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転生貴族の異世界冒険録~自重を知らない神々の使徒~ 作者:夜州

第三章 聖女編

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第二十四話 出立

お待たせしてすみません。本業多忙と出版に伴う営業活動のため更新が滞っておりました。

今週からは少し落ち着くと思うので再開頑張ります。

書籍ですが、4刷が決定いたしました。多くの人に手にとっていただき感謝です。



 玉座に座る国王の前には白銀の鎧を着たハゲンが片膝をついて頭を下げている。

 ハゲンの後ろには、同じ白銀の鎧を着た部下たちが四名ほど同じ姿勢をとっていた。

 昨日エスフォート王国に到着し、一夜を明かした後、本日謁見となった。

 カインも上級貴族の仲間入りをしたことで、貴族たちが参列している中に並んでいる。


「面を上げよ。この度はご苦労だったな」


 国王の言葉にハゲンが顔を上げた。


「エスフォート国王におかれましては――」


 形式的な挨拶が交わされていく。そして正式な謝罪も含まれる教皇からの手紙がハゲンによって読みあげられた。


「たしかに教皇殿からの謝罪は受け取った。こちらからも返信の手紙を持たせよう」


 そして、明日に聖女と共に出立することが告げられた。


「それでは、明日発つということだな。道中聖女殿のことを頼んだぞ。出国までは近衛騎士団を同行させよう」


「わかりました。聖騎士団の威信にかけて教国へ無事に送り届けます。それと国王、ひとつお願いがあります」


「なんじゃ、多少のことなら聞くぞ」


 国王の言葉に頷いたハゲンは言葉を続ける。


「聖女様が神託でおっしゃられたカイン殿と会談をさせていただけますか。私もこの目で見てみたいと思います」


 ハゲンの言葉に国王は眉間に皺を寄せて少し悩む。そして一度視線をカインに向けてからゆっくりと頷いた。


「よかろう。謁見の後に用意させよう。マグナ、手配を頼む」


「承知いたしました、国王」


 国王の言葉に頷いたマグナ宰相が手配のために後ろで控えている官僚に指示を出していく。


「ご要望お聞きいただきありがとうございます」


 謁見が終わり、王族が退出した後に、ハゲン達も退出していく。

 そして貴族たちが最後に退出するときに、カインは従者に案内され応接室へと向かった。


「やっぱり逃げられなかったか……」


 何を話すことがあるのかと憂鬱になりながら、カインは従者の後についていく。

 そして、応接室の扉がノックされ開かれた。

 部屋の中には、聖騎士のハゲン、そして近衛騎士副団長のダイム、マグナ宰相が座っている。

 中央に座るマグナ宰相の正面に左右に対面するようにハゲンとダイムが座っていた。

 カインはダイムの横の席の前に立ち、ハゲンに向かって挨拶をする。


「お待たせしました。カイン・フォン・シルフォード・ドリントル伯爵です」


 カインの挨拶に対してハゲンはカインに向けて殺気を少しだけ放った。


「ハゲンっ!!」


 殺気に気づいたダイムはすぐに席を立とうとするが、カインは澄ました顔でダイムの肩を抑えた。


「ダイム副団長、問題ありませんよ。これくらいでしたら……」


 カインは変わらない笑みを浮かべて答えた。

 実際に人外ともいえる魔物の殺気はこんなものではなかった。ユウヤの殺気を最初に受けたときは気を失うかと思うほど強烈だった。それに比べればたいしたことではない。

 殺気を抑えたハゲンは席を立ち、カインに頭を下げる。


「カイン卿、申し訳ない。少しだけ試させてもらった。ヒナタ様の神託に相応しいかな……。私の殺気を受けてもまったく動じないとは。その年にしてまったくもって参った」


「私もヒナタ様の神託に対して驚いております。何も知らずにいきなり聞かされましたから」


「カイン卿もそうであったか……」


 腕を組み悩むハゲンの横でマグナ宰相を口を開いた。


「よろしいかな。今回の聖女様の神託はそんなに簡単に決められることではない。すでにカイン卿には三人の婚約者がおる。しかも王女殿下、公爵令嬢が二人だ。そこに聖女様を入れるとなるとな……」


 カインの顔を一度見たあとにハゲンに向き直る。


「私のほうでも教国に戻ったあとに、教皇含め最高機関で論議を行わないとこの結論はでません。たとえ神託であったとしても……。できればカイン卿にも教国に同行していただきたいが……」


 ハゲンの言葉で教国まで同行する可能性があることに、ダイムが顔をしかめる。


「ハゲン殿、さすがにそれは認められん。カイン卿は貴族として領主もしておるが、まだ学生でもある。貴族の役目で他国へ行くことはあるが、成人するまでは王国としても特使とするのは認めていない」


 マグナが同行の可能性を真っ先に否定した。

 貴族の当主の発言は場合によってはその国の代表した言葉ともなる。たとえ未成年であったとしてもその言葉の重みは変わるものではない。


「そうですか……わかりました。では、予定通り明日出立いたします」


「うむ、国境までは近衛騎士団をつけよう。ダイム、任せたぞ」


「マグナ宰相、承知いたしました」


 その後は今後の話になり、ダイムとハゲンが昔馴染みであるということも知らされた。

 ハゲンは教皇派ではなく、中立派の聖騎士ということで、ヒナタのことを確実に守ってみせると自分の胸を叩き、さらに強硬派の動きを監視することが伝えられた。

 その後、カインは聖女を含めた最後の食事会に出席したのであった。



 出立当日、青空の中、王城の前には聖騎士団、近衛騎士団、王族を含め貴族たちが聖女ヒナタを見送るために参列している。

 聖騎士団数名と近衛騎士団が事前に、捕らえられている親衛隊長を含む数人を檻馬車に乗せ王都を出立している。さすがにこの出立の式典に同行するわけにもいかなかったからだ。

 楽団による曲が流れ、その中を真っ白な金糸に彩られたローブを纏いゆっくりと国王とともに王城から出てきた。

 前日に聖女から国王に対して、国境までカインと同行したいとの願いがあったが国王は丁寧に断った。

 たしかに不測の事態があれば、カインの力が必要になるかもしれないが、カインの力を他国の聖騎士たちに見せるのは良くないと判断したからだ。

 ただし、カインの願いにより、カインが自作したネックレスがヒナタに贈られた。

 このネックレスはテレスティアやシルクに贈った物と同様で、危機になったときに魔力を流すとカインに伝わり、尚且つ、本人の周りをシールドが囲うようになっていた。

 もちろん、カインに伝わるとは説明しておらず、魔法によるシールドが発動する魔道具であるとヒナタには説明されていた。

 カインからのプレゼントを受け取り、満面の笑みを浮かべながら、ヒナタは国王の続く言葉に上の空でただ頷き続けていた。すでに気持ちはネックレスに夢中であったのは言うまでもない。



 カインとの別れをさびしそうな表情をしながらも、昨日贈られたネックレスを手に取り、貴族の参列している間を通り抜け馬車へとゆっくりと進んでいく。

 カインはヒナタの要望により、国王の後ろをついて歩いていく。 

 そして馬車の前に辿り着いた。聖女は振り向き参列している貴族たちに神々しいともいえるほどの笑みを浮かべる。

 貴族たちもまだ子供とはいえ、その美しい笑みに吸い込まれていくような錯覚を覚えるほどだった。


「皆様、お世話になりました。エスフォート王国にお伺いすることができて私は幸せです」


 ヒナタは挨拶をし、深々と頭を下げる。

 頭を起こしたヒナタはカインに視線を合わせ微笑んだ。

 そして少し小走りのようにヒナタはカインに近づいて行った。


 ヒナタはカインに顔を寄せ――、


 チュッ


「えっ……」


「「「「「あっ…………」」」」」


 ヒナタがカインの頬にキスをした。


「また少しの間会えなくなっちゃうから……」


 頬を赤く染めたヒナタは、カインにだけ聞こえるような小さな声で告げると、小走りで馬車へ乗り込んでしまった。

 あまりにも衝撃的な行動に誰一人理解できる状態ではなかった。

 もちろん、馬車を守るために整列している聖騎士や近衛騎士たちも含めてだ。

 次第にしでかした事を理解してくると、国王の顔がみるみる赤く染まっていく。そして額に青筋を立てながら口を開いた。


「カイン……あとでわかっているよな? 今は見送りだから何も言わん。あとでゆっくりと話す必要があるよな」


 圧倒的な迫力のある国王の言葉に、カインは視線を逸らした。


「――はい……」


 力なく答えるカインを確認し、騎士たちに向けて国王が言葉を発する。


「それでは達者でな。ダイム、護衛頼んだぞ」


 ダイムがその言葉に、整列している騎士たちに号令を出す。


「しゅっぱーーーつ!」


 ダイムの言葉で騎士たちは我に返ったように動き始めた。

 馬車が見えなくなるまで見送った国王含めた貴族たちは、次第にカインに視線が集まっていく。

 先ほどあった出来事に対して理解できたのか嫉妬を籠った目がカインに向けられていく。

 中には殺気がこもった視線を送る者もいた。


「では、カインよ。この視線は痛いだろう。部屋でゆっくり話そうかのぉ」


 国王はカインの肩を力強く二度叩いたあと、カインの肩を組み王城へと戻っていった。


 個室で一時間ほど国王の説教が終わった後、疲れ果てたカインを待っていたのは、腰に手を当てて少し赤い顔をして怒っているテレスティアだったのは言うまでもない。


「カイン様、ちょっといいかしら……」


「――何も悪いことしてないのに……」


 カインの服を引っ張りながら王城を歩く王女殿下がメイドたちに目撃されたのであった。









これでこの章は終わりとなります。

閑話挟んでから次章に進む予定です。

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