第十一話 犯罪者の末路
今話のカインは黒いです。
優秀な執事と言うべきであろうか。数時間後には情報は集まった。
ダルメシアの下僕達がどれだけの数いるかわからないが、王都中の情報がダルメシアを通じて入ってくる。その中で重要な事をダルメシアが選択しカインに伝えることになった。
「そうか……。わかった。すぐにでもその場所へ向かおう」
椅子から立ち上がり現地に向かおうとするカインをダルメシアが手で制した。
「それだけでは真犯人を一網打尽に出来ませぬ。夜に向かうのがいいでしょう。なぜなら――」
ダルメシアの説明に、カインは目を見開いたあと頷いた。
「うん。そうだね。そうしよう。一度王城に説明しにいく」
カインは王城に向かい、謁見を願い出た。
王城に呼ばれることは多々あるが、自ら謁見を望むのは初めてだったが、すぐに行われることになった。
いつもの応接室に案内され、国王が来るのを待った。案内したメイドもいつも緩い感じを出しているカインが、真剣な表情をしていることに少し驚きながらも紅茶を差し出した。
少しの時間を置いて国王、マグナ宰相、エリック公爵が応接室に入ってきた。
三人が座ったあとカインが席に座り、説明を始めた。
「実は犯人の目星は着きました。今日の夜にでも捉える予定です。それで騎士の派遣をお願いしたく参りました」
昼間に捉えると聞いていたが、まさか夕刻にはもう目星がついたと聞き、三人は驚かずにはいられなかった。
その後、このあとについて話し合われた。
全ての許可を得てカインは退出していった。そして三人だけが部屋に残る。
「こんなに早く情報が集まるものなのか……。カインの情報網か…・・・。まぁそれでも本日中に収められるならよいか……」
「陛下それでですね……」
マグナ宰相がニヤリと笑い密談が始まった。
密談が終わった後の三人は満足気な表情だったのは言うまでもなかった。
「畜生! あいつのお陰で計画が台無しだ……次の計画は……」
苛立つフードを被った男がスラム街を人目につかないように走り抜けていき、一つの建物に入っていった。
薄暗い部屋にはテーブルを囲み五人が座っている。その対面に勢いよくフードを被った男が座った。失敗に対して苛立ちながらテーブルを叩く。
「おい! どうなっているんだ? 聖女は回復しているじゃないか!」
「そう簡単に解毒ができる毒ではないはずなのだが……」
闇ギルド幹部の男もデルポネの毒を使ったことで確実に仕留められると思っていた。まさか解毒できるとは思っていない。
デルポネの毒とは、魔物の森の奥地にいる植物のデルポネという魔物から採られる素材だ。そのデルポネは普段はじっと動かず、近くを通る魔物を触手で捕まえ毒を流し込んで仕留めてから食していく冒険者ギルドではSランクと言われている魔物である。
「襲撃した小僧はすでに始末しておいた。足がつくことはない。次の手を考えるか……」
「あと数日で教国に戻ることになってしまう。なんとしても王国内で聖女を始末したい」
闇ギルドの幹部たちも多額の依頼金を受け取った手前、失敗すれば名誉に関わる。
「明日からの聖女からの行動を教えてくれ」
中央に座る男から依頼者に言う。
再度計画を練るために依頼者から今後の予定を聞く必要があった。
「明日は――」
「明日はないよ?」
依頼者の言葉を遮るように部屋のどこからか声が響き渡る。
その瞬間にその部屋にいる者たちは戦闘態勢をとった。
短剣を抜いて構える者もいれば暗器を手の中に潜める者もいる。そこまで広くない部屋にはどうみても部外者はいなかった。
「どこだっ!? どこに隠れていやがる!」
依頼者の男も焦りながら剣を抜いた。
その瞬間、何もない床から、二つの影が伸びていき、少年と執事服を着た壮年の男性が現れた。
「どうやってここに……」
闇ギルドの幹部もこの場所が簡単に割れるは思ってもいない。この部屋まで来るのにはいくつかの部屋を通り抜けて行かないといけないからだ。
「シ、シルフォード卿……!?」
「「「!?」」」
「――護衛隊長殿……何故この場所へ? まぁ……全てわかっていますがね」
フードを被って顔を見せないようにしていた男、――教国の護衛隊長もカインの言葉に驚きを隠せない。
そして、闇ギルドの幹部達も一斉に身構えた。闇ギルドの中でもシルフォード子爵の名前は知れ渡っている。過去にドリントルでは闇ギルドの支部長含め壊滅させられているからだ。
特に気にした様子もなくカインはここの部屋にいる六人に視線を送る。
「それで主犯は誰かな……まぁ全員捕らえるけどね」
カインは笑みを浮かべる。そして魔法を唱えた。
『
部屋にいる男達の影が動き出し、全員に纏わりついていく。
「なんだこれはっ!? 動けねぇ」
そして影は闇ギルドの五人をひとまとめに集めた。
護衛隊長に見向きもせずカインは五人の前に立った。
「誰が子供に聖女様を襲わせて、そして――誰がその子供を殺した?」
一気に冷たくなるカインの視線を浴びて、誰もが縮み上がった。それでも王都に根差す闇ギルドの幹部であろうか。肝が据わっているのが多い。まだ十代の子供に負ける訳にもいかず息巻いた。
「し、知らねぇ。そんな証拠は何もねぇはずだ? 貴族だからってやっていいことが――」
「黙れよ? さっきまでの話、全部聞いてたんだよ?」
「記憶にねぇなぁ……貴族様の勘違いじゃねぇか?」
まったく悪いと感じてない闇ギルドの幹部たちは、ニヤニヤとしながら平然と返事をする。
カインは白けた顔をし後ろで控えているダルメシアに視線を送った。
ダルメシアが一礼し、『
五人を囲んだ土壁は光を通すことなく、真っ暗な暗闇を展開させる。
「真っ暗じゃねーかよ!?」
「暗いのくらいたいしたことねーぞ?」
壁の中からは息巻いた男達が怒声を放っている。
そして『
――ガサガサガサ
――バサバサバサ
――カリカリカリ
――ブーンブーン
「なんか動いているのがいるぞ!? 何も見えねぇ」
その言葉にカインは待っていましたかのように答えた。
「何も見えない? なら見えるようにしてあげるよ」
『
土壁に覆われた真っ暗な空間にカインが魔法で照らす。
その瞬間、中で五人が見たものは――囲まれている壁面一面覆い尽くす蟲たちであった。
大型の蟻、蛾、百足、蝿、ゴキ――
ありとあらゆる蟲たちが動き出し男達に群がっていく。
土壁の中は絶叫が響き渡った。
五人は叫ぶが、影で拘束されたままであり身動きもとれない。
許されたのは叫ぶことだけだった。
カインとダルメシアはその声を何も言わずに聞いていた。
叫び声を聞いた護衛隊長はガクガクと全身を恐怖で震えさせている。
だが、絶叫していた声も十分を過ぎる頃には、静まり返っていた。
そして、未だ拘束されている護衛隊長に向き直った。
カインの視線を受けた護衛隊長は身震いする。
「わ、私は違う。聖女様を襲う加担などしておらん。何かの間違いだ!」
「ふーん。まだ言う? ダルメシア、五人を解放してあげて」
ダルメシアは一礼したあと、魔法を解除した。
下僕たちは影の中へ消えていき土壁も消えていった。
そこにいた五人は、糞尿を漏らし、口からは涎が垂れ、失神している者もいた。
その中にいた一人にカインは『ヒール』をかける。
「おい、起きろよ。もう一度聞く。誰が依頼者で誰が主犯で、誰が子供に手をかけた?」
カインの回復魔法で意識を取り戻した男は怯えたように答える。
「依頼者はそこの男だ! ギルドマスターが手配して、ガキを殺すように仕向けたのもギルドマスターだ」
先ほどの恐怖で震えている男は呆気なく白状した。
カインはその言葉を聞くと頷き、再度護衛隊長に向き直る。
「――だそうです。あなたはこの国の人ではないが、王国内の法律にのっとり処罰させてもらう」
「……私は知らん……」
「――そうですか、仕方ないな……。ダルメシア、同じのをたの――」
「待った! もしかしてさっきのアレか!」
「ええ、そうですよ? こいつも素直になったでしょう」
カインは黒い笑みを浮かべる。
「私の身に何かあれば教皇様が黙っておるまい! それでも――」
一瞬にしてカインの視線が冷め切った。その部屋の温度が一気に冷えたように護衛隊長は感じられた。そして拘束されて動けない護衛隊長の目の前にしゃがみこみ視線を合わせる。
「教皇様は、他国に行って聖女様を亡き者にしろとでも言ったのかい?」
「むぐっ……そんなことは……ない……」
可愛い子供としか見えないカインから漏れ出した殺気に震える護衛隊長は、カインから視線を外し答えた。
「この国で起きた事件はこの国で裁く。貴方の処罰はどうなるかは知らないけどね……」
がっくりしている護衛隊長を横目に、ダルメシアに視線を送る。
「もう騎士隊が周りを囲んでおります。そろそろ宜しいかと」
「うん、この六人だけは頼むよ。入口だけでも開けてこないと誰も入れないよね……」
「畏まりましたカイン様」
カインは六人を横目に外へ向かった。
カインから王城に依頼をしたことにより、衛兵、近衛騎士団含めて五十人ほどが指示された場所に趣いていた。
そして誰もが息を呑む。
その場所は城壁と同じ位だろうか、十メートルの土壁に覆われていた。
しかも数十メートル四方に渡ってだ。
「いったいいつこんな物が……」
いきなり出来た土壁を珍しそうに眺めるスラムの住人たち。
そして騎士たちも唖然としていた。
昼間まで住宅などがあった場所にいきなりこれだけの壁が出来上がっているのだ。驚かない者はいなかった。
そしてその中で一人、――ダイム副団長だけはカインの仕業だとわかっていた。
(街を壊さなければいいとは思っていたが……これはねぇよな……。なんだよこれ。要塞みたいじゃないか)
騎士や衛兵たちは入口のない要塞の周りを囲みながら上を見上げるしかなかった。
いつもありがとうございます。