第十七話 ルガールの遺跡3
「やっぱり首切っちゃうのが一番早いかな……」
カインのことを探すために首を伸ばした
二メートルほどの太さのある首は岩に覆われいかにも堅そうに見える。
そんな首にカインは魔法を放つ。
『
カインの手の上に浮かんだ真空の刃は三メートル程の円を描きながら敵に向かって今か今かと待っている。
そして放たれた魔法は一直線に
魔法は首を通り抜けそのまま、見えなくなるまで飛んでいった。
そして、見回していた首の動きが止まり、重力のままに切断面がズレていく。
ズド――――ン……
足腰も崩れ去り、首と一緒にその巨体が倒しれ込んでいった。
「あれ……一発で終わっちゃった……」
予想外の展開にカインも疑問に思いながら、
すでに死骸となった魔物を見上げながら、その大きさに感心しながらもカインはアイテムボックスの中に収容した。
首も収容しカインはさらに奥へと進んでいった。
下階に降りていくと、神殿とも言えるような広いホールに出た。
そして、その中央には大きな黒い水晶の玉が鎮座しており、その前には十メートルを超える大きさの黒い竜が横たわっていた。
カインの存在に気付いた黒い竜は閉じていた瞼を開き、カインを見つめた。
「ここが最後のボスって感じなのかな……」
今までに出会った事のない程の魔力を放ちながら佇んでいる黒い竜にカインは唾を飲みこむ。
最後の戦いを前にカインは全身に魔力を流していく。
カインの魔力を見た黒い竜は、眼を大きく見開いた。
そして、大きな身体を起こし、戦闘態勢に入るかに思われたが……。
『人の子よ……。お主と戦うつもりはない……』
頭に直接響く声にカインは驚いた。
「えっ、もしかして話せるの……?」
黒い竜は何も語らず首を縦に動かした。
『直接、お主の脳に語りかけておる。言葉では発する事はできんのでな』
話せる竜に対し、カインも
『まぁ、少し話そうか。少しまっておれ』
そう黒い竜は言うと、その大きな竜の姿は光に包まれていった。
光は次第に小さくなっていき、消えた時には竜の姿だったものは人型になっていた。
「久々にこの姿になるもの疲れるわい……」
黒髪を後ろに流し五十代に見える壮年の男性の姿になった竜は、人の言葉を発した。
その姿にカインは息を飲む。
「まぁ、こんなところに居ても仕方ない、こちらにくると良い」
壮年の男性に案内されるまま、後ろをついて行くと、何もない岩肌に向かって手をかざす。
ドドドドドドドド……
次第に何もなかった岩肌が自然と動いていき、小さな扉が現れた。
「こっちじゃ」
壮年の男性は何事もないように扉を開き中へと入っていく。
カインも緊張感を持ちながらもその後へ続いた。
扉を潜ると、そこは人が生活するような空間が広がっていた。
「そこに座るといい」
指差した先にはテーブルと四脚の椅子があり、その一つにカインは緊張感を持ちながらも座った。
そして壮年の男性はカインの対面に座る。
「あなたはいったい……?」
カインは疑問に思ったことを口にした。
「まずはそこからだな……。わしの名前はダングドリアと言う。かれこれ千年は生きておるかのぉ。他の竜からは
エンシェントドラゴンについてカインは本で読んだ事があった。長い時を生きて人語を話し、まず会える事はないと。神の使いとも言われていて、ふらっと国に現れ神からの伝言を告げ去って行く事もあると書かれていた。
そんな存在が今、カインの目の前にいる。
「何で僕にそんな話を……?」
まず敵対しない事にカインは疑問に思った。先ほどホールにあった黒い水晶の玉はダンジョンのコアであろう。それを守るために戦うことになるであろうと思っていたのが、拍子抜けをした。
「人の子よ、お主は竜神の加護を持っておろう? 同じ竜族でもわしらみたいな長く生きている存在からしてみれば、すぐにわかるのだ。一つ上のフロアを守っていた者たちでは気づく事はないがな……」
「……あの……全部倒してしまったんですが……」
もしかしてそれが今後に影響することがあるかもしれないと、カインはダングドリアに尋ねた。
「それは構わん。明日にはコアからまた産まれるであろう。あの数の
ダングドリアは薄く笑みを浮かべて答えた。
その言葉を聞きカインは胸を撫で下ろした。
「あと……一つ聞きたいのだが、お主から神竜様の匂いがするのだが……?」
ダングドリアはカインから発せられる神竜の匂いが気になっていた。神竜の加護を得て、この匂いを発している人の子だからこそ、ダングドリアは戦いに挑まなかったのだ。
「あー、そうですね。たしかに契約しています」
『
カインが召喚魔法を唱えると、魔方陣が二つ浮かび上がり、そこから大きく成長したハクとギンが出てきた。
ハクとギンは呼ばれたことで嬉しそうにカインに抱きついていく。
ハクも体長は三メートルを超え、ギンも同じ程度である。まだ子供のカインにとっては何倍もの大きさを持つ二体に絡みつかれ顔を舐められている状況はなかなか堪えるものがあった。
「ちょっと、ハク、ギン、待ってよ」
二体を宥めるように頭を撫でる。数分の絡みが終わったあと、ハクとギンは座り込んだ。
ダングドリアはその状況をただ呆然と眺めていた。
(なんてことであろうか……この子はまだ幼いが神竜様を従えておる……ただ、加護を貰うのではなく、従えているだと? あり得ない。長く生きてきてここまで心を通わせているのは今までに……一人だけいた。あの人の子と同じなのか……)
ダングドリアは神竜であるギンの前に立ち、膝をつき頭を下げた。
「神竜様、ダングドリアでございます。お初にお目にかかります。まだ幼いようですが、ご両親のお名前を伺っても……?」
ダングドリアの問いかけに、ギンは真っ直ぐ視線を合わせ少しの間沈黙し、一言「キュイ」と鳴いただけだった。
その言葉だけでダングドリアは理解が出来た。高位の竜同士だけが通じる念話で声を聞いたからだ。
両親の名前を聞いたダングドリアは、その場でギンに向かって平伏した。
その対応にギンはよく分からずに首を傾げる。
そしてその状況を飲み込まれずにいるカインは呆然とした。
千年生きているという
「まさかドラン様とルリ様のお子だったとは……。人の子よ、お主の名前を聞いてもよいか」
先ほどまでと違い、恐縮したような表情でダングドリアはカインに尋ねた。
「僕は、カイン・フォン・シルフォード・ドリントルになります。長いのでカインと言ってもらえれば大丈夫です」
「うむ、カイン殿か。わかった、名前はわしの心に刻んだぞ」
一息ついたダングドリアはまた席についた。
ハクとギンもカインの言葉で部屋の中で寛いでいた。
「それで、先ほどのホールにあるのは、このダンジョンのコアですか?」
カインの質問にダングドリアは首を横に振る。
「あれは、ダンジョンのコアでもある。ただ、それだけの役目を果たしているのではない。あれは悪しき者を封印している宝玉となっておる。それをわしは守護するためにここで役目を果たしておるのだ。それはドラン様からの頼みだったからの」
「悪しき者とは……?」
ダングドリアの答えにカインは尋ねた。
「数百年前であろうか……悪しき者が現れこの世界が混乱した。そして現れた勇者たちにより封印されここに隠されておるのだ」
カインはダングドリアの言葉を聞きハッとした。以前ユウヤから聞いた言葉がここで語られているからだ。
「――もしかしてユウヤさん……?」
「おぉ、勇者殿も存じているのか、そこに居られる神竜殿と契約しておるのなら当たり前であるか……」
その後もこのダンジョンについての歴史がダングドリアの口から語られていった。
このダンジョンは悪しき者を封印するために造られ、そしてダングドリアが守護を任された。
ユウヤは今のドリントルのあった場所に村を興し、次第に大きくなった人口を賄う為に、今の王都の場所に拠点を移し、国を興したのだ。広がっていく領地を治めるために各領を設け、信頼のおける者に任せていた。
他国から戦争を仕掛けられれば、王自ら先陣を切り負けることは無かったそうだ。
そして今の国になっていったのだという。
「――そしてわしは寿命のある限り、この地の守護を任されておるのだ」
ダングドリアの話は終わった。
カインは今までの歴史を聞き、感慨にふける。
ユウヤからは細かい説明をされず、歴史については本を読んで理解しただけだった。
こうして生き証人から話を聞くことは、カインにとってありがたい事だった。
「ありがとうございます。ユウヤさんの興した街は、今、僕が治めています。これからも治めていくつもりです」
カインの言葉に頷いたダングドリアは頬を緩ませる。
「カイン殿、頼んだぞ」
「わかりました。そろそろ僕も街に戻ります。皆、心配するかもしれませんし」
「わかった、またいつでも遊びにきてくれ。こうして話すことは勇者殿が来る以外にないからな。言葉を発したのも数十年振りかもな」
笑うダングドリアにカインは頷いた。
「それではまた来ますね! ハク! ギン! そろそろ行くよ!」
カインの言葉に身体を起こしたハクとギンは送還魔法によって消えていった。
そしてカインは『転移』を使い、ダンジョンの入口まで転移した。
カインが消えた部屋の中でダングドリアは一人で吐息を吐く。
「――あれは……本当に人の子なのか……わしには神としか見えなかった……。きっと戦いに挑んだら一瞬で命を刈り取られていたであろうな……」
他に誰もいない部屋でダングドリアは呟くのであった。
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