DMMO-RPG
サイバー技術とナノテクノロジーの枠を集結した仮想世界体感型ゲーム。つまり、もう1人の
荒廃し劣悪な環境と化した地球において、この手のゲームは世界規模で大人気のゲームとなっていた。
そんな数あるDMMO-RPGの中でも燦然と煌めく一つのオンラインゲームがある。
ーーー
9つの世界からなる広大なマップ。 700種類を超える種族、2000を超える職業クラス、6000を超える魔法の数々。プレイヤーは自身のアバターやアイテム、居住などの外装、内包データの設定が可能。
無限に近い楽しみを追求するその世界は正に未知の宝庫で、ありとあらゆる夢と浪漫が詰め込まれた自由度の高いゲームとして世界中で絶大な人気を
しかし、12年間にも及ぶ大人気ゲームの一大ブームに終わりが訪れようとしていた。
とある地下大墳墓の主人である
かつての仲間たちとの思い出を思い浮かべながら……
ーーーー
ーー
ナザリック地下大墳墓を拠点とする超DQNギルド『アインズ・ウール・ゴウン』。
41人の異形種プレイヤーからなるこのギルドは、全盛期で世界ランク9位を誇る難攻不落にしてラストダンジョンの異名で恐れられていた。
しかし、そんなギルドも今は見る影も無い。
長い年月が経つにつれて1人…また1人とギルドを脱退。ユグドラシルのサービス終了日には遂に僅か数人まで減ってしまい、その残ったメンバーですら殆どログインする事は無かった。
ーー1人を除いて。
(楽しかったんだ…本当に、楽しかったんだ…。)
ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』のギルド
最上位級のアンデッド種である
彼は玉座に腰掛けて輝かしい思い出に浸っていた。その手に握るギルド武器『スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』にも多くの苦労と思い出が詰まっている。
その全てがあとものの数秒で無になってしまうと考えると寂しいものを感じる。
ギルドメンバーの1人、タブラ・スマラグディナが作ったNPCである『アルベド』の設定欄に『ちなみにビッチである。』という箇所を見つけた時は中々の衝撃だった。
『モモンガを愛している。』と書き換えても構わないだろう。どうせ最期だ。誰もいない大墳墓の哀れな主人、その最期の悪戯だ。
「明日は4時起きだ……サービス終了したら、早く寝ないとなぁ。」
生き甲斐でもあったユグドラシルが終われば、自分はこれからの人生何を支えに頑張れば良いのだろう?
そんなどうしようもない不安を抱えていると、遂にカウントダウンが始まった。
5…4…3…2…1……
ーーーーーーーーーーーー
1…2…3……
「ん?」
ユグドラシル全ての思い出を噛み締めながら目を瞑って終わりの時を待っていたモモンガだったが、ゆっくりと目を開けるとそこには広大な草原が広がっていた。
「そ、草原?……沼地じゃなく、て?……いや、ナザリックですら……いやいや、ログアウト…した、んだよ……な?…う、うん。」
てっきり画面真っ暗で『サービス終了』の表示か何かが目の前に出てくるものと思っていたが故にかなり動揺する。
満点の星空、頬を撫でる微風、風に靡いて心地よい音を奏でる草原の草花。風に乗って草木の青々した香りが鼻腔をくすぐる。
鈴木悟が居るリアルの世界では、生物が住めないレベルにまで環境汚染が進んだ死の世界。全てが灰色で覆われた
昔資料図鑑で見た美しい自然に溢れた地球の姿。そして、それを熱心に語っていたブルー・プラネットさんのソレと今見ている光景は酷似していた。
(匂いまで感じるなんてあり得ない!もしそんな違法プログラムを運営がやってるんなら本気でイカれてるレベルだぞ!?)
電脳法により五感のうち味覚と嗅覚、ある程度触覚も制御されており、これは現実世界と混同しないための措置である。まさかいくらクソ運営でもここまで血迷った行為に及ぶのか?とモモンガは一瞬だけ思った。
(いや、それは無い。匂い以前にまずグラフィックが違い過ぎる。ユグドラシルの背景グラフィックは確かに高度で凄かったけど、本物との違いは流石に分かる。今目の前にある草や星空は…)
となると次は別の電脳ゲーム世界へ強制的に参加させられたという点だが、これもすぐにあり得ないと断言する。
(相手の同意なく強制的にゲームへ参加させる事は…確か営利誘拐に認定されてる、だったか?)
となれば振り出しへ戻る。
とりあえずモモンガは事態を確認する為、GMコールを行おうとするが…
「……なんだと?」
…繋がらない。
焦ったモモンガは更にコンソールを開こうとする…が、これも表示されない。続けてありとあらゆるシステムを使おうとするが全てが繋がらない。
(コンソールも開かない……ログアウトも、アクセスも出来ない。ってか、表示されない。)
ふとモモンガは自身の手をまじまじと眺め……漸く気付いた。
「ファッ!?」
そこにあったのは人間の手ではない。
白磁で艶のある…骨の手だ。
今の自分はリアルよりもある意味馴染みのあるユグドラシルのアバター…
(イヤイヤイヤイヤ!!やはりコレはゲームの続き!?……前に掲示板で密かに噂されていた『ユグドラシル2』?)
様々な考えが過ぎる中、動揺と興奮の域がある一定のところまで到達すると、突然心が平静に戻る。
そう言えばこの異変が起きてから何度も急に心が冷静になる感覚を感じていた。
(アンデッドの基礎能力……精神安定化、か。便利であるが……これは喜びに対しても多分、作用する…のかな?)
モモンガは空を見上げる。
そこに広がるは満点の星空。
第6階層にある星空もブルー・プラネットさんが自然の星空を模して作った力作と言うだけあって見事なものだった。が、今目の前に広がるコレとは比べるまでもない。
「綺麗…だなぁ。ハハ……ハハハハ!」
モモンガは両手を広げながらクルクルとその場で回り始めた。今目の前に映り、そして感じている全ては本物だ。仮に夢だとしても…正直構わない。
とにかく今は…この状況を心の底から楽しみたい。
湧き上がる歓喜も直ぐに精神安定化により平静となる。やっぱりこう言った時の安定化は少しばかり難儀であるが、仕方ないと受け止めるしかない。
今はーー
(この美しい世界を……満喫したい。)
自分の気持ちを押し殺して……我慢するのはもうやめだ。これからは自分に正直に生きても良いんじゃないか。
色々と試さなければならない事はまだまだあるが、現状を満喫しながらでも構わないだろうと楽観的になっていたモモンガは近くの森の中へと入って行った。
ーーーーー
謎の現象から3日程が経過した。
夢のようなこの世界から覚める気配がない為、やはりこれは現実なのだと実感した。
「ふむ。〈
モモンガはしみじみと寂しさを感じるが、そこまで悲観する事はなかった。それぐらいこの世界の美しさに感動したのだ。
(さて、これからどうするかな……魔法や特殊技術が問題なく使えた事は分かったし。)
今日まで森林浴を満喫しながら森の中を彷徨い続けながら、モモンガは魔法や特殊技術などの実験を一通り済ませていた。
結果はどちらも問題なく使用することが出来た。これは実に嬉しい結果である。
《下位アンデッド創造》で不可知化した
(弱すぎるんだよなぁ。ユグドラシルの初心者用ステージでももう少し強い敵はいたぞ?)
かなり弱い。
レベルにして〜15程度しかない。
今見てきた中では
ただの不可知化すら看破できないどころか、低位の魔法である《
だからと言って油断するつもりはない。
この世界は未知が多すぎる。
どんな強敵が潜んでいるのかまだ分からない。
この森にいるモンスターが特別弱いだけなのかもしれないし、人間種は全員レベルカンスト級の実力者揃いなのかも知れない。
「色々と調べなければならない事があり過ぎるな。しかし…。」
モモンガは森を見渡す。
異変が生じてから3日も経つが、場所を移動しながらの様々な実験には少々限界がある……というよりも。
(拠点が欲しいな〜。1人なのは…やはり寂しいが仕方ない。好きなようにやって、人生…いや、アンデッド生を楽しむとしよう。)
それに『帰る場所』。
それがあるのと無いとでは心情的に大きく違う。確かに待ってくれる人が居ないのは寂しい事かもしれない。けれど、ここは異世界(多分)。ユグドラシルとは違って、どんな人、あるいは種族がいるのか全くの未知だ。もしかすればかつてのように友人となり得る存在に出逢えるかも知れない。
(あわよくば…かつての仲間たちに会えれば良いんだけど。)
これは本当に淡い希望だろう。彼らも自分と同じようにこの世界に来ているとは考え難いし、そもそもあの頃と同じアバターで、異形種なのかすらも怪しい。それでも、この心の奥底にある小さな希望は…捨てたくなかった。
「それに新しい拠点を第2のナザリックにするのも悪くないだろう。拠点作りは冒険の浪漫だな!……冒険?…浪漫?」
ここでモモンガに強い衝撃が走った。
そうだ…冒険だ!浪漫を追い求めよう!
ここは異世界、未知なる世界!
そうと決まれば善は急げだ。
早速モモンガは移動を開始した。
「拠点作りに…今手持ちのアイテム整理と確認。あとは魔法やスキルに周辺状況の確認と…フフフ、ワクワクしてきたぞ。」
その足取りは3日前と比べて軽やかだった。
ーーーーーーーーーー
アンデッドの身体は色々と便利だ。飲食、睡眠などの不要。あらゆる肉体ペナルティの無効には大分助けられている。さらに〈
もうアンデッド様々である。
身体に鞭打ってブラック企業で毎日働き尽くめの社畜人生になど戻れない。
さらば肉体!こんにちは骸骨!
しかし、不満がない事はない。
森の中を流れる綺麗な川の水を飲んでみたいなと思うことがある。無論、この骨の体ではそんな事は出来ない事は分かっている。分かってはいるが…
(試しちゃうんだようなぁ…。)
川に顔を近づけて剥き出しの歯が並ぶ口を当てる。そして、飲むような仕草を取るが……案の定飲めるはずも無い。
(ですよねー。)
こういう欲求も無くならないものかと思うこともあるが仕方ないと受け止めるしかない。性欲や睡眠欲も無いのなら飲食欲も無くして欲しかったと思う。
性欲で思い出したが、結局我がムスコを使用する前に消失してしまった事に少しガッカリする。
(一生童貞か……そう言えば昔仲間が『童貞も三十路過ぎれば魔法使いになれる』とか言ってたなぁ。
肩を竦めるとモモンガはある事を思い出していた。それはサービス終了の数ヶ月前での出来事で、自分は何かを作っていた。
(何を作ったんだっけ?たしか……ん?)
森の中を歩きながら考えているとモモンガの感知魔法に反応が現れたことに気付いた。点々とした反応なら今までもあったが、この反応は何十体も1箇所に集中している。
(集落か何かかな?)
そう考えながら反応の出た場所へ近づいて行くと、鬱蒼と生茂る森林から少し開けた場所へ辿り着いた。そこには人工物の建物などの類は一切無いが、何か無数の大型生物の足跡らしきものがあった。爪や足指の形まで足跡から見えると言うことは少なくともこの足跡の持ち主達は裸足だ。
「…あまり理知的な生物は期待出来ない、か。」
モモンガは自身に強化魔法をいくつか掛けた。
アンデッドの特殊技術『アンデッド創造』によって創り出した下位アンデッドの
(そのまま周囲の警戒にあたれ。もし何者かが近づいて来たら命までは取らず、追い返す程度にしろ。)
念でそう指示を送ると死霊達は言われた通り非実体と不可視化で周囲の警戒を続ける。
(自分が創り出したアンデッドとのやり取りを当たり前の様に出来てるあたり、自然とこの身体に慣れてるのかな?)
さらに森を進んで行くと大地に亀裂が入った様な大きな洞窟へと辿り着いた。
「見張りは…いないか。不用心だな。」
モモンガは洞窟の中へ向かって歩いて行く。
中は意外にも傾斜が緩やかで天井も横幅も広く、かなり奥まで続いていた。太陽の光も届かない奥地まで進むが《闇視》により何の支障も無く進んで行く。
(思ったよりも広いなぁ。これなら……む?)
洞窟の中にポッカリと空いた横穴を見つけた。モモンガがその穴の中を覗くと中には大量の骨が無雑作に積まれていた。
古いものから新しいものまで…そんなに詳しい訳ではないのだが、人骨やら動物の骨やらとその種類はバラバラだ。間違いなくこの洞窟に住う連中の仕業だろう。
「やれやれ…先が思いやられる。」
骨は残すところ見ると自分は捕食対象ではないだろうと考えていると感知魔法が再び反応した。奥から例の集団が移動を開始し、此方へ向かって来る。
「お?フフフ、手間が省ける。」
モモンガはこの世界に来て初めて言語的コミュニケーションが取れるかも知れない相手との接触にドキドキしていた。まるでプレゼンを発表する前の気分だ。
初めはゴブリンやオーガにも声をかけようとしたのだが、此方が近づく前に血相を変えて(多分)一目散に逃げ出してしまった。何故逃げるのかと考えていると外装データの『禍々しいオーラ』が赤黒いオーラをフルに発していた事に気付いた。
どうやらコレに怯えていたようだ。
まるでズボンのチャック全開で歩いていたみたいに恥ずかしい気持ちになった。
そうと分かれば早速その外装データをOFFにすれば問題解決である。今のモモンガはその状態だ。少なくとも怯えて逃げ出す事はないだろう。
(さて…気合入れるぞ!)
遂にこの洞窟に住まう者達とご対面。
現れたのは数十体のトロールとオーガ。そして、彼らを引き連れる一際大きな巨軀を持つ存在。
(お?コイツは見たことないトロールだな。マウンテン・トロール…にしては小さ過ぎるし。)
モモンガは初めて見るトロール種に内心興奮していた。レア物好きのコレクターとして是非とも自分の物にしたいと言う欲が湧き上がる。
緑色の肌、普通のトロールを凌駕する筋肉量に鍛え抜かれた肉体。無数の動物の皮を集めて作られた革鎧と腰巻、その巨軀に身合った大剣を背中に備えている。
呼び名をつけるとしたら『
早速、相手のレベルを確認する魔法を発動させるが…。
(レベル35?……え?低ぅ…。)
初心者もいいとこなレベルだ。ユグドラシルのチュートリアルエリアに出てくる少し強い敵程度しかない事に、ホッとするが内心ガッカリもしてしまう。
(まぁ今まで見てきたモンスターの中では突出して高いレベルではあるな。)
「何だ貴様は!?スケルトンか!?」
自己紹介も無くいきなり怒声を上げてくるウォートロールにモモンガは無い眉間のシワをシワを寄せた。彼の第一印象はいきなりのマイナスだ。社会人としての基本がなってない。
(いや、そもそもコイツらに社会の常識云々を求める事自体間違いか。)
ウォートロールの威圧的な怒声は続いた。
「東の地の支配者であるこの『グ』様が、貴様が名を名乗る事を許可してやる!!!」
『グ』とは何だ?まさか彼の名前か?
30強程度のレベルで支配者とか何処のチュートリアルボスだよ、と一瞬考えるが、名乗れと言われたので取り敢えず名乗る事にする。
「これはこれは申し遅れました。私はモモンガと言う者です。因みに種族は
「ふぁッふぁッふぁッふぁッ!!!!!悪くはないが、この『グ』様ほどの力強さも勇敢さも無い!!」
モモンガの胸中にムカムカと不快感が湧き上がる。名乗れと言って名乗った結果、その名を馬鹿にされた挙句大笑いときた。彼はこの東の森の支配者と言っていたが上がコレでは手下の許容もまるで期待出来ない。
「それに『オーバーロード』など聞いたことがない!!おい、スケルトン!!貴様この俺に嘘を付いたな!!嘘つきだ!!!」
オーバーロードを知らないと言うことはこの世界…いや、この森にオーバーロードは居ないと言う事になる。
(いや、それは早計だ。コイツが知らないだけかも知れないし、そもそもオーバーロードはユグドラシルでも高難易度エリアにしか出現しないモンスターだから、大したレベルのないこの森では居る方がおかしいと言えるだろう。)
モモンガが考えているとグが背中の大剣を抜いて、大上段の構えを取っていた。
「貴様を殺した後にその骨をバリバリと噛み砕いて食ってくれる!!!死ねェェスケルトン!!!」
(いや、アンデッドに『死ね』って…。)
振り下ろされた大剣がモモンガに当たった瞬間鈍い音と共に弾き返されてしまった。モモンガは一歩も動いていない。困惑するグは大剣とモモンガを交互に見るが、更に追撃を加える。
(うーん…シュールだ。)
しかし、何度やっても攻撃は弾き返されてしまう。モモンガが身に纏う漆黒のローブにはシワ一つ出来ていない。魔法の装備の為、埃など付いていない筈だがモモンガは何となく肩の埃を払う動きを見せる。
グは微動だにしないモモンガに恐怖と困惑で醜悪な顔をさらに歪める。
「ど、どうなってやがる!?」
(そりゃあレベルカンストの俺とじゃ差がデカ過ぎるし。ユグドラシルじゃレベル差が10もあればほぼ敵わないんだから無理もない。)
そうこうしている間にグは怒涛の連撃を繰り出したり、剣が駄目ならと最も信頼に足る己の肉体を使った殴撃を放つが全てほんの僅かのダメージにすら入っていない。
「な、何故だ!?何故俺の攻撃が効かない!?」
今も殴り続けているグにそろそろモモンガも鬱陶しくなってきた。
「あー、うざい。」
モモンガは殴ってきたグの腕を余裕で掴み取ると、そのまま持ち上げた。巨軀の差を感じさせないその怪力に持ち上げられたグは表情を真っ青にして困惑する。
「なっ!?」
「よっ。」
そのままグを配下達がいる方向へ投げ飛ばした。
配下のトロールやオーガ達が投げ飛ばされたグの下敷きになる。
無様に倒れているグにモモンガは数歩近づいて問い掛ける。
「さて…まだやるか?」
「グホォ!?お、おいお前ら!!アイツをやれ!!」
自分では敵わない圧倒的強者を前にして、グは完全に怖気付いてしまった。その姿はさっきまでの自信過剰な姿からは想像出来ない程に情けない。
(なんだかなぁ。ここまで情けないとなると、いくら新種のトロールでもコレクター意欲が下が……ん?いや、待てよ。態々生きている必要性はないな。うん。)
「何してる!?早くあのスケルトンをやれ!!」
配下の者たち全員がその場から動けなかった。この東の地の支配者にして自分たちの王でもある絶対強者でさえ手も足も出ない存在が今目の前にいるのだ。幾ら知能が低い彼らでもアレと戦えば返り討ちに遭うことは理解できていた。
一方、モモンガは見たことのないトロール種は魅力ではあったがあの弱さと態度が非常に不快である為、生きたままのコレクション化は断念する事にした。
「
グシャ!
心臓が握り潰される生々しい音が響くとグとその配下のトロールやオーガ達がバタバタと力無く倒れていく。
「さて、どうするか…ん?」
モモンガはグが使っていた大剣に目を付けた。一見、野蛮な作りに見えるが刀身中央の溝から紫色の液体が流れている一風変わったモノだった。
「もしや……《
大剣を魔法で鑑定してみるとマジックアイテムである事が分かった。それもユグドラシルでは見た事のない、恐らくこの世界特有のマジックアイテムだ。
「効果は…ふむ、『攻撃を加えた相手の筋力を一定時間低下させる』か。だが、自分より格下…レベルの低い者にしか効果は無く、筋力低下自体大したものではない。」
言うなれば下級アイテム。ユグドラシルなら初心者でもあまり装備したがらない。
(でも、ユグドラシルには無いってだけでもアイテムコレクターとしては嬉しい。よし、貰っとこ。)
モモンガは『
その後、モモンガは洞窟の奥深くまで探索を続けた。ゴブリンや人と思われる食いカスの残骸で散らかっており、腐敗臭も凄い。しかしアンデッド故にモモンガに猛毒ガスの類による状態異常は無効化される為、気にもしない。一番奥まで進むとそこにはグの定位置となっていた場所なのか藁と動物の毛皮が適当に敷かれた場所を見つける。片隅にはよく分からないガラクタが積み上げられており、モモンガはそれらも鑑定する。
「ふむ。恐らくヤツに襲われた者達の私物品だろうな。何の効果も無い衣服や武器が殆どだ。ヤツはこれを宝の山にしてたのか?それとも戦利品としていたのか……お?何個かマジックアイテムもあるじゃないか!効果はユグドラシル初心者装備以下だが貰っておこう。フフフ、戦利品ならばヤツを倒した俺が貰っても文句は言うまい。」
早速これらのマジックアイテムも仕舞い始める。効果はどれも下級強化・補助系魔法以下の効果しかないゴミアイテムだが、ユグドラシルには無かったアイテム故に集めておく。
やはり自分はアイテムコレクターなのだと改めて実感する。未知のアイテムを見つけて心が高揚し、楽しんでいるのだから。アンデッド特性の精神鎮静化の働きにより一定の高まりまで到達すると強制的に鎮静化させられるのが少し尺だ。
(便利と言えば便利なんだけど……。)
モモンガが洞窟を出る頃にはすっかり夜になっていた。彼は大きな巨軀のトロール…ウォートロールのグを従えていた。もっともその姿にかつての生気は一切無い。モモンガのスキル『アンデッド創造』によりアンデッドとして復活したのだ。
言うなれば『ウォートロール・ゾンビ』。
「うん。このくらい静かな方が丁度いいな。」
モモンガは自身のスキルの実験が成功し、ユグドラシルにはいなかった新種のトロールをアンデッド化した事で支配下に置けた事に満足していた。加えて効果は使えないがユグドラシルには無いマジックアイテムも回収出来た。
大満足だ。
「あ。このまま移動するとなるとアレか…目立ち過ぎるか。うーん、本格的に拠点を見つける必要が………ん?」
腕を組んで悩み考えているとふと考えついたモモンガは周りと洞窟を交互に見た。すると、閃いたのかポンッと手を叩く。
「よし!此処にしよう!」
思い立ったが吉日。善は急げ。
モモンガはワクワクした気持ちで再び洞窟内へと戻っていく。
外にはウォートロール・ゾンビだけがポツンと1人佇んでいた。
こんな感じで進んで行きます。
感想お待ちします。