日本は「人力」韓国は「IT」日韓のコロナ対策、なぜ差がついたのか

プライバシーと安心・安全のジレンマ
藤原 崇 プロフィール

「クラスター対策」は有効だったが…

日本においても韓国同様、感染者の行動履歴を確認し、接触者を見つけ出した上で隔離を行い感染連鎖を遮断する取り組みが行われている。日本の場合は、いわゆる「クラスター対策」の一環としてそれが行われた。

「クラスター対策」とはいかなるものか、正確な定義は定まっていないが、令和2年5月29日の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の提言から引用すると、

「積極的疫学調査を実施することで、クラスター感染(集団感染)発生の端緒(感染源等)を捉え、早急に対策を講ずること」

を指すという。すなわち、PCR検査で発見した感染者を起点にして、その行動履歴を調査することにより、感染源や感染経路を推定しクラスターを見つけ出す。そして、そのクラスターを基に、次のクラスターの起点となり得る濃厚接触者を特定してPCR検査を行い、隔離、または必要に応じて治療を行うことで、感染拡大を遅らせたり最小化させるという手法だ。

この手法は、新型コロナウイルス感染症においては「感染者の約8割が他人に感染させていない一方、残りの2割の一部が複数名に感染させることによって、感染が拡大してゆく」という特徴を踏まえ、クラスターによる集団感染の連鎖、そして感染爆発を防ぐことに主眼を置いた対策である。

 

そして日本の場合、クラスターの発見と濃厚接触者の特定は、専ら、保健所職員による感染者への聞き取り調査により行われている。感染者等から自身の行動履歴などについて説明を受け、当人の過去の行動履歴を整理することによって、クラスターのあぶり出しや、濃厚接触者を特定しているのである。この保健所職員による聞き取りは、感染症法15条に基づく積極的疫学調査と位置付けることができる。

このように、日本におけるクラスター対策は、本人の記憶に頼る手法を中心としている。ただ、単に感染者の濃厚接触者を見つけ出すという点にのみ主眼を置いているわけではなく、「過去に遡って、存在すると思しき患者集団をあぶり出す」という点にも配慮しているのが特徴であり、それが感染者のコントロールに成功している要因の一つであると思われる。