消毒“自腹“切り作業も…業務増「対応は現場に丸投げ」 教員は嘆き

西日本新聞 くらし面 四宮 淳平 金沢 皓介

「疲弊する学校」(下)

 学校の役割は年々拡大、多様化している。いじめや不登校の増加にとどまらず、通学路の安全確保、学校評価の説明責任、情報教育や消費教育なども。国は外部人材の活用を促すが、多忙な現場は慢性的な人員不足に悩む。そうした中で襲ったコロナ禍。現場教員は「倍増」したともいわれる業務に追われながら、自らの立ち位置を探っている。

 福岡市の小学校に務める50代の男性教員は、6月に再開された学校の雰囲気について「学習塾のようだった」と自嘲する。

 従来の1こま45分、1日最大6こまの授業は、35分で7こまになった。休校中の遅れを取り戻すための対応も「授業はぎゅうぎゅうに押し込んでいる感じがある」。子どもに板書はほぼ取らせず、ノートに書き写させていた問題は、事前にプリント書きした分を切り取っておいてノートに貼り付けてもらうなどした。

 解き方をどうするとか、話し合う時間はない。理解の遅い子には目配りもしないといけない。プリントは手作りする必要があり、終業後、夕方からの限られた時間や、子どもたちの検温などで今まで以上に早くなった出勤をさらに早めて準備をしている。

 6年の担任。子どもたちが企画したり、運営に携わったりする運動会は中止になった。学校ならではの行事ができないことがもどかしい。夏休みも短くなる。それでも小学校の学習を終えないまま中学校に進学させるわけにはいかない。「しょうがないよね」。声に出したことはないが、新しい生活様式に順応しつつある子どもたちにも、そんな諦めが漂う。今後は、学習内容をできるだけ早めに終わらせて、せめてもの思い出作りに、校外に出る史跡巡りのついでに遠足気分を味わうなど「お楽しみの時間」を作るつもりだ。

 コロナの感染を警戒しながらの学校運営で、教員の大きな負担になっているのが校内の消毒作業だ。福岡県の男性教員(30代)が務める中学校では毎日、授業を終えた午後4時半ごろから、教職員全員で手分けして消毒を始める。

 机、椅子、窓、階段の手すり、ロッカーの棚、体育で使うボール…。終わりの見えない作業が続く。再開された部活動の指導も午後7時ごろまであり、この時点で学校にいる時間はほぼ半日に上る。

 ボランティアを募ったり、作業員を雇ったりするケースもあるが外部の人間だと限界もある。「自分たちが忙しいのは、しょうがない」。どんなに換気をしても、学校からそんな空気が消えることはない。

 福岡県の中学校女性教員(50代)は自宅の消毒シートを持参し、モップ状の用具で作業を進める。「そもそも、なぜ教員が掃除までしなくてはならないのか」。膨大な作業の中でそんな思いが日々募る。

 生徒は普段モップを使わず、腰を折って膝をつき「己」という字を描くように床を拭く。私語は許されない。「時代錯誤。何げない生徒の本音も聞けない」。効率的に掃除できる用具は自腹。立ち止まって考え始めると、疑問だらけの方法にため息が漏れる。

 業務は次々と増えるにもかかわらず、教職員の数は増えない。北九州市の特別支援学校の男性教員は変わらない現状に疑問を抱く。

 移動時の「密」を避けるため、学校ではスクールバスを増便した。その分のバスの乗務員業務は教員が担う。午前7時すぎには学校に到着し、手を消毒してフェイスシールドを着用、非接触型の体温計を準備する。担任なら月2~3回、担任以外では毎日乗る教員もいるという。従来のバスの到着時間も早まり、これまで通りの職員朝礼はできなくなった。「増える業務の対応は、現場に丸投げ」と嘆く。

 「授業時間を10分縮めて、今までと同じ内容をどう教えるか。土曜授業も隔週であり、教員も子どももくたくた」。福岡市立小の女性教員は打ち明ける。

 疲労が募る原因はそれだけではない。長期休校中、学校のウェブサイトに子どもたちへのメッセージを書き込もうと提案したが、管理職には難色を示された。「少しでも子どもたちのために何かしたかった」

 そんな当然の思いを拒んだのは学校の同調圧力。文科省や市教委の通達からはみ出し、もし市民や保護者からクレームが来たら-。管理職はそんな不安にさいなまれているようだった。

 「そこであきらめている自分が情けなくなる」。女性教員は、多くの教員の気持ちを代弁した。

 (四宮淳平、金沢皓介)

 

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