日本は「人力」韓国は「IT」日韓のコロナ対策、なぜ差がついたのか

プライバシーと安心・安全のジレンマ
藤原 崇 プロフィール

プライバシー観の転換が必要になる

であれば、日本においても韓国のように、保健所に強制的な調査権限を付与して、感染者の行動を明らかにする体制を整えるべきだろうか。筆者としては、そうであると簡単には思えない。

日本は、国民の人権に対する意識が強く、法律によって個人の人権を制限することができる場合は、かなり限定的に規定されている。そのため政府といえども、根拠権限がなければ強制的に個人情報を収集して使用することは許されない。

日本の積極的疫学調査も感染症法15条という明文の規定を根拠にしているが、同条は「調査ができる」旨を規定しているに留まり、それ以上のこと、たとえば調査対象者に回答を義務づけたり、調査対象者のプライバシー情報を強制的に明らかにすることは認められていない。

日本において韓国のような手法を使用できるのは、犯罪捜査など極めて限定的な場合に留まる。

 

そのため筆者は、韓国で強制的に他人のプライバシーを明らかにする手法が取られていることについて、かなり強行的な対応であるという印象を持ってしまう。

勿論、感染症への防疫という観点からすれば、日本の対応は不十分であるという見方もある。

しかし韓国のような対策は、従来の日本におけるプライバシーに関する考え方にも大きな転換を迫るものであり、簡単に導入して良いものでもない。後に述べるが「プライバシー」と「安全安心そして、便利さ」のジレンマについて国民がどのように考えるかという、大枠での共通認識を醸成した上で対応を行うべき課題である。