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転生貴族の異世界冒険録~自重を知らない神々の使徒~ 作者:夜州

第三章 聖女編

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第十二話 謁見そして・・・・・・


 騎士や衛兵たちがいつ出来たかわからない要塞のような壁を眺めていると、その一角に穴が開き、 そこから子供が一人出てきた。

 いきなり現れた子供に衛兵は警戒し剣を構える。


「皆、シルフォード子爵だ。剣を下ろせ」


 ダイムはすぐにカインだと気づき、衛兵達に剣を下ろす様伝えた。その言葉に衛兵は緊張の糸を緩め、剣を下ろし礼節をとった。


「カイン子爵、この要塞はいったい……」


 ダイムが要塞を見上げながらカインに問いかける。


「この一角が全て闇ギルドの根城だとわかっていたから、逃げられないように囲んだだけですよ」 カインが笑みを浮かべて言うと、衛兵たちは息を呑んだ。


 この要塞を一瞬にしてできる魔法とはどれだけだろうか。衛兵たちには想像もつかなかった。


「それで犯人たちは……」


「もちろん主犯、依頼者含め全て捕まえてあります。他の連中はこの中から出られないから順次捕まえていけばいいでしょう」


「わかりました。お前ら、中の者も捕らえよ」


 ダイムの言葉に、騎士と衛兵たちはカインが作った穴から流れ込んでいく。

 カインはダイムと並んで立ちダルメシアが出てくるのを待っていた。


「それにしても……やはり使徒様と言うべきか……おっと、失礼。カイン卿には驚かせられてばかりですな……」


 ダイムは要塞のようなそびえ立った壁を見上げながら呟いた。


「陛下には『捕らえる』と言って出てきたので、誰も殺してはいません。少し精神が参っている者もおりますが問題はないでしょう」


「それにしても今まで見つからなかった闇ギルドの本部をこうも簡単に見つけられるとは……」


「それは優秀な従者がおりますからね」


 カインは微笑みながらダイムに返事をする。その言葉にダイムは身震いした。

 捕縛された者は騎士に縛られた状態で引っ張られていく。闇ギルドの者たちは「なんでこんな所にいきなり壁が……」と呟きながら連行されていった。

 そして幹部だった者たちと、教国の護衛隊長が騎士に連れられて最後に出てきた。

 その後ろからはピシッとした執事服を着こなした壮年の男性、ダルメシアが一緒に出てくる。


「カイン様、無事に引き渡しが終わりました」


「ダルメシア、ありがとう。これでなんとか面目は保てたかな。ダルメシアに王都に来てもらって正解だったよ」


「いえいえ、これもカイン様のお力でございますから」


 笑顔で向かい合う二人の隣でダイムは冷や汗をかく。


(この執事の男も只者じゃない……全くスキもなければ実力も分からない。どんな奴を従えているのだろうかカイン卿は……)


 捕らえた者たちが多くいたため、馬車の荷台に設置された簡易式の牢屋では入りきらず、その後ろで身体を縛り付けられた闇ギルドのメンバーが連行されていく。

 まだ深夜であり、謁見は次の日に開かれるとダイムから告げられて屋敷に戻ることにした。

 ダルメシアはコランと少し話した後に自分でドリントルへ戻っていった。




 朝を迎え王城にいく準備を整える。シルビアが出してくれた貴族服は、いつもと違い金糸で縁取られた少し派手な服だった。


「いつもの服じゃ駄目なの?」


 カインの言葉にシルビアは首を横に振り微笑んだ。


「今日は謁見になると思われたので、もしかしたらと思い礼服を用意させていただきました」


 シルビアの言葉に腹黒い国王たちを思い浮かべ、カインは手渡された礼服に袖を通す。

 馬車で王城へと向かうと、すでに下級貴族たちが謁見の間に集まっていた。

 皆一様に集められた理由を聞いておらず、噂話をしながら上級貴族が入場するのを待った。

 次第に伯爵以上の上級貴族が入場し、残すは王家だけとなった。

 ホールに楽隊による音楽が流れ、王家の入場の合図の後に国王とヒナタが現れた。

 国王が玉座に座り、横に用意された椅子にヒナタが座る。

 用意が整ったところでマグナ宰相が一歩前にでた。

 ひとつ咳をし、説明を始めた。


「昨夜、王都に蔓延る闇ギルド本部が見つかり、騎士、衛兵含む数十人規模で襲撃を行なった」


 その言葉に並んでいる貴族たちから驚きの声が上がる。喜ばしい声がホールのあちこちから上がった。

 もちろん全員ではない。後ろめたい者もいるのであろう。

 そして声が収まるのを待ち、マグナ宰相は言葉を続けた。


「そのきっかけとなったのは、昨日、教会関係者と聖女様がスラム街で炊き出しを行なっていた際に襲われ、聖女様の命の危険に晒された。なんとか回復し、見ての通りすでに全快となられた。そして今回、闇ギルド本部の発見、捕縛の指揮を取った……シルフォード子爵、前に出よ」


 いきなり話を振られたカインは驚きながらも、国王の前に出て片膝をつき頭を下げた。

 カインが頭を下げたのを確認したマグナ宰相は話を続けた。


「闇ギルドの捕縛は速やかに行われたお陰で証拠品も多数出ておる。また騎士、衛兵にも負傷者も出ずに行われた事は褒美に値する。陛下より恩賞を与える。それでは陛下お願いいたします」


 マグナ宰相が一歩下がるのを確認し、頷いた国王が口を開いた。


「シルフォード子爵よ、この度はこの王都の闇と言われていた闇ギルドの捕縛見事であった。聖女殿もこうして全快したのもお主の功績である。そしてこの国に大切な騎士、衛兵含めて負傷者を出さなかったことは見事である。カイン・フォン・シルフォード・ドリントル子爵よ、お主を伯爵に陞爵とする。引き続きドリントルの街を治めよ」


 いきなり伯爵への陞爵と聞きカインも驚いて目を大きく開く。何も事前に聞いていなかったのだ。仕方ないことだろう。

 そして一呼吸おいて、再度頭を下げた。


「カイン・フォン・シルフォード・ドリントル、エスフォート王国のために更なる努力に励み有り難くお受けいたします」


 ホールに並んだ貴族達からは盛大な声が上がる。下級貴族では子爵は上位ではあたるが、上級貴族とは権力も資金力も全く違う。当主とは言え、まだ十歳の子供が上級貴族である伯爵に陞爵したのだ。驚かずにはいられないだろう。

 驚きで盛大な声を国王が手で制した。そして口を開く。


「ただし、今回、聖女殿が襲われたのはお主が警備を外れていた時だ。勅命として警備をしている際に席を外したのは罰に値する。よってシルフォード伯爵よ、当面、ドリントルの徴税は免除するつもりでいたが、来年から規定の税を納めよ。それがお主への罰じゃ」


 国王は今回の罰について宰相と事前に話し合っていた。どんな罰を与えてもカインには問題ないだろうと。それならば王国にとって実を取ることにしたのだ。もし貴族名を剥奪されたとしても、カインは喜んで冒険者になってこの国を離れるかもしれない。神の使徒であるカインを野放しにできる筈もなかった。それならば発展して一万人を超える領地から税収が納められれば国の予算も潤うのだ。

 カインは頭を下げ「かしこまりました」と一言返し頭を深々と下げた。

 しかしやはり伯爵となることで面白くないと思う上級貴族はいる。

 その筆頭はもちろんコルジーノ侯爵だ。


「陛下、お待ちください! 何故、罰を受ける者が上級貴族に陞爵されるのでしょうか。しかもまだ十歳、人口数千人の小さな街を一つ治めているだけでしょう。陞爵には反対でございます。しかも上級貴族に名を連ねるとは信じられません」


 コルジーノ侯爵の派閥の者たちも「そうだ! おかしい」と声が上がった。

 その言葉に国王は眉間にシワを寄せる。


「コルジーノ侯爵よ、お主は知らんのか? ドリントルは大規模に再開発され、すでに人口は一万人を超えておる。それに罰を与えるのはシルフォード伯爵だけでない。お主もだ。勅命で聖女殿の警備をしているシルフォード伯爵を無理にくだらない理由で呼び出したことは耳に入っておる。その隙に聖女殿は襲われたのだ。お主も罰を受けるのは当たり前だろう。コルジーノ侯爵よ、お主は罰金として白金貨十枚を国に納めよ。下がれ」


「そ、そんな……わ、わかりました……」


 白金貨十枚とは一億円に相当する。簡単に出せる金額ではない。

 コルジーノ侯爵は苦虫を噛み潰した様な顔をしながら頭を下げて元の位置に下がっていった。

 賞罰が終わり、これで謁見が終わりかと参列している貴族たちも思っていたとこで、マグナ宰相の言葉が続けられた。


「そして、もうひとつ知らせがある。陛下、宜しくお願いいたします」


 マグナ宰相の言葉に、国王が頷き口を開く。


「もうひとつ知らせがある。そこにいるカイン・フォン・シルフォード・ドリントル伯爵には、王家よりテレスティア第三王女、サンタナ公爵家次女シルク嬢、そしてリーベルト公爵家長女、ティファーナ・フォン・リーベルト名誉子爵の三人を――婚約者とすることを発表する」


 国王の言葉に一際(ひときわ)大きな歓声が上がる。まだ十歳の新興伯爵当主に王族からと公爵家から嫁を出すと発表されれば驚かない者はいない。しかもティファーナはこの国で一番強いと言われている近衛騎士団長でもあり、尚更であろう。

 カイン自身も知らされておらず、驚きに目を見開いた。

 悔しそうな顔をしていたコルジーノ侯爵もさすがに驚き目を見開き、口をパクパクとさせている。

 参列しているエリック公爵は相変わらずの笑顔だ。


「婚約のお披露目は二十日後に行う」


 国王はそれだけ言い口を閉じた。そしてマグナ宰相が前に出る。


「これにて謁見を終了とする。陛下、聖女様ご退出を」


 国王は頷き、終始無言のヒナタと共に奥へ消えていった。

 その後、上級貴族たちが先ほどの話をしながら退出していく。それ程までに大きな驚きであったのだろう。

 カインの事を狙っていた貴族たちの中にはため息をついている者もいた。

 自分の娘を送り込もうと思っていたが、王家に公爵家では太刀打ちできる筈もなかった。

 カインも退出したが、そのまま屋敷に戻れる筈もなく、いつもの応接室にメイドに案内された。

 一人で待つ間、紅茶を飲みながら時間を潰していく。

 そして、国王、マグナ宰相、エリック公爵、父のガルムが部屋に入ってきた。

 中央の席に座る国王はしたり顔だ。婚約をやっと発表出来たことが嬉しかったのだろう。


「これで安心だな。カインよ、今回は良くやってくれた。テレスティアからも「いつ発表するのですか」と責められておったからのぉ。さすがに上級貴族にまでさせないと嫁には出せなかったから丁度よかったわい」


 顎鬚を撫でながら笑顔で答える。


「いきなり発表でしたから、私も驚きましたよ。陞爵も聞いておりませんでしたし」


 ガルムも聞いていなかったようで、さすがに驚いていた。それでも笑顔でいるのは自分の子供が陞爵されたことが嬉しいのであろう。

 これからの事を一通り説明され、一時間ほどで解放されることになった。

 カインは精神的な疲れからぐったりとしながら馬車で屋敷に戻った。


 屋敷に入ると、コランやメイドたち従者一同が並んでいる。その後ろに飾られているドラゴンを含めて全員の視線がカインに集まった。


「ただいま。話すことがある……。今日の謁見で伯爵になった……。あと、正式に婚約が発表された。お披露目は二十日後になる。これから忙しくなるが宜しく頼む」


「「「「「カイン様、伯爵ご陞爵おめでとうございます」」」」」


 従者たちが揃って頭を下げた。

 従者たちにお礼を言い、カインは執務室に入った。

 今はコランとシルビアの三人になり、シルビアが淹れてくれた紅茶を飲みながら一息つく。


「まさかここまで早く上級貴族までなるとは……さすがカイン様です」


 自分の事のように喜ぶコランとシルビアは満面の笑みを浮かべる。しかもコランは執事、家令としてカインの不在時は王都の屋敷を守る必要がある。男爵家の執事になる時も公募の中のライバル達を押し退けカインの執事に選ばれたのだ。その当主がすでに伯爵まで陞爵したのだ。嬉しくないはずはなかった。


「これから少しゆっくりさせて欲しいよ……」


 項垂れるカインにコランは口を開く。


「まずは……これを処理しないといけませんね……」


 コランの送った視線の先には、山が二つほどあるカインと婚姻を希望する貴族達からの手紙があった。


 カインはその視線の先にある手紙の山を見て机に伏したのであった。



いつもありがとうございます。少し落ち着いたので今は更新を早めていくつもりです。

誤字、言い回し等のご指摘につきましては、書籍発売後行う予定となっております。

よろしくお願いいたします。

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