第十九話 Sランク冒険者誕生
皆が驚いて固まっている姿を不思議そうな顔をしたネスは、リキセツに話しかける。
もちろんカインの事を冒険者としてではなく、間違えずに領主として扱えたことを誇ったように胸を張ってだ。
「ギルドマスター! アレク男爵がお待ちになっていますから」
スパ―――ン!
そしてリキセツから頭を叩かれるネス。
「いった―――い!」
痛みで頭を抱えるネスに、リキセツはため息をつく。
「お前という奴は……済まぬな、カイン殿。こいつのせいでバレてしまったわい」
「仕方ありませんよ……」
カインは周りを見渡すと、アイリを始め銀狼の牙のメンバーや、他の冒険者、解体をしている職員までもが驚いた顔をしていた。
ネスは一人だけ理解できない状態でいたが。
「えっ、えっ、カインくんが領主様!?」
「まじかよ……」
驚きの表情をしたアイリやデストラから出た言葉はそれが限界だった。
アイリは驚きの声を上げるだけで済んでいるが、デストラや他のメンバーたちは顔を蒼白にさせている。
ダンジョンにいた時の対応を含め、貴族の当主に対しての接し方を思い出していたからだ。
諦めたリキセツはカインの前に立ち、この場にいる面子に話しかけた。
「聞いての通り、このカイン様は領主様である。ただ、冒険者も兼任しているのだ。カイン様はあまり表には出ていないからな、これからも何かあっても冒険者として接してほしい。――難しいかもしれんが……もちろん今話した事は他言無用だ」
リキセツが話すとカインに視線を送る。カインは頷いてから一歩前に出た。
「聞いての通り、カイン・フォン・シルフォード・ドリントル伯爵です。領主をしていますが、冒険者もしており、また王都の学生でもあります。一応内密で動いている時も多いので冒険者でいるときは気軽に接してくださいね」
カインは満面の笑みを振りまくが、周りにいる全員が顔を引きつらせている。
Sランクの魔物を討伐するアホみたいに強い冒険者の子供と思っていたのが、自分の住む街の領主でもあり、上級貴族と分類される伯爵本人であるのだ。予想外にも程があるだろう。
「は、は、伯爵様……カインくんが伯爵様……」
良く理解できていないアイリを他所に、カインはリキセツと共にその場を逃げるように後にし、応接室へと向かった。
応接に入ると、アレクとレティアが待っていた。
「あれ、カイン、いやカイン伯爵、戻ってきていたんだ? 一人でダンジョンに入ったとダルメシアから聞いて、ギルドマスターに話しておこうと思っていたのだが……」
「アレク兄様、先ほど帰ってきましたよ。特に問題もなく……いや少し問題はあったけど……」
リキセツから小声で内容を聞いたレティアは額に手を当ててため息をつく。
「まぁネスの事は後にするとして、今回の魔物の素材が、Sランクのミノタウロスローグだと……」
ため息をつくレティアにカインは口をはさむ。
「その件ですが、地下十五階で
「ちょっと待ってくれ、カイン、Sランクの魔物に、Aランクの
カインの言葉を聞き、アレクも額に手を当てて呆れるしかなかった。
「実はそのあとに出てきた、全身を岩の甲羅で覆われた竜みたいなのも出てきたので、それも……」
その言葉にリキセツとレティアが反応する。
「ちょっと待って! その魔物って全身が亀の甲羅のような岩に覆われていて体長は十メートル以上あって――」
興奮するレティアをリキセツは手で制す。
「カイン様、それはたぶん
リキセツの視線にカインは無言でうなずく。その態度にさすがのリキセツも顔を引きつらせる。
そしてギルド内で出さなかったことで安堵の息を吐く。
「カイン様、今、Aランクですよね? すぐに王都にSランク申請をいたします。陛下も実績を確認すれば特に問題もないでしょう。さすがにこの街で
すでに決定事項のようで、レティアはすぐに書類を用意するために応接室を退出していった。
諦めたカインは、現状のインフラや問題点などを確認してから冒険者ギルドを後にした。
さすがに帰り道は歩いて帰るわけにもいかず、アレクの乗ってきた馬車に同乗させてもらった。
「カインが強いのは知っているけど……SSSクラスはないよね? 領地内のダンジョンにそんな天災級の魔物がいるだけでも驚きだよ」
呆れたアレクの愚痴をひたすら聞きながら馬車は屋敷へと向かっていった。
ストレスを発散するために行ったダンジョンだったが、込み入った情報を聞き、尚且つ、屋敷に戻ってからもアレクに自重するように注意され、カインは皆に挨拶をしたあと、少し落ち込みながら王都の屋敷へと転移していった。
そして数日のうちにカインは王城から呼び出しを受けることとなった。
カインは馬車で王城へと向かうと、いつもの応接室に通される。その部屋には先に王都の冒険者ギルドマスターであるエディンが座っていた。
カインの顔を見たエディンは頬を緩ませる。
「やぁ。
やはりドリントルの件かとカインはため息をつく。
少しの時間が経ち、国王を筆頭に、マグナ宰相、エリック公爵、ダイム副騎士団長が入ってきた。
二人は一度立ち上がり、国王達が席に着くのを待って着席した。
「――カイン……お主、あれだけ言ったのにまだやらかすのか! Sランクの申請書の内容を読んで心臓が止まるかと思ったぞ!」
疲れ果てた国王を横目に、マグナ宰相が申請書を読み始めた。
「現在Aランクのカイン氏は、ドリントル領内ルガールの遺跡において、Aランクの
マグナ宰相は読み終えた紙をカインの前に置き深くため息をつく。
「カイン伯爵、この申請書の内容に間違いはないか?」
マグナ宰相の言葉に、カインはただ頷いた。
国王もマグナ宰相が読み上げた内容を聞き呆れたような表情をする。
「全て国で引き取ることとする。こんな素材、簡単に買い取れるところがあるわけなかろう。あとお主のSランク昇格も認める。もう初代様と一緒のSSSでもいいがな、物には順序があるからまずはSランクじゃ」
国王の言葉にカインは頷いた。
「それでじゃ、実際に見せてもらえるかな」
「わかっています。ただ広い場所が必要かと」
国王を含め、カイン達は近衛騎士団の訓練場へと移動した。以前、魔物を収めたスペースでも足りる量ではなかったからだ。
訓練していた近衛騎士たちも、いきなり国王を含め国の重鎮が現れたことに驚きを隠せない。
ダイム副騎士団長が、事情を話し一度スペースを開けさせた。
「これだけの広さがあれば問題はないと思う。カイン殿、出してくれ」
カインは広く明けられたスペースの中央に立ち、次々と魔物の素材を出していく。フォレストモンキーやフォレストウルフの群れ、フォレストコングに、そして
それだけで魔物の山が三つほど出来上がった。
周りでその様子を見ていた近衛騎士たちは絶句である。もちろん国王含め、この場にいる者も同じ表情をした。
「最後のは少し大きいので離れてください」
カインの言葉に魔物を眺めていた国王達は数メートル離れてカインを見守った。
そしてカインは最後に
「これで終わりですね……」
すっきりとしたカインの表情とは別にこの場所にいる全員が言葉を発する事が出来なかった。
周りを囲んでいた近衛騎士達は小声で話し合う。
「カイン様強いのは知っているけどさ……アレはあり得ないよな……」
「一人で戦争起こしてもこの国負けるだろ……勝てる気なんてしねぇぞ」
「あんな化け物みたいな強いのに、俺ら模擬戦を挑もうとしてたのかよ……」
呆然と眺めていた国王もやっと口を開いた。
「カインよ……、わしは疲れた。お主、――代わりに国王やるか?」
その言葉にマグナ宰相も絶句する。
カインはいきなり国王になれと言われて、即断をする。
「絶対に嫌です! 今の生活で満足していますから!!」
カインの言葉に、マグナ宰相は胸をなで下ろす。
「なんだか夢を見ているようだのう。マグナよ、後は任せた」
疲れ切った表情をしながら、国王はそのまま立ち去ってしまった。
「エリック殿、国王を頼む」
エリック公爵はマグナ宰相の言葉に頷き、国王を支えるように戻っていった。
「カイン殿、さすがにこれだけの量とはな……これは予想外過ぎる。いくら国が潤うとはいえ、それなりに支出する必要がある。査定については少し待ってもらえるかの」
誰もがこの魔物の山を見て口を開けて呆然とする。
上級とも言えるAランク冒険者達が何人いればこの量を狩れるのであろうか。いや、国が全勢力を上げて大きな犠牲を払ってなんとかなる量を、まだ成人もしていない少年が無傷で狩ってきたと言われて、誰が信じてもらえるのだろうか。
カインは問題ないとマグナ宰相に答えた。
「査定の者を後で寄越す。ただ、
「わかりました。言ってもらえればすぐに出せますから」
カインは答えた後、手で軽く触れアイテムボックスに収容する。
あの二十メートルを超える
その状況を見て近衛騎士たちから声援が上がる。
「あとの素材は騎士に運ばせる。ダイム殿、頼んだぞ」
「は、はい……」
マグナ宰相の言葉にダイムは顔を引きつらせながらも頷く。
「カイン殿は今日はもう帰っても問題ない。また使者を寄こそう。わしも陛下の様子をみてくる」
マグナ宰相はそう告げ、城へと戻っていった。その後ろ姿は国王と同じ疲れ切った姿だった。
近衛騎士とカインが残され、ダイムが申し訳なさそうにカインに告げる。
「カイン殿、さすがにこの量はね……運ぶの手伝ってもらえるかな」
その後、一度全ての魔物をアイテムボックスに収容し、魔物の素材が腐らないように分割して納める事になった。
カインの自重のない行動に疲れ果てた国王と宰相は二日ほど寝込み、全ての業務が止まったのであった。
いつもありがとうございます。
来週15日の発売日に向けて気合いれて執筆してます。
発売日までに次章に!!!!
その前にあと何話で終わるんだろう……。