されます。
このサイクルを繰り返すたびにDNAは2倍、4倍、8倍……数時間で100万倍とネズミ算的に増えるというわけです(図参照)。
DNAは負の電荷を帯びており、電気を流すとプラス極に移動(電気泳動)します。この特性を生かし、移動した際にターゲットとするウイルスや菌の遺伝子の有無を判断します。
現在、世界中で感染が見られる新型コロナウイルスの検査でも、このPCR法を用いています。感染箇所になりやすい咽頭や鼻腔などから細胞液を採取し、その中に新型コロナウイルス特有の遺伝子をPCRで増幅し可視化。検出されれば陽性となります。より正確に言うと、実際はリアルタイムPCR法(r―PCR)になり、遺伝子が増幅する過程をリアルタイムでモニタリングし、どの程度存在しているか量を測定することができます。従来のPCR法より、迅速性や定量性に優れているのが特徴です。

検査で用いるPCR装置
また、新型コロナウイルスはRNAウイルスのため、検査ではRNAが対象になります。
新型コロナウイルスに感染していても、採取した粘液物質や喀痰にウイルスが存在しているとは限らないため、一度目の検査で陰性でも、後日、再検査をした際に陽性になる場合もあります。また、RNAを取り出す作業や装置に検体を入れる際に陽性患者さんの検体が混入してしまい、偽陽性になったケースも報道されています。
検査では陽性患者さんを陽性と判定できる性能を感度、陰性患者さんを陰性と判断できる性能を特異度と言いますが、現時点でr―PCR法の感度は30~70%、特異度は99%以上と言われています。感度が低い要因は、前述したように検体採取時にウイルスが存在しているとは限らないといったことが、大きく影響していると考えられます。
なお、PCR法と同様、ウイルスそのものの存在を確認する検査法としてLAMP(ランプ)法があります。日本で開発された技術で、これまでマイコプラズマや結核菌検査に利用しています。新型コロナウイルスの検出にも活用しています。