あなたは反省と謝罪は別だと思いますか。「別だと思います」。そう答えたのは、北海道大学のトップです。(2019年12月10日放送)
「反省しています」
先月北海道大学が“反省”を表明するための会見を開きました。研究目的で収集したアイヌの遺骨が適切に保管されていなかったことを反省しているというのです。笠原正典学長職務代理は「アイヌ民族の尊厳に対する適切な配慮を欠いており、極めて遺憾であり、真摯に反省しております」と述べました。
「頭しか戻ってこなかった」
北海道大学は昭和6年から人類学研究のためにアイヌの遺骨を発掘・収集してきました。しかし、その遺骨を、頭とそれ以外にわけて保管してきたのです。複数の遺骨がひとつの箱にごちゃまぜになり、どこまでが1人の遺骨なのか、わからないものもあります。しかも、記録も十分に残っていません。収集の経緯はおろか、そもそもどこから掘り出したのか、わからないものさえあるのです。大学から遺骨を返してもらったアイヌ、清水裕二さんは「頭しか戻ってこなかった」と明かします。こうした管理方法に対して、北海道大学は反省するとしたのです。
“謝罪なき反省”
しかし、会見はどこか釈然としません。反省していることを強調するものの、謝罪という言葉が明確に避けられていたからです。報道陣から「反省だけでなく、アイヌに対する謝罪はしないのか」という質問が相次ぎました。それに対して、笠原正典学長職務代理は「反省と謝罪することは別だ」と繰り返しました。時折、手元の書類に目をやったり、言葉につまったり。しかし、立場は一貫していました。
謝罪した大学も
この2週間後、今度は札幌医科大学が会見を開きました。私は「北海道大学の声明文とさほど変わりはないだろう」と思いながら、会場で配られた声明文を目にして驚きました。「おわび」という文字が載っていたのです。三浦哲嗣医学部長は「アイヌの方々が受けてこられた苦痛と苦難に対しおわびを申し上げたい」と述べました。一連の遺骨研究で大学が謝罪するのははじめてのこと。北海道大学と比べると、対照的な対応です。
アイヌの反応は
札幌医科大学の謝罪について、アイヌの人たちの反応はおおむね好意的です。北海道アイヌ協会の加藤忠理事長は「それぞれの大学の立場がある中、浮かばれる気持ちも少しは出てきている」と話しました。また別のアイヌからは「画期的であり、北大などほかの大学にも広がってほしい」と期待する声も聞かれました。
分かれる大学の対応
保管の方法が適切ではなかったとして“反省”を表明する大学と、現代の倫理上は許されないとして“謝罪”する大学。実はどちらも研究への認識に大きな違いはありません。「当時の法律・倫理上、遺骨の発掘・収集は許されていた」と考えているのです。しかしいまの倫理から過去の研究を否定・謝罪するところまで踏み込むかどうか。それは大学として掲げるスタンスの問題です。
研究倫理の議論はじまる
いま、研究者の中で、アイヌ研究をどう進めていくか、模索が始まっています。日本文化人類学会などは北海道アイヌ協会と連携して、倫理指針をつくり始めました。遺骨の利用を制限することも想定していて、今後、案を公表し、広く意見を募る予定です。
「全国の大学の中でも率先して国の取り組みに協力してきた」と自負する北海道大学。人間の尊厳ともいえる遺骨をどう研究するべきなのか。議論が本格化する中、大学としての姿勢が問われています。
札幌放送局 福田陽平記者