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語らない首相 国民から逃げる無責任

 安倍晋三首相が通常国会が閉会した翌日の6月18日を最後に、一定の時間を取って質問に応じる記者会見を開いていない。

 野党の要請にもかかわらず、国会の閉会中審査にも出席しないままだ。「沈黙」はすでに1カ月以上に及んでいる。

 この間、河井克行前法相と妻の案里参院議員が公選法違反(買収)で起訴された。観光支援事業の「GoToトラベル」では政府の迷走が続いている。

 新型コロナウイルスは首都圏など大都市で感染が再び広がり、地方にも拡散しつつある。

 いずれも、安倍首相が政府の考えを説明するべき問題だ。会見に応じず、国会にも出席しないのは、追及されるリスクを避けているとしか思えない。「逃げ」の姿勢を続けるのは責任放棄である。

 観光支援事業では政府の方針は二転三転している。

 最初は8月上旬の開始予定だったのを22日に前倒しした。感染拡大が明確になると東京都を対象から除外。きのうは当初「考えていない」としていたキャンセル料を政府が補償する方針に転換した。

 これでは旅行を考えていた国民や旅行業者は混乱するだけだ。

 共同通信の世論調査では「全面延期すべき」が63%、「ほかの感染拡大地域も除外」が17%に上る。国民の意見は明確だ。

 事業が盛り込まれた緊急経済対策の閣議決定は、実施時期を「拡大が収束し、国民の不安が払拭(ふっしょく)された後」としていた。国会もそれを前提に審議した。いま実施する理由と、感染再拡大のリスクに対する認識を、国民と国会に明らかにするのが首相の義務である。

 感染再拡大への政府の対策も示すべきだ。PCR検査は今後どう増やすのか、休業の再要請や補償は考えていないのか。国民の関心はそこにある。

 それなのに政府は国民に注意を呼びかけるだけで、主体的な対策はほぼ取っていない。首相は現状の認識と対策方針を明確に語らねばならない。

 河井夫妻の公選法違反事件では逮捕された当日に開いた会見で「任命責任を痛感」と述べ、「党総裁として説明責任を果たす」と言及した。それが起訴された8日に2分間だけ応じた取材では、説明責任を果たすのは「自民党」と発言を後退させた。自ら詳細を話す意思はないのか。

 野党は「首相は都合が悪いと官邸に巣ごもりする」と批判している。国民から目を背けていては信頼をさらに失うだけだ。

(7月22日)

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