しかし、日本の調査手法は、人間による聞き取りであるため、人員数による物理的な制約が生じる。専門家委員会からも、保健所職員の業務負担の軽減と、人員増強が要求されていたことからすれば、積極的疫学調査の人員が十分とは思われない。
また、筆者はこれが最大の問題であると考えるが、もし感染者自身が自らの行動履歴について保健所に説明をすることを望まない場合には、当然その行動を明らかにすることはできない。
実際、いわゆる夜の店などで感染者が出た場合、店側が店の利用者を明らかにすることを避けたり、感染者がどのような店を利用したかの説明を拒否する事例が発生している。当然その場合には、感染源の推定も、濃厚接触者の特定も出来ない。そのため、見過ごされた感染者が発生し、後の感染連鎖に繋がる危険性がある。
また、そもそも「過去2週間の行動について本人の記憶を基に再現を求める」というのは、記憶があやふやになってしまうリスクが伴う。手帳など記憶喚起の手がかりがない場合には、保健所に自分の行動を伝えたくても伝えられないというケースもあり得る。
その意味では韓国の取り組みのように、クレジットカードの使用履歴や携帯電話の位置情報などの客観的な記録を使用することは、正確性の担保につながり、感染者のより正確な行動履歴の再現とそれに伴う接触者の特定が可能となる。また、当局がその権限を有することで、感染者本人が行動履歴の調査への協力を拒否する可能性も小さくなる。
さらに一般論として、電磁的記録による解析を中心に据えた調査のほうが、口頭による行動履歴の調査よりも省力化が図れると思われる。
その意味では、韓国側の体制の方が、防疫という観点からは優れていると評価できるだろう。