ウオークスルー方式による検体採取のデモンストレーション(青森市PCR検査センター)
日本は検査実施能力で今も欧米に大きく後れを取っている。日本の1日のPCR検査能力は現在約3万2千件で、抗原検査を加えても約5万8千件にとどまる。
米国は現在、1日当たり50万件の能力があり、実現は遠いもののホワイトハウスは「500万件に増やせる」としている。英国でもジョンソン首相が10月末までに1日50万件の検査体制を目指すと表明した。
ドイツは週110万件、フランスは週70万件の能力がある。中国は1日378万件という。日本の検査能力は、こうした国々から大きく立ち遅れている。
日本政府は検査の拡充方針を打ち出している。ただ明確な上積み目標値は示されていない。原則として医師が検査の必要性を判断する仕組みも変わっていない。
検査対象は症状がある人や濃厚接触者、多くの感染者が出た職場の関係者などに限られる。実施件数の抜本増は見込みにくいのが実情で、こうした状況が、民間を含めた検査機器や人員の増強の動きの鈍さにつながっている可能性もある。
検査実務の効率性もなお課題だ。国はオンラインで感染者情報を入力する新システムを5月に稼働させたが、東京都などでは新システムへの切り替えが遅れている。感染拡大への対応で作業が追いつかないという。
都では医師が感染者情報を保健所にファクスし、保健所がそれを都にファクスするという作業が依然続いている。検査から結果公表までに3日かかっており、リアルタイムでの情報把握が難しくなっている。
経済界からはビジネス再開への備えとして「今冬までに1日20万件の検査能力を確保すべきだ」との声もある。国際的な人の往来の再開を見据えれば、欧米並みの検査体制の整備が必要との見方は根強い。
厚生労働省は21日、空港検疫の検査能力を現在の1日2300件から9月中にも同1万件に引き上げると表明した。感染拡大前は1日13万人前後が入国しており、一段の拡充は避けて通れない。
臨床検査医学が専門の東京医科歯科大学の東田修二教授は「感染する確率が高い場所や、感染が起こると被害が大きくなる施設などで、無症状者も含めた検査を実施するのは妥当だ」と話し、検査対象の拡大が感染拡大防止につながるとの見方を示す。
一方、無条件での一律の検査には巨額の費用がかかるとも指摘し「濃厚接触と判断する範囲を広げ、感染した確率の高い人を優先して検査するのが合理的だ。全くの無症状・無関係な人に検査を実施するよりも検査能力を有効活用できる」と、検査資源を効率的に使う工夫も求めている。